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シェーンブルン宮殿はブルボン王朝の離宮として後世では世界遺産としてたたえられている。
この宮殿はマリア・テレジア陛下が完成させた宮殿なのだ。
そんな宮殿の全盛期に私が居れることを感謝します。
私は今、この国で最もえらい方の前にいる。
『お久しぶりです。陛下・・・サラでございます』
母に叩き込まれた作法を駆使して私は陛下にお辞儀をした。
頭を深々と下げる私の耳に威厳のある声が響く。
「久しぶりですね、サラ。大きくなりました」
そう言われて私は更に頭を深々と下げる。
『陛下にお目に留まり、僭越至極に御座います。』
「そんな肩ぐるしい振る舞いはよい。それよりサラ、頭を上げて私の願を聞き入れてくれるか?」
そう言ったマリア・テレジア陛下に聞かれたら「yes」とゆう言葉以外に答えを持ち合わせない私は頭を上げた。
そこには相変わらずのお姿のマリア・テレジア陛下とそして見覚えのない男達が二人。
見たところ、フランス人のように見えた。
(なんでここにフランス人が?)と思いながらも私は真っ直ぐにマリア・テレジア陛下を見つめた。
「お前を呼んだのはな、サラ。この二人に関係している事なのです。」
そう言って陛下は私に二人を紹介した。
二人は私の予想通り、フランスの外交官であった。
私の予想が真相に変わった途端、謎が増える。
なぜフランスの外交官を私に会わせる?
私の母はたしかに王室の血を引いているが私は王位継承権は51位と格下の人間である。
そんな私になぜ?マリー・アントワネット様なら分かるが・・・・。
そう私が思っている事を陛下は見透かしているように口を開く。
「貴方の予想通り、これはマリーに関係している事です。」
そう言われてしまったら私は黙って話を聞かなくてはいけないなと思って私は陛下が示してくれた椅子に座って、聞く体制に入った。
「実はサラ、あなたには・・・。」
「一週間後、フランスに嫁いでもらいます」
その言葉に私は驚くことはなく、ただ息をのんだ。
本心は違う、本当はここで絶叫したい。
けど14年で両親に叩き込まれた事が王族の前で取り乱すなと言う言葉だけが私を正気へと留めていた。
だがその考えは次の瞬間なくなる。
「・・・実はマリーが病気になりました。」
ガタっ
思わず椅子を倒すほどの勢いで上がってしまった、けど私の頭には一つの事しかない。
マリー・アントワネット様がご病気になられた。
その言葉を聞いた瞬間、全身が震える。
あの方が病気、病気、病気。
現代の世なら病気は病院にいけば大体のものは治るが、ココは違う。
数百年前の医学では治らないものが多い。
病気一つでそれは死をも表せられるものがあるのだ。
動揺で体が震えるのが分かった。
あの方は大丈夫なのだろうかと、ずっと頭のなかで疑問の言葉しか生まれない。
そんな取り乱した私をみて陛下はほほ笑む。
「自分の事より、マリーの事を案じてくれるあなたの忠誠心には感服します。大丈夫ですよ、サラ。命には別状はありません。」
その言葉を聞いた瞬間、スッと付き物が落ちたように体が軽くなった。
本当によかったと何度も思いながら、私は陛下を見た。
『私は姫様の代わりとしてフランスに嫁ぐのですね』
そう聞いたら、陛下は首を横に振られた。
「正確には違います、サラ。貴方が知っている通り、この結婚はフランスとオーストリアの国交のためのものです・・・ですがそのためのマリーが病気で今のあの子ではフランスには行けないのです。ここでフランスとの仲たがいはお互い避けたいのです。だからマリーとそっくりなあなたにあの子の病気が治るまでフランスの姫として居てもらいたいのです。」
そう言われて私の目が大きく開いた。
そして陛下はフランスの外交官に聞こえないように私に近づいて行った。
「サラ、フランスは今や貴族や王族が民を苦しめているのです。そんな所にあのいい意味でも、悪い意味でも純粋なあの子を送ってしまえばきっとその空気に流されてしまいます。貴方は聡明な女です。サラ…その知性と豊かな感性を生かしてフランスを変えてみなさい。」
そう言われて私は更に動揺した。
この私はフランスを変える?
私は両親程の否・・・陛下ほどの知性などとてもない。
私にはそんな力なんてない、そう言おうとした時だった。
陛下は大きな声で言った。
「サラ、これはマリーと民のためです」
そう言われ、私は開いた口を閉じて違う言葉を発すべくまた口を開いた。
『分かりました。お受けします』
そう言えば、フランスの外交官から喜びの声があがり陛下は満足そうに微笑まれた。
私は今、歴史に関わる大きな選択と決断を下したのだった。
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