11
その男、マリオ・A.・ツェペリはここ数年間にずっと一人の人間を探していた。
その人物ならきっと世界を救ってくれると、確信していた。
まだ彼が幼い頃、何度も父に聞いた英雄の話・・・。
そしてその人物が生きていると風の噂で聞いた彼は噂を頼りにベネチアに訪れ、その人物が住まう城へとたどり着いたのであった。
その人物の弟子である二人の男に頼み込んで、ここまで連れてきてもらった。
彼は城の応接室で一人、静かに待っていた。
コンコン
扉のノック音にマリオはバッとその場に立った。
「失礼します。」
若い女の声、そして入って来たのはメイドである少女だと気づいた男は脱力するように椅子に座った。
少女はその態度に気を悪くすることなく、ニコニコと笑いながら持ってきたお茶をテーブルの上に置いた。
マリオはその姿を見て、家に残してきた子供たちを思い出して、自分の使命を思い出した。
あの子達を守るためには必ず、この城の主の力を借りなければならないのだ。
ギュっと思わず服を握りしめるマリオを見たメイドの少女は優しく笑顔を向けた。
「大丈夫ですよ、ジョナサン様は優しい方ですから」
自分の姿に緊張していると思ったのだろう、その気遣いが嬉しくてマリオは笑って「ありがとう」と言った。
少女はその笑顔につられて、更に笑みを深くした。
そしてマリオの目の前の席にもう一つのお茶を置く、それはこの城の主のものだと理解した。
「では、もうお越しなので私は失礼します。」
「えッ?」
マリオの驚いた声に少女は笑顔だけを返し、扉の向こうへと消えてった。
そしてガチャリと音を立てて扉が閉じた瞬間だった。
『…あなたがツェペリさんの息子さん?』
メイドの少女よりは年上だけど、それでも十分に若い女の声がその場に響いた。
彼はバッと声のした方向を見た。
一人の女性が閉じられた扉に背中を預け、その場に立っていた。
「・・・・・・・・・・・。」
マリオは驚きで言葉を失う、一体いつこの部屋にやってきたのだと・・・。
波紋使いの自分に気付かれずやって来た女性をただ唖然と見ていたマリオ、それを見下ろすように見ていた女は口を開いた。
『何を驚いているの?私が此処にいつやって来たってこと?・・・・それとも私が女って事?』
そう言った女性にマリオは確信をもって聞いた。
「あなたが・・・ジョナサン・ジョースターさん?」
女はカツカツと靴を鳴らして、マリオの前の前の椅子に座って答えではない言葉を吐いた。
『そうね・・・・あなた、父親に何を聞いた?』
質問に質問で返されて、マリオは言葉を失う。今日はやけに言葉が彼の口から無くなる日であった。
「何って・・・・。」
そう言って言葉を無くすマリオを女は机に頬杖をついて、下からマリオを見た。
『いろいろあるじゃない。私が女だったとか…私がもう人間とはかけ離れた存在とか。私が・・・・』
そこで言葉を切って、女は嫌な笑みを浮かべた。
『自分たちの無能さの犠牲になった、哀れな女だって…。』
「ッ!!」
マリオは体を硬直した、ピリピリと痛いくらいの空気に吐きそうな気分になった。
そうだ…彼女には自分たちを卑下する権利は十分にあった。
父はそれをとても悔やんでいた…死ぬまでずっと。否、死んで彼もきっと悔やんでいるに違いない。
彼女がこのベネチアの孤島で、家族と離ればなれに暮らしている責任は十分に父にあった。
そしてその父の息子である自分はつい先日まで彼女が喉から欲しがる暮らしをしていた人間だ、彼女が自分の罵る権利ある。
そう思い詰めているマリオ、そんな重い雰囲気を一瞬でぶち壊す声が響いた。
『ブフッ!!』
「へ?」
マリオは一瞬、それがなんお音だか分からなかった。
それが目の前の女から発せられた音だと気づくのに、数秒かかった。
恐る恐る女を見れば、肩を震わせて笑っている。
その姿に意味にマリオは意味が分からず硬直した。
『フフフフッ!!アハハハハハッ!!…ごめんッ!冗談。』
「は?」
先ほどの指すような雰囲気は無くなり、女は優しげに笑った。
『ごめん、ごめん。あまりにも緊張してるから…おもしろくて。ブフッ!!』
そう言ってまた笑いだす女にマリオは唖然としたままであった。
そしてようやく女は笑うのを止めた。
『ツェペリさんに対して恨みはないよ、彼のゾンビを倒しは十分やってくれた。私に土下座してくれたんだもの、それで十分だわ…それに息子のあなたを責めるなんて私の権利ではないわ。だから何も気にやまなくていいのよ・・・。』
「・・・・・・・・・・・・。」
そう言ってニコッと笑った女を見て、マリオはかつての父の言葉を思い出した。
「ジョナサンは優しいよ、優しすぎて…こっちが泣きそうになるくらいにね。」
言葉のとおりだと思った、彼女はあまりにも優しすぎる。
『初めましてマリオ。私が、ジョナサン・ジョースターよ』
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