10 相も変わらず





たった一言だけなのだ。

たった一言だけなのに、それが言えない

「いかないで」なんて女々しくて仕方がないけど、それが一番の答えだなのに

この言葉がどれ程、彼女を困らせる言葉だと自分は知っている

きっと口にすれば彼女は苦笑いしてきっと抱き締めてくれる

小さい頃からそうだったように…。我がままを言えば、苦笑いをして抱き締めてくれる

それで気分を良くした自分をまんまと翻弄して、離れていくに違いないと確信していた。

『じゃぁ、行ってくるね。アンジェ』

その言葉がとても重くて、すぐにでも「行くな!」と叫びたいのに…。

それを彼女は許そうとしなかった。

きっと彼女は俺の気持ちに気付いて、こうゆう残酷な事をするんだ。

俺が絶対に「行くな!」と言えない雰囲気を作る。

だから、俺はその仕返しに彼女に絶対に顔なんて見せてやらないんだ。

「見たかったら行くのをやめろ」そうゆう気持ちで帽子を目深にかぶった。

それを見た彼女はきっとあの苦笑いをしているんだろう。

フワッと彼女のシャンプーの匂いがしたと思ったら、優しく包み込まれていたのが分かった。

まだ中学生の俺では彼女の身長より低くて、すっぽりと彼女の体に収まってしまうのが男としてのプライドに少しの傷が入る。

(絶対に帰ってまでに身長なんて越してやる!!)

そしたら彼女を捕まえられるだろうか?誰よりも自由な彼女を…。

『手紙、書くね』

「俺は書かない」

『お土産、なにがいい?』

「なんもいらない」

『元気でね』

「毎日、風邪ひいてやる」

彼女の言葉にすべて否定の言葉を返すと、彼女は怒ることなく笑った。

『もう、今日のアンジェは冷たいな』

「お前が悪い」

そうだ、一人で勝手に留学するのが悪い。

『もうさーちゃんって呼んでくれなくなったし…。』

「誰が呼ぶか」

俺はもう子供じゃない

そもそも彼女は自分の事を赤ん坊扱いしすぎである。

もう自分は彼女の後ろをついて回っているだけの男じゃないんだ

今までのお返しのつもりで彼女の腕を引っ張る

『ぬおっ!!』

「「まぁ!!」」

「なっ!?」







楽しみは後にとっとくとして、俺は彼女に耳打ちした。

「約束、ちゃんと覚えてけよ」

(キスするフリして耳打ちしてます)

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