24
馬車に乗る寸前、オスカルを見て私は彼の元へと足を運ぶ。
オスカルと近衛隊の副隊長であるジェローデルは私に気付いてサッと頭を下げた。
『オスカル、警備に問題はありませんか?』
オスカルはキリッとした顔立ちで私を見た。
「ご心配には及びません、王太子ご夫妻はこのオスカルが命に代えてもお守りいたします。」
それを聞いて私はニッコリと笑ってオスカルの横を通り過ぎるようにして彼の耳に呟いた。
『予想通り、オルレアン公がなにやら仕掛けるようです。』
「ッ!!」
オスカルの体が強張ったが私は話を続けた。
『オスカル、周りに十分注意するよう…あと犯人を決して自殺させぬよう。分かりましたね?オスカル』
「・・・・はい。」
私はその返事を聞いて、馬車に乗り込んだ。
パリは大勢の人々がいた。
何処を見回しても皆が私たちに手を振っていた。
私もそれに答えるために手を振る。
その時、馬車の横にいるのがオスカルではなくアンドレになっているのを見て私は悟った。
私は口を開く。
『アンドレ、オスカルは無事ですか?』
そう聞けば、アンドレは驚いきで目を見張った。
それはほんの数秒の出来事で、アンドレは笑顔になって頷く。
それを見てホッと胸をなで下ろした。
やはり彼は優秀だ、これから先・・・アントワネット様の護衛も彼に任せられる。
そう確信した瞬間だった。
「アントワネット!!」
耳元で殿下の声が聞こえた瞬間、私の視界は真っ暗になりすぐさま爆発音が響いた。
ハッとして私はその暗闇を取り払う。
殿下のマントだったそれは私を守るためのものだ。
ヒヒーーーーーーーーン!!
しまったと思ってももう遅い、馬の声と共に馬車の動きが不規則なものになる。
馬車を引く、二頭の馬のうち私側の馬が爆発音に混乱して暴れだした。
馬車が急に左に曲がり、私たちはそのまま左に打ち付けらる形になる。
やばい、このままでは馬車が民衆に突っ込む。
殿下はおろか、民衆が犠牲になってしまうっ!!
ジェローデルの声が聞こえた。
「まずい、馬を繋ぐハーネスを切らなくては!」
『なりませんッ!!』
私は口を大声を上げて、必死に言った。
「なぜです?」
ジェローデルは信じられないような目で私を見るが、そんなの知ったこっちゃない。
『このまま馬を自由にしたら、民衆目がけて突っ込むのが目に見えています!!それだけは許しません』
「ですがッ!!」
ジェローデルの言葉が続きを遮るように、馬が激しく暴れだす。
私の耳に民衆の悲鳴と共に、殿下が私の名前を呼ぶ。
「サラッ!!」
その言葉が合図だのように、私の体は動き出した。
重いドレスなんて気にせずに暴れる馬目がけて飛び乗った。
手綱を必死に掴んで、近くにいたジェローデルを見て言った。
『ハーネスを切って!!』
その声に弾かれるようにジェローデルはハッとして、剣を抜きハーネスを切った。
暴れる馬を何とか抑える。馬が自由になればこっちのものだ。
『どうどう。』
首を優しく撫でれば馬は大人しくなった。
フーッと私が息をついたときだった。
ワァーーーーーーーーーーーーー!!
体に一気に鳥肌が立つほどの歓声を浴びて、ビックリした。
人々は私を見て手を叩いてくれている。
だけど私にはそれが全く耳に入らなかった。
私の視線の先には思惑が失敗して悔しがるオルレアン公とドゲメネ侯爵の姿。
(おのれ、私の事はいいとして殿下もましてや国民の犠牲もいとわないというのか・・・・)
鋭く尖らせた眼光で二人を睨み付けた。
そして、二人は私の視線に気づき体を硬くさせた。
私の睨みに怯えるように体を震わせたのが遠くから分かった。
「アントワネットッ!!」
その声にハッとして視線を二人から外して声の方向を見た。
殿下が馬車から飛び降りて、私の元へと走ってくる。
それを見てなんだかホッとしてしまった私・・・。
グラリ
体はバランスを崩して、ドサッと誰かに受け止められたのが分かった。
アントワネットと叫ぶ、殿下の声が遠く受け止めてくれたのが殿下ではないと思った。
「・・・・・無事でよかった」
耳元で聞こえた声が震えていた。
ギュッと強く抱き締められ、その人の胸に顔を預けて私は気を失った。
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