Strawberry demanded that Death should help him.1 実を言うと、自ら口に出してみて、そこに私のよく知る者がいることを確認できても、信じられなかった。“驚いた”などという感情は、優に超えていた。 夜光殿と雛森副隊長の手助けにより、私は脱獄して穿界門に走り、現世へと出た。そのときに焦ったのが、その様だ。時刻は真夜中というときに、空座町上空の穿界門を開けば、いくら太陽が昇っていないとはいえ異常に暗い上、かなりの大雨であった。雛森副隊長のかけてくださった“曲光”も効果が切れ、闇夜の中、私の姿が露わになる。傍から見れば、一人でポツンと、頭から雨をまともに浴びている状態は、恐ろしくみすぼらしいだろう。 しかし、そこで私は息を呑んだ。 感じたのだ。あやつの霊圧を。 恐るべきタイミングであったし、牢で霊圧を封じられていたために、僅かに弱体化した私を狙ってきたのか、と思った。無論警戒心は持っていたが、それで放っておけるはずもない。私は霊圧を探り、その原点へと急いだ。 そして、着いたところは墓地であった。いや、墓地というより、そこを少し抜けたところの、広くなっている場所だ。手入れも行き届いていない、周囲が林で囲まれた…そうだ、忘れるはずはない。ここは、あやつとその母親の仇が、戦ったところだ。そういえば、あのときも、雨が降っていた。 その中央に、マントを纏い、フードを被った男が、四つん這いになって何とも情けない様子で、いた。そやつは、暫く虚ろな瞳を巡らせたかと思うと、私に向けて、固まった。暗く、雨も降っていて、視界はとても悪いのだが、よく見なくとも誰だか分かる。 「………………一、護……?」 一護の瞳が、ゆっくりと見開かれる…。 どうしてだ…? 一護は誰にでもなく、心中で問いかける。 どうして、この、女が、こんな、ところに…? また夢か、と思ったが、今回はモザイクがない。雨も冷たい。これは、現実だ。 彼には、夢の中で飽きるほど会った女が、見えにくかったにも関わらず、今ここにいる彼女であると確信していた。そして知ったのだ。女は死神で、しかも一度、前に現世に来たときに、親しげに“イチゴ”と呼んできた者であったと。 虚圏でも恐ろしく感じた、不安の濁流が再び流れを起こす。 ほとんど衝動的に、一護は勢いよく立ち上がり、彼女に背を向け、足に力を込める。 「まて!!」 そう叫ばれ、無意識のうちに走り出すのを躊躇した。 その間に、彼はルキアに右腕を掴まれた。 眩暈がした気がした。たまらなくなり、固く目を瞑って、必死の思いで声をあげる。 「放してくれ…っ!!!」 ――――……放せ。死神。 ルキアが、眉を顰める。 前に会ったときと、様子が違う…? 「何なんだよ…っ! どうなってんだよっ……!! 俺は、破面だっ! ナリア・ユペ・モントーラだ!!! それなのに…!」 ギリッと歯を食いしばる。 何かが、自分の中で渦巻いているような、奇妙な感覚。 幾度も幾度も腕を振るが、ルキアの手は離れない。しっかりと、しかし痛くは無い程度に掴んでいた。 雨が気持ちを掻き乱す。苦しい、辛い、恐い……嫌だ…! 「俺は…! 俺は一体何なんだよっ!!!?」 まるで今にも泣き出しそうなほどに、顔を歪め、叫ぶ。 確固たる自分など、最早どこにもいなかった。自分も周りも、不明確なものばかり。居場所が見つからない。正直、自分がどこにいるべきなのか、分からない。だが、自分の中で、居場所があることを知っている。ただそれが、どこなのか、分からない。気持ち悪い。いつから自分は、こうなった? 苦しむ彼を見て、ルキアが一瞬、手の力を緩める。 「………一護…」 「やめろぉっ!!!」 一護が彼女の手を振り払い、向き直った。苦痛の滲んだ顔で、目の前の死神を見る。 彼の顔は、涙を流したせいか、それとも濡れたことによっての錯覚か、疲れているようにも思えた。 「……やめてくれっ…頼む………」 後ずさりながら、瞳を彷徨わせながら、祈るように、痛みに堪えるように、言う。 しかし、その言葉の意味がいまひとつ、理解できない。 「…? どういう…ことだ? 一」 「やめろっつってんだろッ!!!!!???」 喉が裂けるような声で、ルキアの言葉を遮断した。 呆気にとられたが、嫌でも気づくことができた。彼は今、「一護」の名前を呼ばれることを、全面的に拒絶したのだ。 「…お願いだ…っ…! 頼むから、頼むから…やめてくれ……それで、呼ばないでくれ………俺は……俺は、違う……俺はっ………違うっ!!!」 「たわけ!!!!!」 呼吸が止まる。 “たわけ” 直感的に思った。この叱咤を入れられるのは、今が初めてではない。この感覚は、多分、『久しぶり』だ。 ルキアは、興奮した様子で怒鳴り散らす。 「ならば私は、貴様を何と呼べば良いのだ!?」 彼女が霊圧を閉じていると気付くのに、時間を要した。 霊圧が飛ばされているように、ルキアのその表情と声で、ここ一帯の空気が震えているような気がしたのだ。 「それは」 “ナリア・ユペ・モントーラ”と呼べばいい。 そう思ったのに、言葉が続かない。 「ナリアと呼べばいいのか!? 笑わせるな! 誰がそんなふざけた名前で貴様を呼ぶか!!!」 俺の知らない「イチゴ」がまともで、「ナリア」はふざけた名前…? 何を馬鹿な。 そう、笑い飛ばしたい。なのにできない自分が、煩わしくてたまらない。 怒鳴り疲れ、肩で息をするルキア。数秒の後、呼吸が整うと、雨音にかき消されることはなく、しかし小さい声で、紡いだ。 「…一護…」 スッと顔を上げたルキアは、心なしか泣きそうに瞳を揺らしていた。 随分と久しぶりに、彼としっかり、目を合わせる。 「私達は……仲間だろう…!」 ――――私達は、仲間だろう!? 「っ…」 ズキッ…。 一護は頭を押さえて、目を瞑る。 痛む…頭が、でなく、その中が……。 ――――私達は…仲間だろう、一護…! ――――こんな下ら――こと、二―と私に―認させ―な! 「ぐ…ぅ…っ!」 ――――貴―が苦しむなら、その―しみを―け取っ―やる! ――――私達は、仲間だろう!? 一護はしゃがみこみ、歯を食いしばった。 何だ、これは。おかしい。見覚えがないのに、懐かしい。 「一護…? どうした!?」 慌てて駆け寄り、覗き込む。 彼は目を閉じていたが、やがて開き、ルキアを見た。 「……名前…」 ゆっくりと、喋る。 激しい頭痛がする中、できるだけ、簡潔に。 「…あんたの、名前……」 聞いて、ルキアは一瞬表情を曇らせたが、すぐに答えた。 「朽木ルキアだ」 「朽木……ルキア……」 復唱してみる。 知らない、名前だった。 ――――“死神”ではな―。“朽―ル――”だ。 「うっ…ぐぁ…!」 「一護!? おいっ!?」 前のめりに倒れこみ、頭を抱えたまま、暫し悶える。 「一護! しっかりしろ!」 ――――貴様が………――になるのだ! 頭が、胸が、体中が熱くなり、激痛が走る。 ――――“死神”…? 意識を失う間際、彼はそんなことをぼんやりと思った。 少女は溜息を吐くと、うーんと長い伸びをした。 「ねーねー、桐生さんいないんでしょ? あたしたち、もう休もうよ。疲れちゃった」 「蘭に伝えたらだ」 頬を膨らます彼女に、隣りを歩くもう一人の少女は冷ややかに答える。 「だって、その蘭くん、いないじゃん、さっきから捜してるけど。いいじゃん、もう」 「王土を捜せば絶対にいる」 「いや、まぁ、そーだけどさ……」 それを言ってはおしまいだ。 少女はうんざりしたように肩を落とす。 蘭に、調査結果を伝えに行くこと自体はいつもやっていることだからいいのだが、そしてそれが王土では当たり前であることも重々承知しているのだが、それでも納得をしたことは一度だってない。 桐生においては尸魂界と現世と王土、地獄、あと微妙だが虚圏の五つの世界の橋渡しの役を担っているので、彼女に連絡をすることは理にかなっているようには思える。それに、この橋渡しの役は、はっきり言ってしまえば、一般で言う“雑用係”で、同情してしまっている、というのも否めない。 それに比べ、蘭はただ、王家の生まれであるというだけだ。ゆえに実は、次期“霊王”になるべき存在でもあった。それをこともあろうか、「え、僕、絶対無理です」の一言でばっさりと拒否したのだ。本来ならそれで済む話ではないのだが、幸い渋々ながらも“霊王”となることを了承した者がいたから良かった。それが、蘭の遠い親戚に当たる死神であり、現在の“霊王”である。 ちなみに、(恐らく面倒臭いという理由で)“霊王”になることに拒否の意を示した蘭は、憎たらしいことに戦闘能力や学力は申し分なく、王属特務でも三席・四席あたりのレベルだ。普段からは、全く想像もつかないけれど。ただし零番隊では、護廷十三隊のような席官で分けていないので、あくまで予測だ。隊長・黒崎一心との力量を比べれば、どう頭を捻っても雲泥の差だろう。 「あ」 「え? どうしたの?」 突然立ち止まったので、ふてくされていた少女が驚いたように彼女の視線を目で追う。するとそこに、眠そうな顔で石段に腰かけている、蘭の姿が見えた。 「蘭くーんッ!!!」 叫ぶと、彼はこちらに気付き、ちょっと手を挙げると立ち上がった。 二人は駆け寄り、顔を引き攣らせる。 「……どうしたんだ?」 ぽかんとしている少女の隣りで、もう一人の方が尋ねる。蘭はボロボロだったのだ。 「浮竹さん、ハンパ無かったです。泣きそう…」 「浮竹って…えーっと、たしか、こないだ護廷から上がってきた人だよね? 優しそうだな、とは思ってたんだけど」 「陛下にお会いしたんですよ…」 「……怒らないほうが、おかしい」 「ははは……」 ゴシゴシと目をこする仕草をすると、蘭が改めて二人を見る。 「それで、何か用でも?」 「ああ。近況報告」 懐から書類を取り出し、差し出す。それを受け取ると、彼は微笑んだ。 「たしかに、受け取りました」 「あ〜〜〜っ、疲れたっ! これで部屋に戻れる! もう、あんま寝られないよー」 くるりと踵を返し、少女は小さく言った。 「………蘭くんさ…」 「はい?」 書類をペラペラと捲りながら、答える。 「陛下のすることなら受け入れるしかないと思う?」 「………」 その問いに蘭は答えず、先に歩き始めた少女が、彼女の横を通り抜ける瞬間に一言、 「それは、違う」 そう告げて、瞬歩で消えた。 後を追うように、少女も瞬歩で消える。 一人になった蘭は、書類を眺めつつ、 「やむをえないんじゃないんですか」 と呟いた。聞いている者は誰もいない。 ちゃぶ台を囲うように、恋次と、テッサイ、ジン太、雨、りりん、蔵人、之芭、コンが座っており、壁に背を預け、無言で立つ夜一がいる。 ガラリ、と襖が開く音がすると同時に、彼等はそちらに目を向ける。 後ろ手で閉めつつ、ルキアの口から息が漏れた。 「どうだ?」 「とりあえずは落ち着いた」 恋次の隣りへと行き、腰を下ろす。 「一人にして、大丈夫なのか?」 夜一の問いかけに、 「今は眠っています。妙に消耗しているようで、少なくとも明け方までは目を覚まさないかと…」 「しっかし、驚いたな。お前が脱獄して戻ってきたこともだけど、まさか、一護が現世(こっち)にこんな形で来るなんてよ」 恋次の言葉に頷いた。 「私も、現世に戻ってきて最初に会うのが一護だとは思わなかった」 頭を押さえて倒れた一護は、雨の中で突然、意識を失った。 ルキアは狼狽し、どうしたらいいのか分からなくなったが、彼の霊圧を感じて恋次が来てくれたので、何とか冷静になることができた。 二人は一護をこのままにしておくわけにもいかず、休ませるには妥当な浦原商店へと運んだ。時刻が真夜中なので、開けてくれるかどうか不安だったものの、すぐに夜一とテッサイの二人が出てきてくれ、現在に至る。 「で、お前はどうやってこっち来たんだ? 釈放とかじゃねぇだろ?」 「雛森副隊長と、夜光殿のおかげだ。あのお二方が、私を牢から出してくださったのだ」 飲んでいた緑茶が器官に入り、咳き込む。 そして、ルキアを凝視した。 「や、夜光が!? マジかよ!?」 「ああ。それで…」 傍らにおいていた風呂敷包みを差し出す。濡れているが、あの豪雨では仕方なかった。 「貴様に、これを預かってきた」 首をかしげながら、恋次が風呂敷を開く。 息を呑んだ。 「こいつは…」 「隊首羽織だ。三番隊のな」 そっと、自分の左袖に手をやり、そこにある副官章に触れた。 「付けていろと言われた。その隊首羽織も着ていろと」 「けど…」 勝手にこんなことをしている自分が、隊長の資格など、あろうはずもない。だからわざわざ、抜いてきた。 「…渡されて、分かったような気は、するのだ」 その目には、何か強さがあった。 「私達は何処にいても、それぞれ三番隊、九番隊の、隊長、副隊長の任を担った死神なのだ」 恋次は無言で、隊首羽織を見つめている。 ルキアは襖越しに、そこで眠っているだろう一護に目をやり、拳に力を込める。 「私達は、死神として、隊の者達を預かる身として、そして仲間として、一護を助けねばならぬ」 「………ああ…」 彼も顔を上げて、笑う。仲間の一護を助ける。何が何でも、必ず、絶対に。 ――――そう、己の魂に誓う。 * * * 隊の者を凝視し、確認をするように口を開く。 「朽木が脱獄しただと…!?」 「はい! 昨晩の遅い時間から早朝にかけてのどこかでいなくなったものと思われます。まだ明らかにはなっておりませんが、どうやら手錠は斬魄刀で壊されたようで…」 檜佐木は眉を顰める。 彼女の斬魄刀・袖白雪は、牢屋の外の、見張りの控室に厳重に保管されていたはずだ。 「牢からはどうやって出たんだ?」 「それが妙なことに、外から開けられたようで、壊された様子はありません。恐らく朽木副隊長お一人の力ではなく、何者かが脱獄の手助けを…」 「だったら残留霊圧を十二番隊に頼んで測定してもらえ! 見張りが気を失っていたんなら、手っ取り早い方法で“白伏”を使った可能性が高いだろう!? 鬼道を使ったなら、その霊圧が微量でも誰だか判別可能のはずだ!」 隊士は困り顔で首を振る。 「いえ、実は、それを考慮に入れてか、四番隊で盗まれたらしい“穿点”か“崩点”の麻酔系を使われたようで、霊圧は少しも残っていなかったのです。痕跡はないに等しく…」 頭を掻き、考え込む。 まさかこの期に及んで、ルキアを脱獄させる者がいるとは思わなかった。今は、最早黒崎一護という敵のせいで、瀞霊廷はかなり緊迫しているというのに。 釈放許可の出ていない者へのこの行為は、中央四十六室も絡んでいて、立派な重罪ものだ。それを知っていて彼女を助けようと思うのは、一体誰だ? 真っ先に浮かぶのは恋次だが、彼は未だ現世だ。不可能である。麻酔系を容易に持ち出すことのできる花太郎か? しかし、隊舎牢に死角はなく、そうそう見張りに近づいてそのようなものを使う、ということはできない上、非戦闘力の彼ではできようもはずもない。では白哉が? いや、彼は義妹の罪がこれ以上重くなることを拒んでいた。ルキアのためを思い、意思に沿ってやるようなことはしないだろう。まさか浮竹? しかし、彼は今、王土にいる。尸魂界にいきなり戻ってくるようなことは、まずできないとみていい。小椿や清音か? だが、十三番隊は、浮竹の昇進によって今でも落ち着きがない。そんなことができる余裕もあるようには思えない。 (……ああ〜、くそっ…) ゴン、と頭を叩く。どうにも頭が働かない。 多分、自分の副隊長が脱獄したことに動揺しているのだ。四年間、上手くやってきていたのに。 (朽木とよく喋ってたヤツ…朽木とよく喋ってたヤツ…) 既に滅茶苦茶な推理だ。 喋っていたからといって、脱獄の手助けをするほどの関係であるとは限らない。 「………」 ふと、顔を上げる。 頭には、瑠璃谷夜光の姿があった。記憶が正しければ、彼女は恋次やルキアとよく馴染み、気楽に話せる関係であったはずだ。 『うざ』 隊首会の席で、不快感を露わにしていたことを思い出す。 もしかして、夜光がルキアを…? 檜佐木はかぶりを振った。 (…ねぇか、さすがに) 彼女が命令違反をするとは思えなかった。何せいつも、宴会のときでさえ、乱菊や自分に「仕事を怠るといけないから、飲むのはほどほどに」と注意していたくらいだ。忠告を無視して飲みすぎたときなど、彼女の前で正座をさせられて、一時間にわたり説教されたことだってある。 そんな夜光が命令違反と知っていながら、ルキアを逃がすなど有り得ない。 「あの………檜佐木隊長?」 報告が終わっても、一応まだそこにいたのだろう隊士は、考えを巡らせている隊長に戸惑いながらそこで跪いている。 「ああ、悪りぃ…もういいぜ。また何か分かったら、連絡してくれ」 「はい」 そして隊士は襖を閉めると、廊下を歩いて隊長室からは慣れていった。 「……くっそー…」 頭を抱えて、しゃがみこむ。 一体誰が朽木を? どうして? 何故? そして、脱獄した朽木の罪は? (…どうすりゃいいんだ…?) 顔を上げた先の机に、山積みになっている今回の事件の書類。 記入していないにも関わらず、無性に破り捨てたくなった。 瀞霊廷の端の方で、十一番隊第三席・斑目一角は、いつものように斬魄刀を担ぐような形で持ちながら歩いていた。かつての処刑場に近いところである。 「たーしか、この辺だったよなぁ…」 すっかり綺麗に修理されていて、その面影はないが。ここに、あのときオレンジ色の髪をした死神が、空から降ってきたのだ。共にいた男の妙な術で地面に大きな窪みを作って。 「あれ、一角?」 後ろから声が聞こえ、振り向く。同隊第五席・綾瀬川弓親だ。 「おう。どーした?」 「それは僕の科白だよ。どうしたの、こんなところで?」 「別に、ただ、ちょっとな」 ていうか、お前だって何でここにいんだよ。 そうは言わなかった。とぼけながらも、お互いに分かっている。どうしてここに来たのかなど。 日番谷は双極の丘から、尸魂界を眺めていた。 「……」 ……また、なのか? 自問し、目を閉じる。 ――――なぁ、もし………俺が…… 「草冠……」 無意識のうちに、故人の名を呟く。昔の、大事な友達。 ――――…シロ……ちゃん………どう…して………? 「雛森……」 無意識のうちに、流魂街時代、姉弟のように育った幼なじみの名前を呟く。護るべき人。 ……また、なのか? ……また、俺は、仲間を刺すのか……? 脳裏に、オレンジ色の髪をした死神を…人間を、思い出す。 いくら思い出しても、命令が変化することはないと、分かっていたけれど。 前へ 次へ 目次 |