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「ホリィさーん!」
幸せな日々とは長くは続かないものである。
邪悪は平穏を侵食し始める。
そして今。
「お洗濯のお手伝い終わりましたよー。ホリィさーん!‥‥あれ、いないのかな」
私は朝からホリィさんのお手伝いが終わり、ホリィさんを探していた。
家にお邪魔しておいて何もしないのは気が引けたからだ。
しかし、肝心のホリィさんが全く見つからない。
「‥‥‥まさか」
嫌な予感が奥底から湧き上がる。
いや、予感ではない。私は知っている。ホリィさんに何が起こっているか。
私は急いで台所に走り出した。
少し走ったところで見覚えのあるガタイのいい体が目に入る。承太郎だ。
「おい、ないこ。バタバタ走るんじゃねぇ」
「承太郎‥‥ねぇホリィさん見なかった?」
私がそう言うと承太郎のしかめっ面が少し動揺したものに変わる。承太郎は無言だったが私も察した。ホリィさんが承太郎の見送りにも来ないなんておかしい。
私と承太郎は一斉に走り出す。向かった先は台所。
そこには‥‥。
「ア、アヴドゥルさん‥‥」
「‥‥‥。」
苦しそうに倒れるホリィさん。そしてそんなホリィさんを抱きかかえるアヴドゥルさん。言葉を失う私の隣ではいつの間にか側にいたジョースターさんが承太郎に掴みかかっていた。
知っていた、分かっていたことなのに‥‥。
ホリィさんの背中に手を這わせる。だが、昨日の花京院の傷のようにホリィさんの苦しみは消えるわけでもなく、私は無力な自分を嘆いた。
‥‥いや、1つだけ、私にもできることがある。
「DIOを見つけ出すことだ!DIOを殺してこの呪縛を解くのだ!それしかない!!」
ジョースターさんの声が耳に入る。そうだ、そして私にできることはその旅に同行すること!そして私の目的は‥‥誰も死なせないことッ!
迷いはなかった。私はそのためにここにきた。
ぎゅっと自分の拳を握る。爪が食い込んだが気にはならなかった。
そんな私の肩を誰かがぽんっと叩く。驚いて振り向くと‥‥。
「やはりエジプトか‥‥いつ出発する?わたしも同行する」
「花京院」
「花京院‥‥!」
「同行するだと?なぜ?おまえが?」
「そこんところだが‥‥なぜ‥同行したくなったのかはわたしにもよくわからないんまがね‥‥」
そう言った花京院の目にも迷いは感じられなかった。
承太郎はそんな花京院を見てケッと一言放っただけで他は何も言わなかった。
「JOJO、ないこ。占い師のこのおれがお前たちの「スタンド」の名前をつけてやろう」
「え、私も?」
アヴドゥルさんの突然の発言に驚く。
「私、スタンド像もまだ出てないのに?」
「あの力は間違いなくスタンドだ。最初のうちにスタンド像が現れにくいのはよくあること。さぁ、このタロットから無造作に1枚引く」
アヴドゥルさんはそう言って承太郎の分のカードを引く。出たのは星の暗示のカード。
そして次に私のカードを引いた。
「‥‥!?」
のだが、アヴドゥルさんの様子が少しおかしい。
「どうしたんですか?アヴドゥルさん」
「おかしい‥‥こんなカード、いれた覚えが‥‥」
そう言うアヴドゥルさんが持つカードを除きこむ。そのカードは‥‥。
「え、ま、真っ白‥‥?」
真っ白。白紙。何も描かれていなかった。
しかもそのカードはただ真っ白なだけではなく何故か不自然にボロボロだったのだ。まるで刃物で傷をつけられたように。
「アヴドゥル〜、なにをやっとるんだ」
「もう一度引き直しますか」
ジョースターさんと花京院がそう言う。
しかし、アヴドゥルさんは力強い口調でこう告げた。
「いや、これこそがないこの力の暗示。君のスタンドの名は‥‥傷だらけの白(ハートブレイクホワイト)。他者を守るため自らの痛みも問わない、慈愛と癒しのスタンド」
「私の‥‥スタンド‥‥」
その瞬間。
ぶわ‥‥っと暖かな風のようなものを背に感じた。ゆっくりと後ろを振り向くと‥‥ツギハギだらけの体に純白のナース服をきた女性のような天使のようなビジョンが優しく佇んでいた。
「これが、ないこの‥‥」
他のみんなも驚きで動かない。
だが一番驚いているのは私だった。
「私の‥‥力‥‥」
望んで得た、みんなを守る力。
傷だらけの白。
ハートブレイクホワイト。
「行こう承太郎。エジプトに」
戦う覚悟は、できていた。
「‥‥ああ」
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