17
誰もが驚いた。
あの冷静沈着で笑ったことのない王太子殿下が一人の少女に笑いかけていたのだ。
その笑顔を一心に受ける少女も王太子に負けないぐらいの素晴らしいかんばせをほほ笑みに変えた。
二人で仲睦まじく歩くその姿に女たちは嫉妬し、男達は唖然とした。
「皆の者、紹介しよう。」
王太子が隣にいる少女の背中をポンと押して一歩前に立たせた。
少女はシンプルなドレスを着ているが体からにじみ出る高貴な印象が彼女を王族と物語っていた。
ドレス単品ではベルサイユに相応しくないと言われようが、彼女は装飾品などを使わずに自分の身一つで王族と証明したのであった。
そして何よりも印象的なのは瞳だ。
気弱なんてものは微塵も感じられない強い意志を持った瞳があたりの貴族達を見てニッコリと笑った。
それは気さくな笑みなどではなく、戦いに挑むようなそんな瞳であった。
「王太子妃のマリー・アントワネットだ」
王太子の紹介と共に彼女、マリー・アントワネットは綺麗にお辞儀をした。
貴族達も彼女に釣られるようにお辞儀をした。
そして王太子は口を開いた。
「今日は古いしきたりは抜きにしてもらいたい。アントワネットは内気なのだ、最初は皆から話しかけてもらえるとありがたい。」
そう言って王太子の言葉にざわめきだつ。
高貴な人間に身分の低いものが声をかけるのはベルサイユではご法度なのだ。
それを今日は無くせとは最初は驚くだろうが、アントワネットは周りの貴族を見渡してニッコリと笑った。
夫人たちはこぞってマリー・アントワネットに話しかけるのであった。
「初めまして、アントワネット様。わたくし・・・・・」
私の脳と目はフル回転で作動中である。
目では相手の服装、動作をみて頭では相手の人柄、性格を見ては脳内でメモをする。
この人は仕事内容に対して、異様に煌びやかすぎる。
見栄を張ってこの服装ならいいのだが、もしかしたら民の税金を横領している可能性があるのだ。
私は目の前の人物の夫について調べなければいけないと思い、頭の中で赤ペンで丸を書く。
これが狙いだったのだ。
誰もが私に印象付けようと自慢話をする、それがこの人の地位、仕事がらに合っているか。
それを自分から聞く手間を省くため、自分から声をかけてもらえるように王太子殿下に頼んでもらったのだ。
私は笑顔で話を聞きながら横目で王太子殿下を見た。
王太子殿下もあっちでいろいろやっているようだ。
あの人は未熟だが優秀な人だから、きっとうまくいくと信じている。
この様子じゃぁ、長期戦になりそうだと私は思いながら相手に気付かれないよう小さくため息を吐いた。
長期戦に突入しそうです。
[*prev] [next#]