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その後。アントワネットの噂は行く村で行く村で話を聞くのだが、本人は何時もその前には旅立っていると聞く。
以外に王族の姫は行動力があるのだと感心したオスカルである。
最初は我がまま、じゃじゃ馬と言っていたオスカルも行く先々で聞くアントワネットの行動に尊敬の念を抱き始めていたのだった。
「アントワネット様はやはり聡明なお方だ。物の物価、税金、医療費などを聞きこんで、フランス状勢を知ろうとしてくださる。こんないい人はいないと思うんだが、どう思うオスカル?」
アンドレがそう聞いてオスカルは素直に「そうだな」と答えられなかった。
それは今のフランス王ルイ15世を知っているから、彼はたしかに素晴らしい王だが愛人が出来た途端に国民の税金で甘やかす。
どんなに聡明な人でもあっとゆう間に人は変わってしまうんだと、オスカルは知っていた。
「どうだかな・・・。」
そのオスカルの発言にアンドレは笑った。
「またまた、そう言ってお前も期待しているんだろ?アントワネット様に・・・」
「・・・・・・・・。」
オスカルは答えなかった、アンドレはその様子に満足そうに笑った。
「隊長ッ!!」
近衛隊の隊員が焦った様子で此方にかけてくるのを見て、オスカルは何かあったと悟った。
「どうした?」
「今、この村にそれらしき人物がいると報告を受けました。」
その報告に二人は驚いた。
「ッ!!本当かッ!!」
「はい。それらしき人物を発見し、何名かをお傍に配置し指示を待っております。」
その言葉にやっとかとオスカルは内心思いながら、うなずいた。
「わかった、私も行く。」
「おねぇちゃん!!もっかいやって、もっかい」
目をキラキラさせて喜ぶ子供たちに私もほほ笑む。
『じゃぁ、もう一回ね。いい?』
「うん。」
先ほどその遊びを教えて子供と一緒にやる。
それは私が前世で覚えて手遊びである。
『「せっせせーの、よいよいよい。アルプス一万尺・・・」』
平民の子供と楽しく、戯れている一人の女が目に入る。
女は目深にフードかぶっていて顔は見えないが、声色が優しさに満ちていた。
子供たちもそんな女に心を許して一緒に遊んでいる。
「キャハハハハ。もう一回、もう一回だけ。おねえちゃん!!」
『はいはい。分かりました』
そう言って子供たちの笑い声が響く。
オスカルは緊張した面持ちでその女に近づいた。
本当にマリー・アントワネット様なのか、それは期待通りの方なのか?
その疑問だけがオスカルの中でグルグルと回った。
そして彼女の背後に立つ。
「貴方が、マリー・アントワネット様ですね。」
『・・・・・さぁ、みんな今日はお帰り。』
そう言って女は子供たちを家へと帰した。
そしてゆっくりと振り返り、その青い目と目線があった。
オスカルは目を見開いた、そして直観で感じた。
この人が、アントワネット様だと。
そう思わせるほどの高貴さが、彼女からにじみ出ていたのだ。
『お迎えがとうとう来てしまいましたか・・・。』
そう言ってアントワネットは苦笑い気味に言い、スクッとその場で立ち上がって綺麗な礼をした。
『初めまして皆さん、オーストリアから参りました。マリー・アントワネットでございます。』
王族の方に挨拶されるとは思ってなかった近衛隊は慌てて自分たちも礼を取った。
それを見てイタズラが成功した子供みたいにクスクスと笑ってオスカルを見た。
『あなたの名前は?隊長さん』
そう聞かれて自分が名乗ってない事に気付いたオスカルは頭を下げた。
「名乗りもせず申し訳ない。私はフランス近衛隊隊長オスカル・フランソワ・ジャルジェです」
『そう、オスカルというの。』
そう言って悲しげにほほ笑む、アントワネットの笑顔の意味を誰も知らない。
そして辺りを見渡して首を傾げていた。
「いかがなさいましたか?」
オスカルは疑問に思ってアントワネットに聞いた。
『私の国の者が居ませんが…私の証明人として読んだはずですが』
そこまで言われては彼女を偽物とは言い難かった。
その情報はベルサイユの人間でもごく少数しか知らない、オスカルも今日知ったところだったのだ。
フッとほほ笑んでオスカルは言った。
「オーストリアの方でしたら、アントワネット様の確認をしています。」
『私の?』
「えぇ・・・・、その。自分がアントワネット様だと名乗る人物が大勢出ましたから」
それを聞いたアントワネットはキョトンとした後に肩を震わせて笑う。
「アントワネット様?」
『フフ、そうでしたか。ハルトには災難な役目をやらせてしまいました…そうですか。もう次の手を打ってきましたか』
そう言って笑うアントワネットに聡いオスカルはその言葉の意味を気づいてしまう。
「まさか・・・アントワネット様」
『なんですか?』
「ご自分を襲った者の正体を知っておいでなのですか!」
その言葉に近衛隊の人間とアンドレは凍りつく。
それは重大な事であるから…。
だがアントワネットは笑ったままで答えようとはしない。
「アントワネット様!!」
オスカルが問いただすように大声を上げるが、彼女はビクともせずにいた。
『オスカル、余計な詮索をしない方がいいわ。じゃないと・・・命を落とす結果になる。』
「・・・・・・・・。」
『これは私たち、王家の問題です。喧嘩を売られたのは私…きっちりカタは自分でつけます。』
そう言うアントワネットの鋭い視線に囚われたオスカルは何も言う事が出来ない。
アントワネットは鋭い表情から、一転して優しくほほ笑んで言った。
『オスカル、あなたは幸せになりなさい。』
そう言って誰よりも綺麗に笑った。
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