4 Q.託せる人はいますか?





美濃、木佐、羽鳥の少女漫画特訓を始めてからはや3週間。

男が乙女心を掴むのは難しいハズと思った私はまず視界から自分が乙女だとだまくらかすかと思って、大量の乙女グッズを買ってきた。

編集部にいそいそと買った乙女グッズを並べる私の姿を見て、井坂さんが爆笑してたのでとりあえずぬいぐるみを投げつけといた。

死人の目で入ってきた3人がごの部署に入って来た時の顔が忘れられない。

(写真とっとけばよかったな〜)

プルルルル

デスクの電話が鳴ってすぐ受話器を取る。

『はい。エメラルド編集「綾部さ〜〜〜〜ん!!(泣)」・・・・・・(キーン)』

受話器から聞こえる普通の音量を超える音に思わず受話器を離した。

「誰です?」と不思議そうに言う羽鳥に私は通話口を抑え、『作家の先生』と答えた。

この泣きつき方からして明らかに吉川先生だ。

吉川先生もとい吉川千春は私が見つけた原石と言っていい存在だ。

郵送で送られてきた原稿を見て、デビューさせようと思った作品だった。

まだ粗削りであるが、これは磨く価値があると思って私が鍛え上げた漫画作家の一人だ。

そんな吉川千春も今はエメラルドのエースと言ってもおかしくないほど成長した。
が。

「うえ〜〜〜〜〜〜〜〜ん。綾部さ〜ん。」

成長したのはどうやら性格以外らしい。

『わかった。今そっちに行く。』

ガチャっと受話器を置いて、鞄を持って立つ。

こっちを見て目があった羽鳥を呼んだ。

『羽鳥、一緒に来てくれ』

「はい。」

エレベータの中に入り一回のボタンを押した。

『ふぅ〜。』

エレベータ内の天井を見ながら思わずため息が出てしまう。

「煮詰まりですか?」

『あぁ、吉川千春先生からの電話だ。』

「たしかうちの売れ行きトップの漫画ですよね」

『そう。うちのエースの大先生なんだけどね・・・・煮詰まると泣く癖は新人の頃から一緒だよ』

「新人の頃からの付き合いですか?」

『まぁね、一応。先生をこっちに引き込んだの私だからさ』

「そうなんですか?」

『うん。私が一から天塩にかけて締め上げ・・・否、育て上げたのになんで羽鳥のように逞しく育ってくれなかったのか』

空しさで悲しくなり手で顔を抱えた。

それを見た羽鳥は笑うしかないような顔で苦笑いした。



ピンポーン

吉川千春の仕事場兼自宅のマンションのインターホンを鳴らし扉を開けた。

ガチャ

「綾部さ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!」

明けた瞬間見たのはこっちに向かってくる一人の男、彼が吉川千春もとい吉川千秋である。

私と羽鳥はそれは闘牛士が暴れ牛を華麗に避けるように、さっと避けた結果。彼は玄関の扉に大激突した。

「千秋・・・・やっぱりお前か」

そう言った羽鳥の発言に私は驚き、羽鳥に聞いた。

『なに、知り合い?』

「えぇ、一応幼馴染です。」

へぇと思いながら私は玄関先で痛みで悶絶している吉川を見た。

『苦労してるね、お互い』

「まったくです」

吉川を取りあえず、起こしてやって絆創膏をはってやる。

さっきまで泣いていた奴が気持ち悪い笑みを浮かべているのでとりあえず一発殴っといた。

「なにすんだよ!!」

『甘えんな馬鹿、それでもアラサーか貴様!!』

ビシッと指を差していってやれば、奴は少なからず傷ついたようにしていた。

「じゃぁ、このコマをこっちに写して後ろのこの話を前に持っていくのは?」

「いや、そのコマはそのままの位置でこのページの話をこっちに持ってきた方が自然になる」

「あぁ、そっか」

羽鳥と吉川が話し合ってる姿を見ながらコーヒーを飲みながら私は言った。

『そう言えば、吉川先生。』

「なに?」

『来月から担当編集、羽鳥に変更だから』

「「へ!?」」

見事に重なった二人の返事に関心する。

作家と編集はいわば二人で一人の存在で漫画を作り上げるのだ、この調子ならいいだろう。

そう思っているとバンッ!!と激しい音が聞こえ、ギョッとして目を向けてみると吉川が机に手をついて深刻そうな顔をしていた。

『吉か「なんで!?俺がダメダメだから?綾部さんが俺から離れるの嫌だ、嫌だ!!」

興奮したように叫ぶ吉川にびっくりしていると、羽鳥も私の前に立ち上がり冷静な顔で言った。

「自分も納得できません。慣れたって言ってもまだ俺は素人です。俺より綾部さんの方が適任に決まってます」

「そうだ。そうだ!!」

抗議の声まで一緒かいと内心呆れながらも、冷静にコーヒーカップを机に置いてまっすぐ二人を見た。

『羽鳥、私の後を任せるのはお前しかいないんだ。』

その言葉に反応した二人はなにかを察知したように言った。

「あとは任せるって・・・まさか」

『あぁ。』







『私、来月から十日間の休暇だから引き継ぎよろしくね☆』

「「はぁ!?」」

そう言った瞬間、吉川が私に怒鳴りつけた。

「綾部さんは俺と休暇のどっちが大事だって言うんだ!!」

『休暇に決まってんだろう馬鹿者が』

なにを今更と言って鼻で笑ってやる。

「トリ〜〜〜〜〜〜!!綾部さんは昔からああやって俺を弄んで捨てるんだ!!」

(おい、いつ私がお前を弄んで、捨てた。)

「すまん千秋、俺はあの人には逆らえない」

『二人が仲が良くて私、安心して休暇を心置きなく過ごせるよ』

そう言うと、吉川はキッと私を睨みつけて言った。

睨むと言っても潤んだ瞳で睨まれてもこれっぽちも怖くない。

「綾部の裏切り者!!」

『お前がデッド入稿なんてしなかったら、休暇なんて必要ないんだよ。』

そう言うと吉川は黙った。

もちろん胸倉掴んで説教してやった。




丸川への帰り道、電車に乗りながら羽鳥に言った。

『羽鳥、吉川千春の事よろしく頼みます。』

「はい。」

『吉川の前ではあぁ、言ったけど。本当にそろそろ編集を羽鳥に変えようと思ってるんだ』

そう言えば、羽鳥は驚いたように私を見た。

「どうしてです?」

『普通、大物作家担当まかされるの嬉しくない?』

あまり嬉しそうじゃない、羽鳥に逆に質問してしまった。

聞けば、羽鳥は私から視線を外し前を見て言った。

「たしかに嬉しいですが。今まで綾部さんがやって来た事が自分に出来るか、正直不安です。」

そう言った羽鳥に私は鞄から吉川のマンションを鍵を取り出し、彼に差し出した。

『私は自分の選択は間違ってないと思う、吉川千春の担当は羽鳥で間違いない。私は私を信用してるし、それ以上に…』

そう言いながら思わず頬が緩むのが分かった。









『あなたを信頼してるんですよ、羽鳥さん』

A.私が育てたんだ当たり前だろう。

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