32





突然現れた第三王子に扛帝国は揉めていたが、正真正銘のシンドリアの王であるシンドバットの発言によってその場は無事に収まった。

「いい事っ!!明日、絶対に必ず!王宮に来ることよッ!!」

そう言って去って行った紅玉をにこやかに見送ったアリババはふと横に立っていた男を見た。

男もアリババの視線に気づいてアリババを見て、そして人当たりの良さそうな笑顔をアリババに向けた。

「やぁ、君がアリババくんだね。俺はシンドバット、シンドリアの王だ」

そう言って友好的な笑みを浮かべるシンドバットを見ていたアリババも数秒の間を置いて、つられるように笑った答えた。

『初めまして、シンドバット王。貴方の噂は幼少の頃から父に聞いております…今回は我らの国を心配してくださって態々遠いシンドリアに、亡き父に恩義を感じたとしてもそのお心にどれ程のお礼の言葉を並べても足りません。国を…民を代表してお礼を申し上げます。』

そう言って深々と頭を下げたアリババにシンドバットは驚くばかりだった。

見た目はまだまだ小さい子供だと言うのに、もう王族の責務を理解している目の前の少年に只々驚くばかりなのであった。

そんな二人の間にズカズカと苛立ちが見える歩き方で現れた男は思いっきりアリババの頭を殴った。

ゴツンと大きないい音を立てた。

『いって「来るのがおせぇんだよ!!」

殴った張本人、カシムはアリババが痛みに声を上げる前にアリババの胸倉を掴んだのである。

怒り心頭のカシムを見てアリババは二ヘリと情けない笑みを浮かべたのであった。

「悪い、悪い。本当はずっと前から居たんだけど…俺の動向を奴に感づかれるわけにはいかなくてな。今まで黙ってたんだ」

そう言ったアリババにカシムはカッと目を見開いて言った。

「だからってなぁ!!俺やマリアムや皆がいつ帰るのかも分からないお前を待っている間にどんな思いをしたかッ・・・・」

そう言って言葉をつまらせたカシムを見た霧の団や妹のマリアムもカシムと同じに悲しげな顔を見せた。

それを見たアリババは苦笑いをして、カシムの肩をポンポンと叩いて言った。

『今までよく国を守ってくれた。お前が裏でいろいろやってくれたんだろう?じゃなきゃ今頃、本当に国で内乱が起きていたかもしれない。ありがとうカシム。本当にありがとう。』

そうアリババが言えば、カシムはガクッと首を落とした。

アリババは下を見ることはなかった。

彼は見られることを極端に嫌うから、ポタ、ポタと地面に零れ落ちる音を聞いていた。

『ごめんな、来るのが遅くなって…もう大丈夫。あとは俺が全部やるから・・・・。』

そう言ったアリババの言葉を聞いたカシムはバッとアリババを見て叫ぶように言った。

「俺らでだろうがッ!!馬鹿野郎。」

そう言われたアリババは驚いた顔をして、今度は嬉しそうに笑った。

『あぁ、そうだな。』




カシムを慰めようと、ポンポンと肩を叩いていた時にアリババの見知った顔が見えた。

懐かしい顔に思わず顔が綻び、そして名を呼んだ。

『アラジン、モルジアナ。よく来たなッ!!』

そうアリババが言えば、まん丸い目を更に真ん丸にしていたアラジンはバッとアリババ一直線に駆け出して。

そして、タックルと言わんばかりに抱きついた。

「アリババ君ッ!!会いたかったよ。」

『グ・・・・・熱烈大歓迎だな。アラジン』

よろけながらもアラジンを受け止めたアリババ、手をアリババの背中に当てて優しくさすった。

『悪いな、アラジン。約束は…少し遅れる』

そう申し訳なさそうに言ったアリババにアラジンは笑顔で首を振った。

「ううん、ここまで来るのに十分冒険だったさ。だから大丈夫。これも冒険だと思えばいいのさ!」

アラジンの言葉にアリババは嬉しそうに笑って、彼を抱き締めた。

『相変わらずだな。俺もお前も・・・。』

そしてふいに顔を上げたアリババはアラジンの後ろの存在に目をやってニッコリと笑って声をかけた。

『モルジアナ。』

「・・・・・・・・・・。」

アリババが声をかけても相も変わらずの無表情に、アリババは苦笑いになった。

そして片方の手をモルジアナにさし出した。

『お前の中の俺はちゃんとお前を救えているか?』

そうアリババが聞いた瞬間、モルジアナの目は大きく開かれてそしてクシャっと表情が崩れた。

震える手でアリババの手を掴み「は・・・い。」と小さな声を出した。

アリババはただ笑って『そうか。よかった』と笑った。

それをかわきりに今まで黙っていた霧の団の連中は一気にアリババに近づいた。

一瞬にして見えなくなったアリババを見て、シンドバットは感心していた。

「まだ17歳とは思えないな…アリババくんより年上な奴だって言うのに、雰囲気は誰よりも大人だ。」

視線を向けてば霧の団に一人である大の男が泣いているのをアリババが慰めている図であった。

それだけでどれ程、あの少年が回りに信頼されているか分かる。

「それでも…まだまだ子供です。」

ピシャリと切り捨てるようにシンドバットの横に立っていた男、ジャーファルは言った。

それを聞いたシンドバットは苦笑いをしたが、ジャーファルは相変わらず無機質な目でアリババを見つめていた。










「大きな夢を見ているだけの子供です」


<後書き>
いや、別にジャーファルが嫌いな訳じゃない。
でも彼ならこういうだろうと思った。そしてアリババという存在を許せないのも信じられないのも彼らだろうとも思った。
だけど唯一、それを表出してやるのがジャーファルだからこんな表現になっただけです。
イヤ、本当ですからッ!!(必死)

[*prev] [next#]






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -