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「なにッ!!アントワネット様がフランスにいるだと?」
それを聞いたのは王室を守る隊長のオスカル・フランソワ・ジャルジュである。
鋭い視線を同じ屋敷に住むアンドレに向けたのであった。
彼はこの前の引き渡しの時にライン河で警護をしていたのだ。
だが、肝心のマリー・アントワネットが崖から転落の話を聞いて戦争に発展するのではないかと心配したものだ。
アントワネットの無事を聞いて誰よりも安心した人物である。
いつ、アントワネット様がフランスに来るかと思っていたのにいつの間にか来ていると聞いて彼は驚いた。
アンドレはオスカルの鋭い視線を浴びて、怯えながら答えた。
「あ、あぁ。極秘事項らしいんだが、アントワネット様はどうやらご自分の足でフランスに行くと言ってな。お供の人間を誰一人もつけずにこのベルサイユに向かってるらしい。」
それを聞いたオスカルは忌々しいような表情をしていった。
「なんと愚かな。自分の身になにかがあったら、戦争に陥るとゆう事を知っているのかあの女は!!」
怒りをあらわにするオスカルにアンドレは苦笑いしながら言った。
「落ち着けよ、オスカル。アントワネット様は聡明なお方だ」
そう言ったアンドレにオスカルは声を上げる。「どこが!!」
「誰よりも賊の存在と気づいて、自分よりもお付の人間を逃がしたそうじゃないか…それを聞いたフランス国民は驚いているぞ。王族が自分よりもお付の人間を優先したと。国民は新しい王太子妃様に期待しているぞ」
それを聞いたオスカルがグッと言葉に詰まるが、すぐに反論する。
「それでもご自分の立場を考えるべきだ!!」
そう言い合っている二人の所に、オスカルの父が二人の前に現れた。
「オスカル、お前にアントワネット様の捜索の認が下った。」
そう言われてオスカルはキリッとした顔をして「わかりました」と返事をした。
すぐ見つかると思ったマリー・アントワネットの捜索は以外に困難を極めた。
いくら変装しても王族は王族、その高貴はふるまいを隠せるわけがない。
それにそんな高貴な方がフランスの平民の生活を見たらすぐに迎えに来いとばかりに助けを呼ぶと思ったが、その話も聞かない。
仕方ないと思ったオスカルはとりあえず、国境近くにある村を訪ねたのだ。
「ここに女性が訪ねてこなかったか?」と・・・。
そして以外にも反応があった。
「あぁ、来たよ」
その言葉にオスカルはすぐに問いただした。
「その人は今、どこにいる!!」
オスカルの鬼気迫る様子に驚きながら男は答えた。
「子供を弔った後、この村をすぐ出たよ」
「子供?」
オスカルの疑問形の言葉に男はなぜか嬉しそうに頷く。
「あぁ。ほら、あれだよ」
そう言って男が差した方向を見た、オスカルたちは目を見張る。
そこには数々の十字架と花、花、花の光景だった。
「子供一人一人に墓を作ってくれてたのよ、一人でな…。俺たちもそれを見て手伝ったんだ。あの人は泣いてたよ、ずっとずっとただ静かに泣いてたよ。」
だけど・・・。
そう言って男は遠くを見ながら誇らしげに言った。
「あの人には強い意志があったよ、何よりも強い意志があったよ。」
「・・・・・・・・・。」
オスカルはただ驚くばかりであった。
この村は治安が悪い。
大人たちは死んだ目をして、盗みや殺し、強盗をはかるこの村でこんな穏やかな目をするのは初めて見た。
これはあのじゃじゃ馬と呼ばれる姫がやったのか?
驚いている間にも男は話を続ける。
「あの花はその人が持ってきたんだ。もう三日たっているのに、枯れやしない。」
だから早く探しに行った方がいいといった男はオスカルたちを見送った。
そして去り際に伝言を頼まれたのだった。
たった一言「ありがとう」と…。
その後、マリー・アントワネットが供えたその花は何時までも枯れることなく咲き続けたという。
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