■ 第十五章:憤怒の斬撃


 留まることを知らぬ泡沫は


 人の鼓動とよく似ている








 雨は、止まない。きっと。ずっと。

(…………)
 一護は瞼を持ち上げる。灰色の空が見えた。
 彼は今、力なく地に仰向けで倒れている。雨で死覇装も髪もびしょぬれだが、何も感じなかった。倒れている場所は、母親の死んだ川原。妙だとは、思っていた。自分の足が、自らの身体を支えることができなくなって、こうして倒れることが異常に楽であるということは、どう考えてもおかしい。
 まるで植物だと、自分で思う。
 ただこうして、倒れているだけ。ただこうして、呼吸をして、空を見ているだけ。
 柄を握る手に、力は少しも込められていない。斬魄刀の柄に、手を添えているのみだ。虚ろな瞳は、雨の一粒一粒を、ぼんやりと映した。
 過去のあの出来事を目の前に見せ付けられ、そしてそれきり、幼き一護と血だらけの母親は、消えた。しかし、だからといってこの悪夢から目覚めることはできなかったし、耳には嫌というほど、かつての自分の声が響く。
 今の一護は、あまりに生気に乏しかった。幾度か瞬くので、やっとそれで生きていることが分かるくらいで、それがなければ死人に見える。

 一護という名は、一つのものを護り通せるようにという願いが込められていると聞いた。だから一護は、いつも自分自身を護ってくれる母親を護りたいと思った。だから空手の道場に通い、少しずつ、肉体的にも、精神的にも、強くなった。
 強くなったら、沢山のものを護りたいと思った。でも母親が、一番護るべき人であることに変わりはなかった。

 でも、死んだ。
 一護のせいで。

(護ろうと、決めた、人を)
 二回、瞬いた。まつげについた水滴が、頬についた。それもまた、雨で洗い流されていく。
(護れなかったなら、どうせ、これからも、護れない)
 息を吐き出した。随分久しぶりに呼吸をしたように感じた。
 自分は護られてばかりだ。母に護られ命を救われ、ルキアに護られ命を救われ。どうせ護ることなどできないのに、どうして自分は「護る」といつも大口を叩く。無理なら無理といえばいいのに。
(……寒い…)
 ふと思った。体温がどんどん無くなっていく。当たり前だ。こんなに長い時間、雨に打たれ続けているのだから。
 自分は、何故、嘘ばかり―――。

 目を閉じた。もう二度と開きたくないと、少しだけ思った。
 初めはそれだけだったが、一度そう思ったら、本当にそう考え始めている自分がいた。目を開けても、苦しんだり助けを求めたりしている人が見えても、どうせ助けられないなら。見たくない。何も。
 もう、ここに、いたくない。
 これが最後、と。一護は、深く息を、吐き出した。


 先程の声と同じように、また違う男の声が、頭に響いてきた。
『…黒崎…! 恥を承知でてめぇに頼む…!! …ルキアを…! ルキアを、助けてくれ………っ!!!』
 
 ピクン、と。身体が一瞬、反応した。
 ―――――誰の、声だっけか?
『…敗北が恐ろしければ、強くなればいい』

 ピクリ、と。一護の手が、倒れてから初めて、動いた。
 ―――――誰の声だか、分からねぇ…。

『仲間を護れぬことが恐ろしければ、強くなって必ず護ると誓えばいい』

 ―――――馬鹿野郎。いくら強くなっても、俺は現に護ることができていない。何も。

『内なる虚が恐ろしければ、それすら叩き潰すまで強くなればいい』

 ―――――馬鹿野郎。いくら強くなっても、俺は未だに自分自身が、完全な虚化をしてしまわないか、恐れている。
 諦めの心が、一護を飲み込もうとした、その瞬間。
 先程までより、遥かに大きな声で、頭に響いた。それはもう、痛いほどに響いた。

『他の誰が信じなくとも、ただ胸を張ってそう叫べ!』

 突如、赤髪の死神と、黒髪の死神が、頭に浮かんだ。鮮明に、表情が、見える。
 二人とも、腕組みをして、自棄に挑戦的な瞳でこちらを睨みつけていた。
 黒髪の死神が、叫んだ。

『私の心(なか)に居る貴様は――――そういう男だ! 一護!!!』

 ―――――る き あ 。

 平仮名が三つ、蘇る。るきあ…るきあ………。
 そして、赤髪の死神が、叫んだ。

『てめぇが、いつから勝ち負けを計算するようになった!? みっともねぇ! そんなことだからビビんだよ! 勝てる気がしねぇだと? 尸魂界に乗り込んだときのてめぇは、そんなこと、考えなかっただろうがぁッ!!!』

 ―――――れ ん じ 。

 平仮名が三つ、蘇る。れんじ…れんじ………。


『ありがとう。一護』


 バチッと、鞭か何かで叩かれたかのように、跳ね起きた。
 そうだ。ルキアと、恋次。この二人には、度々喝を入れられてきた。
 そして、自分は母親を護れなかったが、それなら今後は、どんなものも絶対に護ると自分の魂に誓った。それが母親への償いであり、名付けてくれたことに対する恩返し。
 自分はルキアを護った。処刑から、助け出した。あのとき、自分の中の雨は、止んだはずだった。
 なのに今、ここでは雨が降っている―――。

「……この、野郎…!」
 ふらりと、立ち上がった。足に力が込めにくい。しかし、先程とは変わって、しっかりと目は開かれていた。
 斬月の柄を改めて握り締め、一度歯を、力一杯食いしばる。
「他人の記憶使って遊びやがって………!」
 最悪な気分だ。記憶が滅茶苦茶だ。呼吸も荒い。身体も重い。
 たしかに当時、自分は、一人で全てを背負い込もうとしていた。重くて、潰れそうだった。感情が多すぎて、溺れそうだった。だけど。
「俺はもう、一人じゃねぇんだよ!!!!」
 灰色の空に向かって、咆えた。
 そして、もう一つ。今の一護には、確信して言えることがある。
「おふくろは、今でも、あの日からずっと! ここにいる!!!」
 一護は、自分の心臓のあたりを親指で指し示した。
 自分は母親のことを忘れたことなどない。自分を護り続けてくれた、大好きな母親のことを忘れることなどできない。黒崎真咲がどのような人間だったのか、今でもはっきりと思いだせる。
 真咲は今でも、一護の心の中で生き続けている。一護は、そう信じていた。たとえグランドフィッシャーに殺され、グランドフィッシャーに魂も全て奪われていたとしても、そんなことは問題ではない。問題なのは、心だ。それはきっと、奪われることなくどこかにある。一護の中か、一心の中か、夏梨の中か、遊子の中か、もしくは未だにどこかに取り残されているのか。
「違うよ。お前のせいだ」
 ふいに声が聞こえ、一護は視線を下に落とした。
 オレンジ色の髪の少年――――幼き一護が、いつの間にかそこに立っていた。
「お前が母ちゃんを殺したんだ。だから僕もここで殺すことになっちゃった」
 ゴシゴシと涙を拭い取りながら、少年は怒鳴るように言う。
「お前のせいだ! 母ちゃんを返せ!」
「………ああ。俺のせいだ」
 涙を流しながら訴える、幼い自分に、一護は静かに言葉を紡いだ。
「俺のせいだから、俺がおふくろの分も生きる」
「そんなのおかしい! 母ちゃんの人生は、母ちゃんのもの! お前が代わりに生きるなんて、おかしい!」
 だから、と一護は苦笑した。先程までのことを考えると、不思議なほど一護は落ち着いていた。落ち着いて、母のことを考えられた。でも自分自身だから、どうして少年が泣いているのかは容易に分かる。言い分も分かる。自分もそう考えていたことが、あったから。
 斬月を持ち上げて、霊力を集中させる。
「おふくろの分、俺は沢山の人を護る」
 幼い自分に、微笑みかけた。
「俺は、一護≠セから」
 そして、一思いに、
 幼き一護の―――自分自身の言葉を聞かずに、一護は、叫ぶ。

「月牙天衝!!!!!」

 月牙天衝を放ち、雨を落とし続ける空へ、吸い込まれる。
 それから間もなくして、一護の周りの風景は、パリン、と鏡が割れるようにして、崩れていった。

   *   *   *

 再び鏡死に雨蝉菩薩を振るわれ、ルキアは直撃を避けて、袖白雪で応戦した。しかし、元々剣の才に乏しいルキアの攻撃は、容易にかわされてしまう。
 雨が止まず、一護も戻らず。ルキアは荒い呼吸を続けながら、鏡死を見据えた。
「…ん………?」
 鏡死は訝しげに自分の斬魄刀の刀身を見つめた。ほんの僅か。数ミリ程度の傷が、できていた。それは、剣と剣のぶつかり合いでは到底出切るはずのない、不自然なものである。
 チラ、と俯いて微動だにしていない一護に目をやる。
「……へぇ。すげぇな、やっぱ」
「…?」
 ルキアが袖白雪を構えたまま、鏡死の視線を追って一護を見た。
「黒崎一護、記憶の中で自棄にしっかり戦ってくれてるみてぇだな。俺の斬魄刀、ちょっとだけダメージ受けてら」
 まぁ、どっちにせよ、結末は変わらねぇけど。不敵に笑う。
 この雨蝉菩薩の能力、霞の界≠ヘ、雨が止まない限りは対象の精神をとらえ続ける。そして、この雨を止ませるには、使い手の鏡死自身の集中力を一度、解かせる必要があるのだ。しかし、不意をつくにしても、彼の相手はルキア一人。他の死神は、それぞれの相手に苦戦を強いられているはず。どうすることもできなかった。
 ルキアは悔しそうに唇を噛み締める。なんとかして、一護の精神を解放しなければ、と思う。いくら彼でも、この長時間の精神への攻撃に余裕で耐えられることなどない。
「ゴチャゴチャ考えても、何も変わらねぇよ?」
 見透かしたように、鏡死は呆れ顔をする。
「うるさいっ!」
 袖白雪で斬りかかるが、それもまた雨蝉菩薩ではじき返されてしまう。
「無駄だって。めんどくせぇから、さっさと…」
 そこで、鏡死の表情が変わった。ゴクリと息を飲む。しかしそれは、彼に限ったことではない。
 ルキアも驚愕に目を見開き、固まった。
 この現世にいる死神の、否、霊力のある誰もが、動きを止めて、驚きのあまり呼吸も止めた。
 恐ろしく巨大な霊圧が、この空座町を包み込むようにして発生しているのだ。皆、その霊圧に押しつぶされないようにと、必死に足に力を込める。

「なんだっ…!?」
 ユリイを氷輪丸で追い払いながら、日番谷が呟く。
「隊長、これって!?」
 乱菊が日番谷を見るが、彼も、わからないと首を横に振った。
 ユリイも、不思議そうに天を仰ぐ。

「貴様、まさか新手を…!」
 砕蜂が叫ぶと、撫子も狼狽しながらも叫び返した。
「阿呆か! アタイかてむっちゃ焦っとるがな! あんたらと違うん!?」
「この霊圧は…」
 夜一は周囲を見回して、一瞬だけ笑った。 

 眉一つ動かさず、攻撃に集中する白哉に、亞丹は焦った様子で言った。
「ちょっ、ま、まつッス!! この霊圧気になるし! ちょっとストップ!!!」
「………」
 しかし白哉は、攻撃をやめようとはせず、亞丹の方は謎の巨大な霊圧に動揺していた。

 濤目が、動きを止めて、手を腰に当てた。
「うひゃー、なんかすごい霊圧……君達の仲間?」
 恋次が瞬歩で間合いをとり、肩で息をしながら小首をかしげる。
「知るかよ…!」
「つれないなぁ。もう少し会話してくれたっていいじゃん」
「冗談じゃねぇぜ」
 鼻で笑い、狒狒王蛇尾丸を再び操る。
 しかし、恋次も思っていた。一体誰だ、と。


 そして、霊圧が、震動した。空気を震わせて音を伝えるのと同じように、霊圧が震動し、それに乗って聞こえてきた声は、
「はーっはっはっは!! はははははっ!!!!!」
 という、笑い声だった。
 何事かと皆がその声が聞こえたほうを見ると、そこには、体中に包帯を巻きつけた剣八が立っていた。
「更木!?」
 大変驚いた様子で、日番谷が叫んだ。
 剣八は斬魄刀を振りながら、ゆっくりと歩く。その先に、水の巨人が現れた。檜佐木達が戦っていた二体のうち、一体がこちらに瞬間移動したのだ。水であるゆえに、その形を崩して場所を移し、すぐにまた巨人を形成することは簡単なのだ。
「邪魔だぁ!!!!」
 斬魄刀を振るうと、一瞬にして水の巨人はその形を失った。が、無論再び形を元に戻し、剣八に向かい合う。
 今度は巨人が、水で形作られた大刀を振り下ろすと、剣八はそれを受け止めた。しかし、思いのほか強い打撃に、剣八は嬉しそうに笑った。
「なかなか強ぇじゃねぇか! 面白ぇ!!!」
「隊長ォ!!!! お、大怪我してたのになんっつー人だ! 弓親、行くぜぇ!!!」
「全く、さすがだね!」
 一角と弓親がすぐさま剣八の近くまで駆けて行く。
 剣八が大刀と格闘していると、突然水が噴き出した。
「………あぁ…?」
 その水は見る間に大刀を形成し、その数はなんと腕の本数の倍…十六振りにまでなった。
 対処する余裕もなく、その十六振りは一気に、剣八へと叩きつけられる。
「!!!!!」
 一角と弓親が、さすがに表情を失くした。いくら剣八が強いとはいえ、あれでは――――、

 バッシャアアアッ!!!!
 突然、十六振りの水の大刀が、崩壊した。
 何が起きたのだろうと、全員が目を凝らす。水が滴り落ちる中に、剣八はいた。そして、その彼の隣りには、小さな死神の姿。
「あーあ。なーんだ。やっぱり弱いんだねぇ?」
 やちるだった。
「何っ!?」
「あ、えーっと、あの結界なら、簡単に敗れちゃったよ! あたしを捕まえておきたいなら、もうちょっと強めにしないとダメだよ〜♪」
 これには完全に意表をつかれたように、鏡死が目を見開く。
 死神達も、驚いていた。さらわれてそのまま監禁されていると思われていたやちるがいることは勿論そうではあるが、ほとんどの死神が、初めて見たのだ。やちるが斬魄刀を抜いている姿を。
「おう、やちるじゃねぇか!」
「うん♪ 久しぶり、剣ちゃん!」
 ニコッと笑い、やちるは斬魄刀を構えた。それを見て、剣八は驚いたように言った。
「やちる、今回はお前もやんのか?」
「うん! あたしもやるよ♪ だってね!」
 そのとき、一角と弓親は、ゴクリと唾を飲み込んだ。剣八は表情は変えなかったが、何かを感じているらしかった。
 ゴウッ、と、やちるから強い霊圧が吹き出し始める。やちるの顔から、笑顔が消えた。
「あたし、今、と――――っても…怒ってるんだよ?」


 ルキアの小さな声が聞こえたような気がして、あわてて鏡死は視線を彼女へと戻した。
「…止んだな。雨」
「!!!!!」
 しまった――――!
 そう思ったときには手遅れで、一護からも、歪み始めていたはずが、安定したものとなって霊圧が感じられ始める。
 ゆっくりと、一護が顔を上げた。瞳の光は元通り灯されていて、鏡死が思っていたほどダメージを受けている様子はなかった。
「一護、無事か!?」
 ルキアが尋ねると、一護は頷いた。
「ああ。一つ言うなら、不愉快ってことぐらいじゃねぇか?」
 一護は、斬月を構えなおすと、真っ直ぐに鏡死を見つめた。
 何か決意が固まったような、強い力を感じる。
「……月牙…」
 今の一護に技を使われると、こちらが完全に力負けするような気がした。あわてて、鏡死は雨蝉菩薩を力強く振るった。すると、そこから水色の液体が放たれた。それは一護の、斬月の柄を握る手に直撃する。
「っ!? なんだ、こりゃ!?」
 一護があわてて取ろうとするが、まるで瞬間接着剤か何かのようで、なかなかとれない。完全に固定されてしまっている。
 それを見て暫くしてから、ルキアが信じられないようにして、鏡死を見つめた。
 ルキアは、知っていた。この技を。自分も食らったような記憶があった。そして、ようやく一つの記憶に行き着いたのだ。あれは、ルキアが一護に大怪我をさせてしまったと悔やんだときの、虚との戦闘のこと。あのとき自分は、この液体と同じものを身体に浴びて、身動きがとれなくなった。そのせいで、一護は危うく死にかけた。
「どういうことだ…! その技は、虚の…!」
「ほおー…覚えてたか」
 ニヤリと笑い、鏡死は頷いて見せた。
「そうだ。あのときの虚が放ったもんと同じだ」
「どうして貴様が!」
 斬月と固定されて、上手く動かせなくなった右手につく液体を、左手で必死になって剥がそうとする一護に目をやり、鏡死は言った。
「当初俺は、黒崎一護がどんな奴なのかをよく知らなかったんでな。正直、肉体は何でも良かった。だから、あの虚に乗り移って、テメェらを襲ったのさ」
 その言葉を聞いて、一護も驚いた様子だった。
 なるほど。これで、あのときの虚が異常な強さを誇っていたことに納得がいく。
「まさか虚化での力があれほどとは思ってなかったんでな。あの虚から抜け出すのが一瞬遅かったら、俺は消滅してた。そんで確信したぜ。世界を壊す為には、まず、黒崎一護を殺すしかねぇ、ってな。本当はあんとき殺せたって思ったんだけどよ、四番隊の連中がうまいこと来たんだから、ホント悪運強ぇよな」 
 黙っていると、カチャカチャと小刻みに音が聞こえていることに気付いた。その音源を辿ってみると、それはルキアの握る袖白雪の音だった。彼女の袖白雪を握る手が、震えているのだ。
「お、おい…? ルキア?」
 一護が声をかけるが、ルキアは肩を震わせたまま、何も言わない。


「!!!」
 濤目が表情を急変させた。
「ぁ…? どうした?」
 恋次が眉を顰めると、突然濤目は瞬歩で恋次の正面にまで移動した。
「なっ…!?」
 間髪入れずに、濤目は恋次の左腕に手を伸ばしかけて、やはり右腕を掴んだ。グンッ、と身体が引っ張られる感覚があり、恋次は狒狒王蛇尾丸ごと、空座町へと背負い投げられた。
「うわあああああぁぁッ!!!??」
 初めて、濤目が本気を出したように思った。しかし、何故突然…?
 恋次は急降下していき、円閘扇を突き破った。複数の下級死神達から、叫び声があがる。
「縛道の三十七! 吊星!!」
 彼が落ちてきたことに気付いたイヅルが叫び、霊圧の床で恋次を受け止めた。
「阿散井君!」
「お、おう…すまねぇ、吉良」
 恋次は顔を上げ、濤目を捜す。そして次に、自分の左腕に目を落とした。
(あいつ…さっき、俺の左腕…折れてるからって気を遣ったのか……?)
 なんだか、妙な気分だった。


 こやつが…一護を殺そうとした。あのとき。こやつが…! こやつが!!!
 ルキアは目を血走らせて、袖白雪を構えたまま全速力で鏡死へと突っ込んでいった。
「ま、待て! ルキア!!!」
 一護の叫びも無視して、ルキアは怒りに任せて袖白雪を斬りかかる。
 無論、そのような真っ直ぐの攻撃が、鏡死に通用するはずなどない。
「少海の浮世=v
 鏡死がそう言葉を紡ぐと、雨蝉菩薩の刀身から水が流れ出始めた。それは、グリフィンとよく似た姿を形作る。あの水の巨人よりも凶暴そうであった。その水グリフィンは、容赦なくルキアに襲い掛かる。
 ルキアも、迂闊だったと今更感じた。
「ルキアああぁあ!!!!」
 水グリフィンの鋭い爪が、ルキアに向かって振り下ろされる。
 ダメだ、と、思った。

「水天逆巻け、捩花!」

 しかし、その水グリフィンの攻撃は、三叉槍に阻まれた。
 覚えのある斬魄刀の名と、解号に、ルキアは驚きを隠せずに顔を上げる。

 そこで、斬魄刀・捩花で水グリフィンの攻撃を受け止めているのは、濤目だった。

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