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「国王陛下がお倒れになりましたッ!!」
その言葉が私の元へと届くのは、陛下が倒れてからそう時間はかからなかった。
殿下は心配した様子で、取り乱していた。
私はただそっと彼の隣で何も言わずにただそこにいた。
そして陛下の病名が天然痘と分かったのは、二人でお見舞いに行こうとした時だった。
「どうかこのまま直ちにご退出してください!!」
そう言われて私達は陛下の顔を一目も見ることはなく、ただただ陛下のいる部屋から最も離れた部屋に二人で隔離されたのだ。
「おじい様・・・・。」
ポツリと小さな声が聞こえた。
私は自然と殿下を見た。そして僅かに手が震えているのを見て、私は彼の肩に手を置いた。
『殿下…殿下がそんなお顔をされてはいけません。王族として、たとえどんなことがあっても前を見なくては・・・』
「・・・・・・・・・・・・。」
私が言えば殿下は下を見て、手の震えようと必死に抑えていた。
『・・・・ですが、今は私と貴方しかいません。私はアントワネット様ではないのでお胸を御貸しできませんが…思う存分お泣きになって結構です』
もちろん。泣いたことは誰にも言いません。
と私が笑って言えば、殿下は綺麗な目から涙が零れ落ちた。
そんな時だった、地鳴りのような音と何人のも声がだんだんとこっちに近づいてくる。
私はハッとして陛下の前に立ち、そしてここへ来るだろう人物たちが来るであろうドアを真っ直ぐ見た。
そしてバンっと大きな音を立てて開かれた扉には案の定、大勢の人間たち…その奥にはオスカル達の姿も見えた。
大勢の筆頭であるノアイユ夫人は一歩、私の前へと出て言った。
「こ、国王ご逝去・・・。」
その言葉に私の後ろにいる、殿下の様子は嫌と言うほど分かった。
だけど私達の事など気にしない自分のこれからのための稼ぎのために現れた者達は人が死んだと言うのに、悲しみもせずただただ笑っていた。
ギュッと思わず手に力が入る。
そんな私の気持ちなど知らないノアイユ夫人は私の手を取り言った。
「おめでとうございますアントワネット様、只今より・・・。」
そこでノアイユ夫人の言葉は止まった。それは私が彼女の手を振り張ったからだ。
私の顔を信じられない目で見るノアイユ夫人、なにがあったと驚く者達・・・・。
私は何も言わずその者達をジッと見つめた。
「ア、 アントワネット様・・・?」
私におびえた様子のノアイユ夫人。
私は視界の端にいたメルシー伯を見て彼が私の内情を察して頷いたのを見て私は行動に移った。
一歩、一歩と扉に向かって行く。私がノアイユ夫人に近づけば彼女は自然と足が後ろに下がっていく。
そして後ろにいた者達も同じように下がっていき、そして部屋から出ていく。
そして私も同じで部屋を出て、扉を後ろで閉めた。
殿下、一人を残して・・・。
そして私は目の前の者達を見て、静かに言った。
『今日はもう…お帰りなさい。言いたいことは明日聞きます。』
そう私が言えば、ノアイユ夫人はかみついてきた。
「で、ですがアントワネット様『ノアイユ夫人、私が笑って言っている間にとっととお行きなさいな。』
ノアイユ夫人の言葉を遮って私はほほ笑むんだ。
その笑みの意味をここ数か月の付き合いで察した彼女は顔を真っ青にして倒れそうになったのをメルシー伯が支えた。
私はメルシー伯と目があって、にっこりと笑うと彼はただ頷いて下がって行った。
私はもう一度、前を見てやってきた自分物を見た。
無表情で・・・・。
『人が死んだと言うのに…死者への弔いの言葉も、殿下にも労いの言葉も変えずに・・・自分の保身の事ばかり』
私はそう言いながら周りの人間の顔を見回した。
私はお前らの顔、忘れる事はないだろう。
『恥を知れ』
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