1 Q.皆さん、自分の限界って知りたいですか?
丸川書店
都内一流出版社でジャンルは文芸、少年・少女漫画、青年漫画、BLなど幅広く、日本の書店に並ぶ多数はこの丸川書店の本と言っても過言ではない。
優雅な丸川書店の四階からは漫画編集部となっており、その階のサファイア編集部の隣にあるエメラルド編集部。廃刊寸前のその部署を人は「丸川の終着地」と呼んでいる。
廃刊寸前だが未だにエメラルドが保っているの一人の編集のおかげと言っても過言ではないだろう。
まぁ、そんな編集者の話はひとまず置いといて。
今、まさにエメラルド編集部は修羅場と化していた。
隣のサファイア編集部はエメラルド編集部から発せられる異様な空気に耐えながら仕事をしていた。
ダダダダダダダッ
一人の男性が息を切らしながらやってくるのを、エメラルド編集部の一人の女がその瞳に姿を映した。
「綾部さん、今。印刷所の人から連絡が『綾部は今、生理痛でトイレですと言っとけ!!』
男の言葉を遮り、怒鳴った彼女は視線をそらし机の上の漫画原稿と向き合った。
それを聞いた男性は冷や汗をかき、女性に言った。
「綾部さん、女性なんだからその返しは『通常の思考を持つ男なら生理の一言で黙って便利なんだよ。いやー。女に生まれてよかったな』
あからさまな棒読みで喜ぶ彼女、しかし手を止めず作業をしている。
彼女が廃刊寸前なエメラルドをなんとかギリギリで持ち越した人物、綾部沙羅である。
行動からして男性に間違われるが立派な女性・・・である。
プルルルルルルルルルル
デスクの電話が鳴り、彼女は瞬時にワンコールで受話器を取った。
『はい。月刊エメラルド編集部です。・・・・はい、はい。えぇ、だから少し待っていただけますかと言ってるんです!!・・・・はい。はい。え・・・・え』
ドサッ!!
電話中、彼女は白目を向いて倒れた。
それを見た男性も隣のサファイア編集部も悲鳴を上げた。
「ぎゃ〜〜〜〜。綾部さん気絶しないでぇ!!」
彼女に駆け寄りながら、男性は彼女を揺り起こそうとグワングワンと揺すった。
隣の部署から駆けつけてくれた人が気絶している彼女から電話をもぎ取って話す。
「綾部さん。気絶しましたんで、また後でご連絡させていただきます!!」
早口でそう言って彼女は一旦電話を切って、救急車を呼ぼうと受話器を手に取ろうと瞬間だった。
気絶している彼女がクワっと目を開き、その手を制した。
『よし、この騒動で五時間は足止めできる。』
そう言って彼女は時計を確認しながらあくどい笑みを浮かべ、平然と立ち上がった。
(((((((うそだったんかい!!)))))))))))
その場にいた誰もが驚愕した。
♪〜♪〜〜〜♪〜〜♪♪
もはや資料と原稿だらけの机から軽快な着信音が流れ、彼女は探すそぶりを見せず一発で携帯を探し出し、何事もなかったように電話を取った。
『はい。綾部です・・・先生、こっちは当分忙しくなるから、しばらく相川先輩に任すと言ったではないですか!!』
電話をとって数秒後、またも彼女の眉間が寄り地を這うような低い声が出る。
『はぁ!?横浜中華街に行きたい?』
その内容に周りの人々は電話相手が誰か分かり頭を抱えた。
『・・・・てめぇ原稿真っ白なまま送りつけてきた野郎が「横浜中華街」に行きたいって寝言は寝てから言えボケェ!!』
彼女は怒りのあまり、渾身の力で携帯を投げつけた。
A.そんなもの当に超えました。
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