■ 第四章:奇襲、そして退散?


 僕は道端の小石になる

 気付かれなくても 構わない


 僕は周りと一体化して



 君のことを


 見守るんだ







 ルキアの隣に瞬歩で現れたのは、白哉だった。
「兄様…!」
「……。阿散井。まだ目覚めぬか」
 鬼道によって動きを封じられた恋次は、身をよじりながら叫んだ。
「違う! ボクは濤目!! 偽地獄蝶だ!!」
 白哉は表情を変えず、千本桜の柄に手をかける。
 それを見たルキアは、
「お…お待ちください、兄様! 恋次は、まだ…!」
「…案ずるな。……阿散井の魂は、偽地獄蝶の魂に包まれている。…取り払うまで…命まではとらぬ」
 ホッとルキアは胸を撫で下ろし、深深と頭を下げる。
「ありがとうございます、兄様……」
 突然、ルキアは一護を死神化させていたときのことを思い出した。
(なん…だ……!?)
 ルキアはあのとき、悟魂手甲(ごこんてっこう)という手袋の形状をした、魂魄を抜く道具を使って、一護を死神化させた。
 そもそも魂魄というのは、肉体という箱に護られている生物の核である。悟魂手甲は、つまり、その核の部分だけをつかみ出し、箱から出す動作を行なうわけで…。

『……阿散井の魂は、偽地獄蝶の魂に包まれている。』

(!!)
 ルキアは左肩にはしる激痛を堪えながら、朽木邸の方向へ駆け出した。
 白哉はそのルキアを、横目だけで見送った。
 瞬間、目の前からの霊圧が急上昇したことに気付き、前に目を向ける。
「ほう…。六十番台の縛道を、力任せに破ろうというのか………」
「ッあぁぁあああぁああああああああ!!!!」

 バキイィィンっ!!!!
 恋次は肩で大きく息をしながらも、白哉を睨むようにして見つめる。
「はっ……はっ……調子に…のるなよっ…………死神ィ……!!!!」
 無言で、見返す。
 ふっと恋次の口許に、独特の笑みが浮かび上がる。蛇尾丸を構えなおしながら、言った。
「ふん、なんだよっ…! 僕を斃せるとでも思ってるの? 無駄だよ。たとえ隊長格だろうと、僕自身隊長格以上だ。隊長に負けるなんて有り得ない。ここで戦って死ぬのはキミ。そして、キミが助けようとしているこの死神も死ぬ。それでお終いだよ。賢そうな顔して、結構莫迦なんだね。ルキアちゃんを逃がしたのは、まだ自分の方が力が上とでも思ってるの? 自分の力を頼りにする。自惚れだよ。自分がいるから大丈夫=H そんなの陶酔以外の何者でもないさ」
「………そろそろ喋るのは、止したほうがいい」
 静かに言う白哉に、恋次は訝しげに眉を顰める。
「何? 言い返すところがなくて、無理矢理黙らせようっての? そんなの無駄だってのが分からないの?」
「笑止。………無駄なのは貴様の方だ」
 足元に強引に、抜いた千本桜をつきたてる。
「…何のつもり?」
「分からぬか」
 白哉の隊首羽織りが、風でなびく。バサバサと音がする。
「貴様ごときに、剣を振るうまでも無いと言っているのだ」
「この野郎っ…!!!」
 二人はただ、睨み合う。


 斬魄刀・鬼灯丸(ほおずきまる)を始解した状態で、沢山の偽地獄蝶をなぎ払う。
 その一角の近くで、始解した斬魄刀・藤孔雀を振るっているのは、十一番隊第五席・綾瀬川弓親だ。ふと、二人は動きを止めた。
「一角…!?」
 信じられないような瞳で、一角を見つめる。
「隊っ………長………!?」
 ずっと感じていた、剣八の霊圧が―――――前触れ無く、消えた。


 ルキアは朽木邸内の、自分が生活している部屋に飛び込んだ。
「ッ!!!」
 いつの間にこの部屋にまで入り込んだのだろう。立てかけていた斬月に、沢山の偽地獄蝶がとまっていた。
 ルキアは、ほとんどそれによって埋もれてしまっている斬月を見て、頭の中で、苦しんでいる一護と重なった。
「離れろッ! 縛道の一! 塞=I!」
 偽地獄蝶の動きが停止し、その場に留まれなくなった偽地獄蝶がハラハラと落下していく。すかさず手を伸ばし、斬月の柄を握って持ち上げた。少々重いが、なんとかすれば持てないことはない。
 そして棚に駆け寄り、開ける。そこには、悟魂手甲がきちんとしまわれていた。
 悟魂手甲を右手につけると、斬月を持ったまま、再び外に飛び出した。


 先程の場所に駆けつけてみると、恋次と白哉は対峙して睨みあっているところだった。
「恋次――――ッ!!」
 白哉の脇をすり抜け、悟魂手甲をはめた右手を勢いよく突き出した。一護のときは、もう少しスムーズに魂魄が抜けたように思う。わずかな抵抗があり、バチン、と音を立てて、恋次から何かが抜ける。それは案の定、偽地獄蝶だった。
 突然、二つあった魂のうちの一つが抜けたからだろう。恋次はその場に倒れこみ、危うく屋根から転がり落ちかけたが、彼の体を、白哉が千本桜の鞘を突きたてることで支えた。
 それを見て、ルキアはまた白哉に頭を下げる。
 ルキアは視線を自分の右手に落とした。そこには、偽地獄蝶・濤目の姿があった。
「捕まえたぞ、濤目」
「あーあ。捕まっちゃった」
 とくに残念そうでもなく、濤目は言った。
「貴様…オレンジ色の髪をした人間を潰すと言ったな?」
「うん。それがどうかした?」
「何故だ」
「何故? そんなことも分からないの?」
「いいから答えろ!」
「…ボクらの目的は、世界の全てを破壊すること。でも、それを試みたことがあるのはボクらが初めてじゃない。それはいつもそういう者を退けてきた君達なら分かることだよね? その中心にいつもいるのが、その人間なんだ。死神代行だから、容易に手を出せないのがすっごい厄介だけどね。そいつを倒さない限り、ボクらの目的は達成されない」
 ルキアは鋭く、濤目を睨んだ。
「……そんなに大事? 黒崎一護が」
「!!!!!」
 目を見開く。
 自分で既に一護のことであると分かっていたとはいえ、いざ名前を出されるとショックだった。
「いいかい。これはサービスだよ。ボクが君に教えたこと、あの人には言わないでね」
「何ッ…?」
「ボクら何千億にのぼる偽地獄蝶のリーダー格。…偽地獄蝶・海人風鏡死。一つ言っておくよ。彼はボクの百倍よりももっと強い。分かりやすく言うなら、あの人の強さ、別次元なんだ」
 ルキアは息を飲んだ。
「さてと……ボクは捕まっちゃったけど…ま、いいよ」
 濤目の軽快な言いように、ルキアは訝しげに眉を顰めた。
「結構面白かったよ。朽木ルキアちゃん?」
 そして、僅かな黒い粉を残して、偽地獄蝶・濤目は、一瞬のうちにルキアの手の中から消え去った。
「…………」
「逃したか?」
 ふいに後ろから白哉に言われ、ルキアは振り返り、膝を折る。
「……申し訳ありません…兄様……」
 白哉は何も答えず、瞬歩でその場からいなくなった。彼は怪我をしていなかったように思う。おそらく縛道を重宝したのであろう。
 立ち上がり、倒れている恋次に歩み寄る。
「恋次…! 恋次!」
 少しばかり、彼の体をゆすると、ゆるゆると瞼を上げた。
「ルキ……ア……?」
 ルキアは安堵の表情を浮かべた。
「大丈夫か…?」
「あ、あぁ……。…俺……一体…? 何があったんだ…?」
 いまいち今の状況を理解できていないようである恋次に、ルキアは、
「貴様は、偽地獄蝶に体を乗っ取られていたのだ」
 と、あっけらかんと答える。
 それを聞き、しばしの間、恋次はキョトンとし、大袈裟に顔を歪める。
「はぁ? 何言ってんだ、ルキア。いくら偽£n獄蝶っつっても、んなことができるはずねンガッ!!?」
 ルキアの拳骨が、恋次の顔面に炸裂した。
 タラ、と恋次は鼻血を垂らし、あわてて懐から小さな布地を取り出して、鼻血をぬぐった。
「たわけ!! 現に私は『濤目』なる偽地獄蝶と戦ったのだ! 兄様も手伝ってくだされたのだぞ! 覚えていないのか!?」
「あ、あぁ。…ってて…」
 未だに鼻の頭部に痛みがはしり、彼は半泣き状態で頷く。
 そのとき、僅かに涙で潤む視界の中で、ルキアの左肩から血が流れ出ていることに気付いた。偽地獄蝶に、このような深手を負わされるというのは、まず考えにくい。とすると…。
 恋次は、深く頭に下げた。
「………悪りぃ……」
 ルキアは恋次を見つめ、左肩の傷に手をやり、顔を背ける。
「……案ずるな。大したことは――――…………!?」
 突如、驚きに目を見開く。
 また、偽地獄蝶がルキアに迫ってきていたのだ。
「咆えろ! 蛇尾丸!!」
 恋次は再び、蛇尾丸の刀身を七枚の刃節に分かれさせ、ルキアに迫っていた偽地獄蝶を一匹残らず粉々にした。
「すまぬ、恋次」
「……テメェの左肩の代わりくらい、当たりめーだ」
 その言葉に、フッと笑い、
「恋次、気付いているか?」
 と、問うた。
「あぁ…。さっきから、ビンビン感じんぜ。これは…日番谷隊長の霊圧だよな…」
「恐らく、また偽地獄蝶が誰かの体を乗っ取ったのだろう…。日番谷隊長がそれを相手にしている。行くぞ、恋次!」
「おう! って、なんでここに斬月があんだよ!?」
「…偽地獄蝶に纏わりつかれていたのだ。…見てられなかった」

 ―――まるで、一護が苦しんでいるようで。

 恋次はため息をつき、駆け出そうとした。
 ルキアは左肩の痛みでよろめいている。
 恋次がルキアを抱きかかえ、蛇尾丸を収めると、鎖の部分をひっかけて斬月を背負い、霊圧を頼りに駆け出した。

   *   *   *

 右腕を飲み込むようにして氷の飛龍が日番谷と同化し、氷の翼をはためかせて飛んでいた。
 やはり、日番谷は肩で大きく息をしていた。卍解を以ってしても、彼は苦戦していたのだ。卍解を使ったところで、やはり彼は乱菊を傷つけたくなかった心は変わらない。それも原因の一つであろう。
「やっぱりこんなもんなのね…ガッカリよ、たいちょーさん」
「ッ………無駄口はいい……! 松本の体を返せッ……!」
「無駄口はどっちよ。そんなこと言ってるから、あの子守るので精一杯になっちゃうんじゃない」
 乱菊は、雛森を殺そうと何度も狙った。
 その度に、日番谷は自らの氷の翼を犠牲に雛森を救った。しかし、それを何度も行なったために、日番谷は宙に留まること以外できなくなっていた。
 それを悟られては、また雛森が狙われる。そう思い、日番谷はそれを悟られないように、あくまで強気で戦っていた。
 チラ、と日番谷の背後に浮かぶ、氷の華に目をやる。初めは十二枚あった花弁が、今はたったの二枚になっている。
「その華…何?」
「さぁな」
 ニヤリと不敵な笑みをうかべ、乱菊は言った。
「もしかして、卍解の解けるカウントダウンだったりして?」
「お前がそう思うんなら、そうなんじゃねぇか?」
 動じることなく言ってみせるが、図星だった。
 この氷の華の花弁がなくなったら、日番谷の卍解は解けてしまう。
 しかし、そんなことはどうでもよかった。どっちにせよ、次にいざ雛森が狙われたとすると、ほとんど彼は落ちていく形で、雛森に覆いかぶさることになる。そうすれば、氷の翼どころか、背中全体を犠牲にすることになる。それならば、卍解が解けようが解けまいが、もはやほとんど関係がなかったのである。
「さて、そろそろ終わりにしよっか?」

 ドンッ………!!!
(!! こいつ…まだ霊圧が上がっ…!?)
「どこ見てるの? たいちょー♪」
「なっ!?」
 瞬時、乱菊が宙にいる日番谷の背後をとった。
「お終いだね」
「ッ!」
 日番谷の瞳に、乱菊と灰猫の刃が迫っている様子が映った。

「っどりゃああぁぁぁぁぁぁあああああッ!!!!!!」

 いきなりの大絶叫。
 ピタリ、と動きが止まったのは、乱菊と日番谷だけでなく、流魂街で偽地獄蝶と戦っていた下級の死神も例外ではなかった。
 はるか遠くから、驚異的な速さで飛んできたのは恋次と、その恋次に抱きかかえられているルキアだった。
「え」
 恋次がルキアを離し、ルキアが自力で飛び出す。
 悟魂手甲がはめられた右手を突き出し、その手で乱菊の頭をつかんだ。

 バチン!
 偽地獄蝶が抜かれる。
 すると、乱菊は体のバランスを崩し、宙にいた彼女は下へと落下していく。
「松本!」
 日番谷は急降下し、乱菊より先に地面に着地して(というよりほとんど倒れこむ形で)、乱菊を受け止めた。
 すぐに体を起こし、乱菊がケガもなく生きていることが分かり、体中から緊張が抜ける。突如、日番谷の目の前が真っ暗になった。
 一方、ルキアは握りこんだ右手を恐る恐る開いたが、そこには既に偽地獄蝶・ユリイの姿はなかった。
「どうだ、ルキア?」
「…逃げられた」
 眉を顰める。
(サービス、といっていたな…。本来なら、何も言わずに早々に、こうしていなくなるのが偽地獄蝶……。奴は…濤目は…何故…?)
「ルキア?」
「あ…なんだ?」
「どうかしたか?」
「いや、なんでもない。………ッ…」
 ルキアがまた、よろめく。
「ルキア!」
 あわてて恋次が手を差し出し、ルキアを支えた。
「大丈夫かよ!?」
「くっ……大丈夫だ…それより、松本副隊長と、日番谷隊長は…?」
 二人が屋根の下を見てみると、そこには乱菊と日番谷が倒れており、さらに雛森も倒れていた。
 そこへ、四番隊が走ってきた。
 日番谷と乱菊、雛森は勿論。恋次とルキアも四番隊によって、四番隊救護詰所に連れて行かれた。


   *   *   *


「……うぅ…」
 ふと、日番谷は瞳を開いた。
 最初に視界に入ったのは、雛森・乱菊・ルキア・恋次の顔だった。
「日番谷くん!」
「隊長!」
「日番谷隊長!」
「日番谷隊長!」
 四人が口々に言った。
 気がついたときに最初に聞く言葉がこれで、わずかに日番谷はげんなりする。
「てめぇら、顔が近ぇんだよ…」
「隊長、すいません。すいませんッ…!」
 乱菊が涙を流しながら謝る。
 そんな乱菊を見つめ、日番谷は軽く目を閉じ、首を横に振った。
「………気にするな。アレは、お前じゃねえ。ユリイっつう、偽地獄蝶だ」
「大丈夫? 日番谷くん…一番長く、気を失ってたんだよ…」
 雛森も心配そうに日番谷の顔を覗き込んだ。
「大丈夫だ。……それより、雛森」
「ん?」
「お前、あんとき俺のこと、シロちゃん≠チつったろ?」
「ええッ!?」
「言ったよな?」
「う……うん……」
「シロちゃん≠カゃねぇ!! 日番谷隊長≠セッ!!」
「な、何よぅ! どっちでもいいでしょ!!」
 とりあえずそこまで喋る元気はありそうで、全員がホッとしたときのことだ。
 四番隊第七席・山田花太郎が飛び込んできた。
「た、大変ですっ!!」
「どうしたのです? 山田七席」
 四番隊隊長・卯ノ花烈が答える。
「じ、十一番隊隊長・更木剣八さんが、瀕死状態で発見されました!」


  *


 日番谷は、四番隊救護詰所の病室の窓から、夕焼け空を眺めていた。時々夕日の光を遮るようにして、複数の偽地獄蝶が飛んでいく。
 彼等が戦っていたときよりはだいぶ減ったように見えるが、斃したのはほんの一部の偽地獄蝶だろう。もっと沢山いると考えるのは自然である。
(…更木がやられるとはな……)
 あの、斬っても斬っても倒れないという男が、瀕死状態で発見されたとは、俄かには信じられない話だった。
 そして、いつもならその剣八の近くにいるやちる。彼女の姿がどこにもない。
(偽地獄蝶……まためんどくせぇことになりそうだぜ…)
 改めて外を見つめると、偽地獄蝶が一匹、こちらに近づこうとしたところで、ジュッと音を立てて消滅していた。
 あとから聞いた話だが、彼が気を失っている間に、先に目覚めた雛森とルキアを含めた鬼道を巧みに操る死神全員が、双極の丘に集結。瀞霊廷全体に、偽地獄蝶の侵入を許さない結界を施したらしい。とはいえ、もつ時間は長いとはいえないだろうから、上層部は慌ただしく動き回っている。
「隊長」
 振り向くと、そこには乱菊の姿があった。手を腰にあて、仕事をしろと怒鳴られた後と同じいつもの様子で頬を膨らます。
「ダメじゃないですか〜、まだ寝てないと。隊長は特別傷が深いんですよー」
「大丈夫だ。卯ノ花隊長と山田花太郎に診てもらったんだからな。傷もそこまで痛かねぇよ」
「…………」
 たしかに日番谷の傷は、半分程度塞がった。それは知っているのだが…、

 バシンッ!!!!
「いってええぇッ!!!?」
 日番谷の悲鳴がほとばしる。
 乱菊が、彼の胸部に巻かれている包帯の上から、思いっきり掌をふりかぶってぶつけたのだ。
 ベッドの上で日番谷はうずくまり、恨むような瞳で乱菊を見上げた。
「松本、テメェ俺を殺す気か!?」
 瞳にわずかな涙が滲んでいる。よっぽど痛かったのだろう。
「あらやだっ! やっぱり傷癒えてないんじゃないですかっ!!」
 ふざけて笑う乱菊に、
「塞がりかけてる傷の上から叩かれりゃ痛ぇに決まってんだろうが!!!」
 と怒鳴り返す。
 キャーと叫びながら、乱菊は病室から飛び出していく。
 それを見送って、「まったく」と思いながらも、日番谷は頬をゆるめた。
 安心したのだ。つい先ほど、あんなに責任を感じていた乱菊が、もういつもの調子に戻っていた。元気な姿だったということが。
 徐に自分の胸に手をあてて、ホッと息を吐く。傷は開いていない。思った以上にしっかり治ってきているようだ。これなら、あと一日程度休めば戦線に復帰できるだろう。
 ばたっと体を倒して頭を枕にのせ、天井を見つめる。目を閉じ、静かに息を吐く。
 彼の意識は、あっというまに夢の世界へと旅立っていった。


 彼の病室の扉の前では、乱菊が扉によりかかって立っていた。
 悲しげに瞳を揺らす、乱菊。
「…………隊長…すみません……」
 うめくようにそう呟いて、日番谷の病室の前から離れた。
 自らの手で、日番谷に重症を負わせたこと。その事実。

 それは彼女の心に、深い傷を残した。


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