■ 第二十章:その後


 空間、



 誰が為にか







 尸魂界。十三番隊隊舎裏の、木の上。
 空が、高いな…。
 木の枝に腰掛けたまま、空を見上げて息を吸い込んだ。春を感じるような、気持ちいい空気が肺に満ちる。
「おーい、ルキア〜!」
「ん…?」
 下から声がしたので、見下ろしてみると、恋次がこちらを見上げていた。


  *


 十番隊隊舎執務室。
 乱菊はソファに腰かけ、海老煎餅を頬張っていた。先日、浮竹が日番谷にと持ってきたお菓子の群の中に、珍しくこういった和菓子が混ざっていたので、それを頂いているというわけだ。
「隊長、食べないんですかぁ? 美味しいですよ!」
 書類に筆を走らせていた日番谷の手が、ピタリと止まる。乱菊を睨みつけた。
「…てめぇが仕事しねーから、食う暇がねぇ…!」
「あ、そうなんですか」
 そう言ってあっさりと日番谷から視線を外し、湯呑みを手にとって緑茶を煽った。
「食ってばかりいねぇで仕事しろ!!!」
 半ばヒステリック気味に怒鳴る日番谷だが、彼女はお構い無しに次の煎餅の袋を開けている。
 溜息を吐き、眉間を軽く揉んでから、再び書類に目を落とす。パキッ、パキッという煎餅の割れる音(正確には食べられていく音)にイライラしながらも、十五枚目、十六枚目と決まったペースで書類を片付けていく。
 偽地獄蝶のことと、無駄に沢山図書館やらを歩き回ったことと、れいによってまた現世に日番谷先遣隊が派遣されたことで、他隊と比べて書類が山積みとなっている。それに加えて、多少の仕事は出来るといっても、未だ精神的に回復し切っていない雛森の、五番隊の仕事もこちらに回ってくるので、その数、百や二百の書類と恐ろしいことになっているのだ。
 ちなみに、今まで乱菊が溜めていた書類は、提出期限ギリギリであったり、とっくに過ぎていたりするものばかりだったので、一番初めに日番谷が片付けた。
「………隊長」
 ふいに、煎餅の割れる音が止んだと思えば呼ばれ、何だ、と答える。
「……ユリイって、少し…可哀想な子でしたね…」
 書類から顔を挙げ、机の端に置いてある湯呑みに手を伸ばす。
「…連中は全員、そんなもんだ」
 緑茶の水面を見つめ、ユリイの幼い笑顔を思い出す。
 あんな形でなければ、もっと良い死神になっていたかもしれない。
「……もう少し、喋りたかったです」
「……そうか…」
 緑茶を一口飲んで、また書類に目を通す。
「隊長、私の書類……どれですか?」
 ソファから立ち上がり、書類の山を見る。
 やっとやる気になったのか、と呆れ顔の日番谷だが、一束の書類を持ち上げる。あとで強引にでも乱菊にやらせようと、予め紐で括っておいたのだ。
「これだ」
「え!? これ全部ですか!?」
 その束は、とても多いですよ、とでも言っているかのように重い。
「それでも俺より少ねぇんだ。さっさとやれ」
 数秒その場に立ち尽くし、突然乱菊はそれを持ったまま振り返り、扉の方へと歩き始めた。
「お、おい!? どこに行く!?」
「こんなの無理ですから、修平に押し付けてきます!!!」
 参考程度に言っておくと、瀞霊廷通信の発行も手がけている九番隊は、今現在恐ろしく忙しい。
「ま、まて、松本! 松本!!」
 バタン、と日番谷の声は、乱菊が後ろ手で閉めた扉に遮られる。

「松本オォォォ―――――――――っっ!!!!!!!」

 ――――十番隊は、今日も元気です。


 二番隊隊舎から少し離れたところにある、空き地。
 そこに立っているのは、砕蜂だ。彼女の手には、竹の皮で包んだ握り飯が載っている。
(…この辺りだったか…?)
 何と言っても、百年以上も前のことだ。撫子と修行した後、どのあたりで共に握り飯を食したかなど、忘れてしまった。
 大き目の岩を見つけると歩み寄り、そこに置く。そして、竹の皮を広げると、いびつな形の握り飯が三つ、姿を現した。自分の分と、夜一の分と、撫子の分…。
 慣れないことをしたものだ、と一人笑う。
 温かい風が吹いて、気持ちいい。暫くぼんやりと立っていたが、ハッと気付いてみると、岩の上に置いた握り飯が一つ減っていることに気付く。
「美味いぞ、砕蜂」
 足元から声がして、視線を落としてみると、黒猫が米粒のついた肉球を、ペロペロと舐めていた。
「夜一様…!」
 夜一は猫そのものの仕草で顔を洗い、砕蜂を見上げる。
「…淋しいのか?」
「い、いえ、そんなことは…!」
 言って、目をそらす。
「そう、無理に恥とする必要はあるまい。友が死んで平気な者などおらん」
 しかし自分は二番隊隊長で、隠密機動総司令官なのだ。そういったものが、心を揺らしたりすることを許してくれないように思う。
 ポン、と頭に手を置かれる。驚いて顔を上げると、夜一が人型に戻っていた。
「おぬしは気負いすぎじゃ。いつでもな。ほれ、憧れの先輩が目の前におるのじゃぞ? 儂の胸に飛び込んだらどうじゃ? 今ならしっかり、受け止めてやるぞ!」
 優しい声で、夜一はそう言った。
 砕蜂は深く俯く。本当は、泣きたくてたまらない。今ばっかりはプライドなど全て捨てて、夜一に縋りついて泣きじゃくりたかった。しかし、それをするにも、躊躇せざるを得ない問題が、出てきてしまったのだ。
「あ、の…夜一様…」
「なんじゃ?」
 涙が出そうだったり、辛そうに歪んでいたり、赤かったりと悲惨な状態である顔を俯かせたまま、言った。
「服を…着てくだされば…!!」
 ん? と自分の体をぐるりと見て、夜一は、おお、と笑った。そう。彼女は服の着ていない黒猫から人型に戻ったので、全裸の状態だったのだ。
「すまんすまん! 忘れておった!」
 そうやって高らかに笑う夜一は、心強いような、危ういような、そんな微妙な気分になる。
 ポロッと一粒、何かが砕蜂の瞳から零れたのは、秘密である。


 朽木邸。
 緋真の仏壇の前に、白哉が立っている。彼は、微笑む緋真の遺影を見つめていた。

 ――――緋真、様に…笑顔を…!!
 亞丹の言葉を思い出し、目を閉じる。たしかに緋真は、いつも悲しそうに笑っていた。もっと早く、ルキアを見つけられれば良かったものを。
 スッと手を持ち上げる。白哉の手には、ボロボロになった柄が握られていた。唯一、亞丹を斃した二日の後発見した、彼が持っていたものだと思われる、斬魄刀の柄だ。
 しかし、持ち主を失った斬魄刀のこの柄も、きっともう消えてしまう。だから、少しでも残ることのできたこれを、せめて緋真の元で消滅させようと思い、持って来たのだ。
 柄を、緋真の遺影の隣りに置いた。
(緋真が、生きていたら)
 遺影を見つめたまま、思う。しかし、そんな仮定の話は無意味だと考え、小さく俯いた。
 これからも、ルキアを護ろうと、改めて誓った。
 いつだったかの恋次の言葉を借りるなら、自らの魂に。緋真のためにも、亞丹のためにも。


「何だぁ? もう、行っちまうのか?」
 空鶴の言葉に、藤丸とまつ莉は困ったように笑った。
「元々僕達、現世の方が主流ですから」
「尸魂界に来たのは、緊急だったし」
 奥から京楽と浮竹が出てくる。二人は、戦いが終わってから五日目の今日、海燕の墓参りをするために空鶴の家を訪れたのだ。
「残念だねぇ、もっとお酌してほしかったんだけど」
「京楽隊長は仕事してください」
 ピシャリとまつ莉が言い、それに続いて藤丸が、
「そろそろ伊勢副隊長に怒られますよ?」
 と呆れ顔で注意する。
「また暇になったら、いつでも遊びに来てくれよ!」
 そうにこやかに言う浮竹に、二人は揃って会釈する。
「はい、浮竹隊長もお体にお気をつけて!」
「なんかあったら、呼んで下さい」
 まつ莉も笑い、藤丸も歯を見せて笑った。
 そんな二人を見て、浮竹は
「ははっ、やっぱり二人は似てるな! 顔がそっくりだ」
「「性格は違いますけどね」」
 同時に言った二人に、
「息もピッタリだねぇ」
 と京楽が口角を吊り上げる。
「もうちょっと、ゆっくりしてけばいいんじゃねぇの?」
 岩鷲が残念そうにするが、
「でも、伊花様と征源様と、海燕先輩のお墓参りも済んだし」
 朱司波伊花と朱司波征源は、藤丸とまつ莉の育ての親である。
「もう、用事は済ませたよね」
 まつ莉の言葉に、藤丸もそう言って頷く。
「そうか。じゃ、引き止める理由もねぇか。元気でな」
 四人に、まつ莉と藤丸はペコリと頭を下げた。
「それじゃ、失礼します!」
「また会いに来ますね!」
 そして二人は、尸魂界からまた去っていったのだった。
 藤丸とまつ莉の背を見送り、そういえば、と思い出したように岩鷲が口を開く。
「一護はどうなってんだ? 今」
 空鶴が「ああ、あのガキか」と呟いてから、浮竹を見る。
「浮竹、なんか知ってるか?」
「ああ、一護くんなら…」
 チラ、と京楽を見る。彼は曖昧に頷きながら、編み笠に触れた。
「たしか、一昨日やっと意識を取り戻して、今は綜合救護詰所に移されていたと思うよ?」

   *   *   *

 綜合救護詰所の廊下を歩きながら一瞬、何かしら持ってくれば良かっただろうかと考えたが、まぁいいかと思い直す。
 奥から三番目の病室の近くまで行くと、扉の向こうから声がした。
「ではな、一護! 大事にするのじゃぞ!」
 カチャ、と扉から出てきたのは、瑠璃千代だった。相手が貴族ということもあり、恋次は頭を下げる。彼女の後ろから次いで出てきた犬龍と猿龍も、六番隊の副官である恋次に会釈した。
 三人の背を見送り、遅れて扉を開けた。
「よーう、入んぞー」
「恋次…!」
 白い着物を着た一護がベッドの上で驚いたように体を起こした。
「今度はお前か…」
「他に誰か来たのか?」
「さっき出て行った瑠璃千代達と、冬獅郎、乱菊さん、浮竹さん、京楽さん、あと様子見か知らねぇけど、やちる」
 最後に出てきた予想外な名前に、思わず笑う。そして区切りをつけるように、コホンと咳払いをすると、尋ねた。
「どーだ? 体の方は」
「まぁ何とか・って感じだ。怪我より霊力の弱まり方が酷ぇらしい」
 決まりが悪そうに笑う一護の顔に、いつもの活気はない。三日前までは意識不明の重態だったのだから、仕方が無いのだろう。
 恋次は端に寄せてあった椅子をベッドの傍らにまで持って来て、そこに座った。
「お前は怪我、どーなんだ?」
「あ?」
 自分の左腕に巻いてある包帯を一護が見ていることに気付き、ああこれかと頷く。
 一護は卯ノ花から、自分は三日間眠っていたと教えられていた。織姫や四番隊がいた中で、未だ傷が残っているとなると、相当な深手を負っていたとしか思えなかった。
「今回は、死神が総動員されて現世に行ったからな。怪我人も多くて、一人をそんな丁寧に治療してる余裕がなかったんだよ。井上もかなりの人数を治してくれたが、追いつかなくて途中で倒れちまったしな」
 左腕を回して、手を握ってみたり開いてみたりを繰り返す。鈍い痛みはあるが、この程度ならほとんど隊務への支障はないのだ。
 ふいに表情を改めて、口を開く。
「…お前のことは、夜一さんと浦原さんから全部聞いたぜ。ったく…とんでもねーことしやがる」
「仕方ねーだろ。そもそもお前等がいきなり俺の力を奪ったから、こうなったんじゃねぇか」
「結局、戻ってきちまったしな。なァ? ルキア!」
「は?」
 恋次が扉に向かって声をかけたので、一護もつられてそっちを見た。
 数秒間の沈黙はあったが、その後、キィ、と扉が開き、ルキアが入ってくる。彼女は、白がゆが載った食膳を持っていた。どうやら、いつだかに白哉のために作ったものと同じようで、違いは明太子が添えてあるかないかくらいだった。
「ルキア…」
 呟く一護に近寄り、ベッドの脇机に食膳を置いて、土鍋の白がゆを適当に取り皿によそい、一護に差し出した。
「目が覚めてからも、食欲が無いことは四番隊の者から聞いている。だが、そろそろ何か腹に入れたほうが良いだろう?」
 一護は暫く、差し出された白がゆを見つめ、ぽかんとしていた。ん、と再度白がゆを突き出されたので、
「お、おう…サンキュ」
 ようやく受け取った。
 そして、レンゲを使って白がゆをすくい、口に運ぶ。
「美味い」
「…そうか…」
 黙々と食べ続ける一護を立ったまま見ているルキアに、恋次は自分が座っていた椅子を置いてやり、座るよう促す。彼女は少し迷っていたが、大人しく座った。恋次は部屋の隅に行き、椅子を持って来ずに壁に背を預け、腕組みをした。
「あの…一護。…私は…」
「おかわり」
 言葉を遮って、目の前に空になった取り皿を出される。ルキアはそれを受け取ると、再び土鍋の白がゆをよそう。
「…言ったはずだぜ。俺はお前に、感謝してる・って」
 また差し出そうとしたルキアの手が、止まる。
 一護は窓越しに外を見た。
「死神の力をお前から貰ったから、俺は皆を護って戦える。ずっと見えるばっかで、何もできなかった自分が、やっと何かできるようになった」
「でもそれで、何度死にかけたことがある?」
 ルキアの問いかけに、一護は小さく笑う。
「…数え切れねぇな」
 腰をひねって恋次の方を見、
「あいつにも殺されかけたし」
 と言うと、
「俺はオメーに殺されかけたっつーの」
 と笑った。でも、ルキアは笑えない。
「ならば…元々お前は人間なのだ。これ以上…」
「俺は、死にかけんのが嫌だなんて言った覚えないぜ」
 予想もしなかった発言に、ルキアが眉間に皺を寄せる。恋次も変な顔をしていたので、慌てて言い直した。
「いや、好き好んで死にかけてぇとは言ってねぇぞ!? …ただ、俺はもっと、嫌なことがあんだ」
 二人は首を傾げる。
 母親を亡くしたあのときから、きっと、ずっと思い続けていること。
「何も出来ず、大事な奴をただ見送る」
 恋次は息をするのも忘れ、その言葉を頭の中で反復した。
 ルキアは「あ」と思わず声を出す。そういえば、前にもそんなことを聞いたことがあるような気がした。
「そんなことはもう、あっちゃいけねぇと思うんだ」
 雨の中で感じた悲しさを、もう二度と感じたくないと思うし、誰であろうと感じさせたくなかった。
「俺にとって、死神の力は、そのための道具なんだよ」
 西日が直接部屋に差し込んできて、一護は眩しそうに目を細めた。その後、数回咳き込む。
「大丈夫か?」
 ルキアに尋ねられても暫く咳を続け、治まると浅く呼吸をしながら頷く。
「それに、今回は完全に、俺、自分で戻ってきちまったし。もう無駄だって、分かったろ?」
 ニッと笑ってみせる彼の顔を見て、ルキアは溜息をつきながらも呆れたように笑った。
「全く…私は貴様を思ってやったのにな」
「それが余計だっての。そんぐらい分かれよ」
 一護の言い草に、ルキアが、ム、と目を吊り上げる。
「私の思いやりというものにも気付かぬのか? 貴様は!?」
「あぁ!? だーかーら、テメェの思いやり≠ヘ今回、俺にとって迷惑≠セったんだって言ってんだ!」
「なんだと!? 一護、そこに直れ!」
 と、ルキアは自分の目の前の床を指差す。
「無茶言うな! まだ立てねぇんだぞ俺は! つーか直る気もねぇ!」
「ああもう、待て! 待て!!!」
 あわてて恋次が二人の間に割って入る。
「「邪魔だ恋次!!」」
 見事に同じ言葉を同時に言ったので、なかなかの声量に恋次の鼓膜が激しく震動するが、負けじと声を出す。
「いや二人とも、気付いてくれッ!!!」
 そこで、シンと鎮まる。恋次は冷や汗をかきながら微動だにせず、一護とルキアは揃って扉の方を見た。卯ノ花が、立っていた。
「う……卯ノ花…隊長……」
「卯ノ花…さん……」
 血の気がスーッと引いていくのが、よく分かった。
「お元気そうで、何よりですね」
 ですが、と口許には笑みが浮かんでいるが、瞳は剣呑に帯びていた。
「ここは綜合救護詰所。沢山の怪我人や病人が収容されています。あまり五月蝿くはなさらないでくださいね」
「す、すみません…」
 ルキアは深く頭を下げ、一護も同じように頭を下げた。
「あと、黒崎さん?」
「はい…?」
 一護の全体を眺め、困ったように笑う。
「精神面では随分回復されたようですが、貴方の身体、少し震えてますね?」
「あ…」
 怒鳴り合っていて気付かなかったが、たしかに自身の体が震えていたので、驚く。
「あとで山田七席をこちらに向かわせますので、大人しくお待ちなさい」
「分かりました」
 卯ノ花が出て行くと、三人は同時に息を吐き出した。
「…驚いたな…」
「ああ、びっくりした…」
「焦ったぜ…」
 ボソボソとそう言葉を交わしていると、再び扉が開き、卯ノ花が相変わらずの笑顔で、
「何か?」
 と尋ねる。三人は揃って
「「「いいいいいいえ! ななな何でもありません!!!」」」
 と青くなって言った。「そうですか」と頷き、扉を閉じて去っていく。
(地獄耳…)
(地獄耳だ…)
(おっそろしい…)
 三人はまた同じことを思っていたが、口に出すとまた戻ってくるような気がして、何も言わなかった。
 それから暫く他愛も無い話をし、一護は白がゆを食べた。
「では、私はそろそろ戻る、一護」
「俺もだ」
 食膳を持って立ち上がったルキアに、恋次も並び立つ。
「おう。ありがとな」
 一護は少し手を挙げた。
 二人が出て行こうと扉を開けると、丁度花太郎が入ろうとしていたところだった。
「あ、ルキアさん! 阿散井副隊長も…! お、お疲れ様ですぅ!」
 ペコリと頭を下げる花太郎に、ルキアは微笑む。
「ああ。花太郎、一護を頼んだぞ」
 恋次は一護を振り返って、
「じゃあな!」
 と言って、ルキアと共に一護の病室を後にした。 
 廊下を歩いている最中、
「すまなかったな、恋次」
 彼を見た。恋次は怪訝そうな顔をする。
「何がだよ?」
「私が、間違っていたようだ」
 その言葉に、恋次は幾度か目を瞬かせ、笑みを浮かべる。
「だろ?」


「っ痛……」
「あぁ! すみません! 大丈夫ですか?」
 顔を顰めた一護に、慌てて声をかける。彼は顔を上げ、苦笑した。
「ああ。もう、大丈夫だ」
 ホッと息を吐き、花太郎は治療を再開した。
 治療を受けている一護の病室は、夕日でオレンジ一色に染まっていた。

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