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オーストリアの女王、名君「マリア・テレジア」
そんな彼女の娘であるマリー・アントーニアがフランスに嫁ぐ話は国中で有名だった。
それはもちろん私の住む領地でも同じことであった。
そこはオーストリアの隅っこにある小さな領地のであった。
ここの領主である男のその妻はとても知性のある方々で領民から好かれていた。
そんな二人の娘であるサラ姫も意志を受け継ぎとても民草思いの姫に育ったのであった。
そんな小さな領地の城に似合わない騒がしい足音が響く。
「姫ッ!姫。サラ姫!!」
自分の名を呼ぶ声に一人の少女の本を読む手が止まった。
そして顔を上げると同時に部屋から入った一人の男を見て彼女は口を開いた。
『そんなに騒いで・・・なんです?』
気品を持ったたたずまいの少女は真っ直ぐに男を見つめた。
男はどうやら走ってきたようすで息を乱しながら、神妙な面持ちでそこに立っていた。
『ハルト・・・あなたでしたか。どうしたのです?』
そう少女が聞いて、男は姿勢を正して答えたのだった。
「姫、マリー・テレジア女王陛下が姫をお呼びです。すぐさまシェーンブルン宮殿に来るようにと」
そう伝えられた少女、サラはスクッと立ち上がった。
オーストリア女王であるマリア・テレジアに呼び出されたと知ったのにもかかわらず堂々とした面持ちで立っていた。
『すぐ容易します、ハルト。馬車の容易を・・・』
「ハッ!!」
シェーンブルン宮殿に向かう馬車の中でアレクサンドラは遠い日の事を思っていた。
遠い日、それは彼女の前世の物語・・・。
私は前世は日本の一般的な会社員の女だった。
そんな一般的な私のはずだったのだが、なぜか自分は気づいたら中世のヨーロッパの小さな領地の姫として生まれていた。
最初は戸惑っていたが、5歳を過ぎたころから腹をくくった私。
なれるようになれと思った。
幸いに私の両親はとても知性溢れる人たちで民を愛し、愛されるとても素晴らしい領主であった。
そんな二人の元で育った私も両親に憧れ、自分もそんなふうに民の役に立つ人になりたいと心から思った。
その力を私は持っている、ただの一般人の私ではない。
直接的に私は民を救える力を持っているのだと、自分の地位に感謝しそしてその重大な責任にいつも身を引き締めるばかりであった。
そんな私には少し、心配することがある。
それは我が女王マリア・テレジア女王陛下の娘であるマリーアントワネット様の事である。
歴史を知っている人なら聞いたことがあるだろう、マリーアントワネット
フランス王国の悲劇の女王である彼女の生きる時代に私はいるのであった。
だけど私が彼女の事を知っているのは学校の歴史の授業ではなく、それはテレビの影響であった。
まぁ、20代以上の人なら言聞いたことはあるだろう「ベルサイユのばら」私はそれを幼少の頃に母の影響で見ていたのだ。
だから私にとって本当のマリー・アントワネットよりテレビのマリー・アントワネットのほうがずっと身近にあったのだ。
何を心配するのと聞くのだろう?
ここはそのベルばらの世界なのである。
なんで?それはね・・・・私の顔テレビで見たまんまなのである。
鏡を見てびっくりしたよ。あのテレビでみたまんまの顔をしているのである。
きっと他人の空似だと思ったのだけど、どうやらマリー・アントワネット様も私にそっくりらしい。
そんな噂を聞いて私は絶望したのだ。
ここにはあのもう一人の悲劇の女がいる。
オスカル・フランソワ・ジャルジュ
あの人は好きな人とやっと結ばれたのに、その余韻さえ残せずに死んでしまったのだ。
なんて悲しい人だろう。
見たときにそう思った、そんな人が国境を越えてだが近くにいるのだ。
それを知ってしまった私は知らないフリをできるだろうか?
今年はマリー・アントワネット様がフランスへと嫁ぐ年、始まるのだ。
あの悲劇の物語が・・・。
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