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その知らせはあまりにも突然だった。
『え?デュバリー夫人がジャルジェ夫人を侍女にと陛下に申されたと・・。』
突然現れた内親王の叔母様たちになんだと思ってたらそう言われた。
「そうよ、アントワネットの人気に目をつけたんだわよ。あの売女!!」
「陛下のご寵愛をいいことに、あの女。貴方に挑戦するつもりなんだわ」
「いいことアントワネット。王の娘である私たち三人はあくまであなたの味方ですからね。」
それ以前に仲間になったのかと是非問いたいのだが・・・。
この前の事件からどうやら叔母様方は私が仲間になったと思って更に私に付きまとうというか・・・しつこくなった。
だが今回ばかりはそうは言ってられない事態になった。
まさか、前回あれほど私にかまうなよと念を押して忠告したのに。
まぁ、あれからあからさまな現れ方はしなくなったけど、まさかその余波がオスカルの所にいくなんて・・・。
『はぁーー。まったくなんて面倒な・・・』
「まったくです。あのデュバリー夫人には身をわきまえて欲しいものですな。」
そう言ったメルシー伯に私は驚いた。
何時も温厚な彼にしては珍しい、やはりオーストリアの国民性もあるのだろ。
まぁ、マリア・テレジア陛下が娼婦嫌いなのは有名だ。あの人は信仰心が強い方だからそうゆう神の教えに反することは嫌いなのだ。
分かるんだけどさ・・・実際そんな人生綺麗にできている訳じゃない。
ある日突然起きる悲劇に女が社会に出にくい時代に大金がもらえる仕事なんてあまりないのだ。
前そんな事をポロッと女王陛下に言ったら、分かってくれたようで女でも働きやすい環境づくりしていると聞いた。
「どうなさるのです?アントワネット様・・・」
メルシー伯の言葉にハッとした私は頭の思考を消して、メルシー伯に聞いた。
『なにがです?』
「ジャルジェ家の事です・・・・。」
『あぁーー。断りそうな感じなの?』
「オスカル様はデュバリー夫人の事を快く思ってないようですから・・・・。」
国王の命令ならもうそれは強制的なのである。
それを断ると言う事は国王侮辱罪に当たる行為になってしまい、結果。どんな嫌な命令でも受けなければいけないのである。
『自分の侍女ぐらい自分で勧誘すればいいじゃないの。』
「あの方はそうやって自分の力を誇示しているのです。」
めんどい考えしてるなぁ。
オスカルのこれからの事を考えると行動を起こさなきゃな・・・。
私はメルシー伯を見て口を開いた。
『メルシー伯、馬車を出しなさい。』
「はい。」
「オスカルッ!!」
ジャルジェ家の屋敷で大きい声が響いた。
呼ばれた本人であるオスカルは今、ベルサイユ宮殿へと向かう準備をしていた頃であった。
「何事ですか?父上・・・」
オスカルを呼んだ彼の父は息を切らせながら、オスカルの元へ走っている。
その様子にオスカルも傍にいたアンドレも首を傾げた。
「お前、今日はベルサイユに行かずここにいろ」
「なぜです?」
今日は別にこれと言った用事はない、それに近衛隊隊長である自分が休むにはそれなりの理由があると思ってオスカルは聞いた。
父は緊張した顔のまま口を開いた。
「・・・アントワネット様がここへ来る」
「アントワネット様がッ!!」
オスカルの父は重く頷いた。
『この前の晩餐会ぶりですね、ジェルジェ夫人』
私はニコヤカにジャルジェ夫人に挨拶をした。
「アントワネット様、お呼び立てしてくれたのなら私から会いに行きましたのに・・・。」
『いいのよ、私は自分の侍女を自分で勧誘するわ』
そのアントワネットの言葉にその場にいた者は皆驚いた。
今、デュバリー夫人からも申し出があるなかで態々王太子妃自ら出向いてここにやって来たのだ。
そのことの重要性を感じ取っている彼らを見てアントワネットはクスクスと笑った。
『と、言ったらどうします?』
その言葉に誰もが力を抜かした。
アントワネットはキリッと真面目な顔をして言った。
『私がこの前、デュバリー夫人を怒らしてこのような結果になってしまった。申し訳ない』
そう言った言葉におろおろするジャルジェ家をアントワネットは微笑ましく見た。
「お顔を上げてください妃殿下!!」
『だから、今回のデュバリー夫人の申し出はお断りしたいならしなさいな。』
「ッ!!!」
強張るオスカルの顔を見て私は安心させるようほほ笑んだ。
『安心なさい、国王陛下から私が言っておきます。』
私はその場で立ち上がり、背を向けた時だった。
「私がアントワネット様の侍女になるというのはダメですか?」
その言葉に私は足を止め、振り返る。
そこにはほほ笑むジャルジェ夫人の姿、私は驚いた。
『侍女になるという事はデュバリー夫人を敵に回しますと知っての発言ですか?』
私がそう聞けば彼女は頭を深々と下げた。
「私にはオスカルがいますから。それに・・・アントワネット様のお傍でお助けしたいのです」
『なぜ?と聞いてもいいですか』
「いずれ遅かれ早かれ選ばらなくてはならないのです。なら私はジャルジェ家を思ってくださったアントワネット様にお仕えしたいのです。」
そう言われてしまっては私は断れなくなってしまう。
やれやれ、厄介事(デュバリー夫人関係)が増えるなと思いながらメルシー伯を見ると彼も苦笑いをした。
『分かりました。では明日からベルサイユにお出でなさいな。』
『さぁ、オスカル。私と一緒にベルサイユに行きましょう』
話しがすんでそう言えば、オスカルは頷き馬の用意をすると出て行った。
私とジャルジェ夫妻が残り、ジャルジェ将軍が口を開いた。
「アントワネット様のお心遣い・・・感謝します。」
そう言った将軍に私はほほ笑み、言った。
『ジャルジェ将軍、あなたは立派なご子息をお持ちですね』
将軍は頭を私に深々と下げた。
「恐れ入ります。」
『貴族にしてはあまりにも真っ直ぐすぎる目です。』
「・・・・・・・・・・。」
『その真っ直ぐさはあまりにもベルサイユには似合わない。』
ジャルジェ将軍は思い当たる節があるようで、黙ったままだ。
『でもそれがオスカルの武器です。』
そう言った私の言葉にハッとした顔で将軍は顔を上げた。
『ベルサイユの誰も持ちえないあの曇りない瞳はいずれ大きな武器になる。』
驚いているジャルジェ夫妻を見て私は笑った。
『私と殿下・・・いずれのフランス王に必要なのはあうゆう人間なのです。権力におぼれず、金に目も眩まず、すべてを平等に受け止られるオスカルの武器こそが・・・。』
『いずれフランスを救うのですよ。』
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