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今日は珍しく重いドレスを着こんだ。
「まぁ、よくお似合いですわ。アントワネット様!!」
私の姿を見てノアイユ夫人が興奮気味に言う。
後ろで見ていたメルシー伯もニコニコとをほほ笑んでいるのを見て私は口を開いた。
『たかがドレスを着ただけですよ。』
そう言うとノアイユ夫人は食い気味に「いいえっ!!」と言った。
「アントワネット様は大変、お美しい方。アントワネット様にはどんなドレスも似合いますのよ!!」
『なるほど、私の顔は派手なドレスでやっとバランスが取れるのですね。』
そう私が言えばノアイユ夫人は大変困ったとゆう顔をして「アントワネット様〜。私を御からかいになるのはおやめ下さい。」
私はノアイユ夫人に笑みを浮かべて、部屋を出た。
なぜ私が今日、豪勢なドレスと着ているのかと聞かれればそれは一週間前の出来事に遡る。
『・・・パリに訪問ですか?』
その日は…てかほとんど毎日繰り広げられる晩餐会に久しぶりに顔を出したら、判事たちに話しかけられそんな話を持ちかけられた。
「はい。ご結婚なされた王太子殿下と王太子妃様には後日パリに行ってもらい、国民に幸せな姿を見せるのです。ですが・・・」
『ですが?』
変な所で言葉を切った判事の先の言葉を催促するように聞けば「近頃のパリの治安は悪くて・・・。」
その言葉を聞いて私は密かに眉根を寄せた、隣で警護してくれているオスカルには気づかれただろう。
治安が悪いと言うことはそれだけ人々が苦しんでいるという意味だ。
国が、国民が潤っていればそのような事は無くなるはずだから・・・。
そんな事を思っていると会話に参入してくる人物が現れた。
「判事、パリの治安についてはご懸念いたしますまい。」
その声に今度は隣にいたオスカルの眉根が寄り、さりげなく私の前に立とうと体制を変えようとする。
私はそれを誰にもオスカル以外に悟られないように制して、ニッコリと笑顔を作って目の前のオルレアン公を見た。
「それはまた何故ですかな?」
「王太子ご夫妻をお守りするためには近衛騎兵隊が付いている。オスカル・フランソワ・ジャルジェが率いる腕利きの近衛隊がな。」
よくもまぁ、ぬけぬけと言えるもんだと思いながらも私は笑顔を崩さない。
そんな私を見たままオルレアン公は嫌な笑みを浮かべていた。
「そう思いますでしょう?アントワネット様・・・。」
私は手に持っていたセンスをバッと広げ、口元に持っていく。
目だけをオルレアン公に向けて言った。
『そうですわね、オスカルなら大丈夫でしょう。彼なら悪事を目論む愚か者を止める事ができますから・・・そう思うでしょう?オスカル』
私がそう横のオスカルに聞けば、彼はニコリと笑い踵同士をビシッとくっつけて軍人らしく返事をした。
「もちろんでございます。私の命に変えましても王太子ご夫妻をお守りします。」
オスカルがそう言ったのを見て眉根を若干寄せた、オルレアン公を見て私は言った。
『あなたもそう思いますでしょう?』
センスの内側でニヤッと笑ってしまう自分の口を隠すためである。
『オルレアン公』
とまぁ、そんな攻防戦があってから数日後にパリの訪問の日取りが正式に決定したのである。
きっとオルレアン公が裏で手を回したんだろうなぁ、と思っていた。
ハルト…もといフェルゼンからの連絡もそんな感じのないようだったと思い出した。
そして何時ものノアイユ夫人のイベントであるドレス選びが始まろうとしていたので、今日もノーと断ろうとしたが彼女も私と付き合って理解したのか先に国王陛下の方に手を回されていて・・・今回は国民に顔を出すのだからちゃんとしたの着ろと言われてしまったので今回はその命令に応じなければならないのだ。
国民の前で意地をはってどうするのだろうか?
このフランスは財政はハッキリ言って良くない、その事を貴族、王族は理解すべきである。
国民の前で自分の権力を誇示するためにどんなに煌びやかな物を飾ってもそれは恐怖の対象になどはならず、逆に憎悪の対象になると言う事を知らないのである。
それを国の王である陛下は知っていながら自分の愛人に信じられない額の大金を渡すのだ。
王族とは国の象徴、手本となる存在。その人物があんな様では貴族もそれでいいと図に上がるのだ。
全く迷惑この上ない。
私と殿下の仕事をこれ以上、増やさないでほしいものだ。
廊下を歩いていると殿下の姿が見えた。
今日の殿下は一段と素敵でイケメンに磨きがかかっている。
後でアントワネット様に姿絵でも送ってさしあげよう。
「よく似合っているよ。」
そう言ってニッコリと笑う、殿下。くそう、イケメンめ・・・。
私はニコリと笑って、殿下に頭を下げた。
『嬉しゅうございます。殿下』
「さぁ、行こうか・・・サラ」
そう言って差し出された手を私は掴んだ。
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