12 Q.可愛い者は好きですか?





『斉藤さん。ホラ、原稿。』

無事に一之瀬の原稿をもぎ取って来た私は時間ギリギリで印刷所に直接行って渡したのであった。

エメラルド担当の斉藤くんは走り際に「もう二度と、やめてくださいッ!!」とか叫んでいたけど無理だろう。

うちはデッド入稿のオンパレードだぞ、その筆頭がウチのエースである吉川だぞ。

そう思いながら『よろしくね〜。』と彼の背中に手を振った。

『・・・・・・・・・・・・・ふぅー』

終わったと思った瞬間、ドッとくる疲れを無視して私は会社へと足を向けたのであった。




『ただいまでーす。無事に原稿を送ってきまし・・・・・・た』

会社帰りのコーヒーショップで全員分を買ってきて帰ってきた私の前には・・・。

「どういう事か説明してもらおうか。なぁ、高橋」

ご立腹の様子の高野編集長のお姿でした。

「高橋」と言う名前をやけに強調されて呼ばれ、ビクッと思わず体が反応してしまう。

自己防衛本能が私に逃げろと言っているのだ。

『あ、あれ?井坂さんは・・・』

こういう面倒な事はすべて彼に押し付けて行ったハズなのに・・・さらに悪化している。

私はその場にいない井坂さんの姿を探すが、彼の姿はない。

「井坂さんはお前の正体だけをばらして言ったよ。綾部さん」

あのエセ笑い野郎ッ!面倒な所しかバラしてないじゃないか!

と、口に出そうとしたが目の前の高野さんの眼光が鋭すぎて何も言えなくなった。

『ハ、ハハ・・・ハハハハ』

もう笑い声しか出ない。

「ねぇ、あんなに狼狽えている綾部さん貴重じゃない?」

「木佐ッ!黙ってろ、綾部さんに聞こえるぞ!」

聞こえてるんだよ羽鳥くん!!そして木佐ッ!貴様は後で見てろ!!

まぁ、これ以上なにを言っても無駄だなと思って腹をくくった。

『すいません、騙すつもりはなかった…いや、あったな。ともかく!悪意でとかそんなんじゃなくて、高野さんの仕事ぶりを見てみたかったんです。編集者と働いては自分の事で精いっぱいですから。』

私の言う事を黙って聞いていた高野さんは大きなため息を吐いた後に私の前にスイッと手を差しだした。

『?』

意味が分からないと首を傾げる私は高野さんを見上げると。

「自己紹介がまだだったな。高野政宗です、エメラルド編集長をやらせてもらいます。前任の綾部さん同様にエメラルドを引っ張っていきたいと思います。」

あぁ、そう言えば私はまだこの人と正式に挨拶してなかったなぁと思った。

私は差し出された手を握って、握手をした。

『初めまして高野編集長。エメラルド編集部。通称、丸川の終電地。編集担当の綾部沙羅です。

私の力ではギリギリが精いっぱいでしたが、高野さんならエメラルドを収益一位はできると見てきて確信しました。

よろしくおねがいします。一応、元仮編集長なので精いっぱい尽力させていただきます』

私がそう言えば高野さんの普段の無表情か不機嫌のどっちかの顔がほほ笑むのを見てちょっとびっくりした。

「よろしくな、綾部。」

『はい。高野さん…あ、そうだ。コーヒー買って来たんで飲みましょうか』




コーヒーを配ってるときに一人の姿が見えなくて、探してみれば帰ろうとしている姿を見て声をかけた。

『横沢さん!』

手には彼の分のコーヒーを持って彼に駆け寄った。

コーヒーを買ったのはキッカケを作りたかっただけなので、目的の人物がいないと意味がなくなってしまうのだ。

「・・・・なんだ?」

相変わらず不機嫌そうな顔だなと思いながら、横澤さんに駆け寄ってコーヒーを手渡した。

『どうぞ、横澤さんの分も買ってきました。』

そう言えば彼は私の行動が予想外だったらしくて驚きに目を少しだけ見開いていて、コーヒーを素直に受け取ってくれた。

これが普段だったら絶対に受け取ってくれないだろう。

『それと、今日はすいませんでした。』

コーヒーを渡した所で本来の目的を遂行した。

頭を下げて誤って、顔を上げてみれば横沢さんの顔は何処となく2割増しで眉間のしわが寄ってる気がする。

でもそれは怒りとかそんな感じの表情じゃないってここ数日の付き合いで分かった。

「どうしてお前が謝る・・・。」

ポツリと聞き逃してしまうほどの小さな声が耳に入って私は彼の目を真っ直ぐに見て答えた。

『さっきは言いすぎたので誤っておこうと思って、横澤さんはただ純粋に高野さんを心配してたのに・・・それを貶しましたから。』

すいませんと言ってもう一度謝る。

そうすると頭上からクスクスと笑い声が聞こえて顔を上げれば、あの横沢さんが笑っていた。

今日はめったに笑わない人たちが笑う日だなと思って見ていると私の視線に気づいた横沢さんが口を開いた。

「いや、井坂さんから聞いた通りの奴だなと思ってさ」

『ゲッ!私の情報は井坂さんからですか・・・きっと3割は嘘だと思いますよ。』

あの人は人の過去を着色すぎる点が多すぎる。

噂を聞いた新人社員からヒーローを見る目で見られるのは勘弁してほしいのだ。

そう思っていると横沢さんはプっと噴出した。

「じゃあ、あの人の言ってることもあながちウソじゃないって事か。」

『まぁ、そうですね。』

そう言って笑う横沢さんに私もつられて笑ってしまった。

おぉ、もしかしてこれはいい雰囲気なんじゃない。

話してみれば横沢さんいい人っぽいし、気が合うかも・・・。

とそう思っていたら、横澤さんはハッとして顔をそっぽに向けた。

あ・・・やっぱりダメだったのかな?

そう思って少し落ち込んでいると小さな声が聞こえてきた。

「・・・・たな」

『へ?』

良く聞こえなくて聞き返せば、横澤さんは顔を真っ赤にして言った。

「だから、俺も悪かったな!!」

『・・・・・・・・・・・・。』

謝っているのに怒鳴り、そして顔は真っ赤な横沢さんを見て私はは一言。

『横沢さんって以外に可愛い人ですね。』

そうポツリと言えば本人に聞こえていたようで更に顔を真っ赤にした。

おぉ、すごい!!

「馬鹿なこといってんな!この馬鹿!」

ズキューン

あれ?今まで可愛い男の子にしか萌えなかったのに、すごい目の前の横沢さんが萌えに見えてきた。

『横沢さん、今度の新連載のヒロインのネタにしていいですか?』

これは是非作品に残さねばと勢いで横沢さんに言ってみれば、彼は更に顔を赤くして言いました。













「いい訳ないだろ!!」

A,大好きですッ!!

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