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夢を見ていた。
真っ黒な世界にしゃがみこんでいる私。

「ここは‥‥」



「お前のせいだ。」

その声にハッとして振り返る。

「‥‥承太郎‥‥‥」

私に声をかけた張本人である承太郎はただ無表情で私を見つめる。

「お前のせいだ。」

その口からは同じ言葉が壊れたレコードのように何度も何度も吐き捨てられる。

「お前のせいだ。」

「承太‥‥郎?」

何かがおかしい。そう思った時、暗くてよく見えなかった承太郎の顔に少しだけ光が差す。
私は、声を出すことができなかった。

「お前がいなければ承太郎は死なずに、このDIOに屈することなんぞなかったのになぁッ」

DIO。私の目の前は奴がいた。承太郎の体を乗っ取って‥‥‥。


「いやぁあああああああッ!!!」







ブーンブーンブーン

不気味な羽音でハッと目が覚めた。
‥‥すごく気分が悪い夢を見た。額に汗が滲んでいる。
だがしかし、今はそれを気にしている暇はない。

今、私たちはエジプト行きの飛行機の中にいた。前にはアヴドゥル、隣には花京院、後ろにはジョースターさんと承太郎が座っている。
どうやらみんなこの羽音で目を覚ましたらしい。

「か、かぶと‥いや、クワガタ虫だ!」

承太郎が真っ先に声をあげる。
‥‥嫌な予感がする。だが私はその嫌なことが思い出せなかった。頭に靄がかかったように、記憶は閉ざされている。
私がジョジョの奇妙な冒険のストーリーを忘れるはずがない。何かがおかしい。まさか‥‥。

「私が物語を改変しすぎないように‥‥近い記憶から消えている‥‥?」


「じょ、承太郎ッ」

突如自分の世界に入っていた私を呼び戻すようにジョースターさんたちの声が響く。
見るとスタープラチナの歯があのクワガタ虫のスタンドの口針をギリギリ止めていた。だが口針はスタープラチナの手のひらを貫通しており血がしたたっている。
承太郎はスタープラチナの素早いラッシュで敵を仕留めようとしたがそれらは全て交わされてしまう。
そこからクワガタ虫が乗客の舌をを引き抜くまで時間はかからなかった。

「ひっ」

思わず声がでてしまう。
しかし、すぐに私の両目を温かい手が覆った。

「か、花京院‥‥?」

「大丈夫かい?」

「うん、ありがとう‥‥」

「礼には及ばないさ。それと‥‥」

花京院はゆっくりと足取りを進める。行く先にはこの騒ぎで目が覚めてしまった老人。

「ひ‥‥血「あて身」

花京院は老人に呻き声をあげさせる隙もなくあて身で気絶させた。
‥‥なんかちょっと記憶思い出してきたけど、どう考えてもあて身早かったよ花京院‥‥。どうしたんだい、花京院‥‥。


そして、花京院が更に前に出る。タワーオブグレーと戦闘をするつもりだ。そんな彼の姿はとても勇ましい。
花京院を見て私も自分のできることを思い出す。

「承太郎、手のひらと口を見せて」

「‥‥なにする気だ」

「何って治療よ、治療」

「これぐらい平気だ。いらん」

「はぁ!?平気なわけないでしょ!‥‥もしかして私に痛みが返ってくるからって気にしてるの?」

私がそう言うと少しだが承太郎の目が私から外れる。
あ、これ図星だ。

「ハートブレイクホワイト!」

そう思った私は承太郎の目線が外れたのを良いことに自分のスタンドを呼び出す。
承太郎は「なっ」と小さく声をあげたが時はすでに遅し。
私のハートブレイクホワイトは承太郎の傷を綺麗に治していた。

「私に返ってくる痛みなんて半分の、しかもたかが数分だよ。全然平気。」

「‥‥チッ」

承太郎は小さく舌打ちをしたが分かってくれたらしい。相変わらず目をそらされたがこれも彼の優しさの裏返しだ。

そして私は更に花京院の方へ向き直す。
彼は今まさにタワーオブグレーと熾烈な戦いを繰り広げていた。
タワーオブグレーは花京院のハイエロファントの触足を軽々と交わし、ハイエロファントに攻撃する。笑い声がとてつもなく耳障りだ。気持ちが悪い。

「花京院!」

思わず叫んでしまう。
しかしよく見ると、舌は抜き取られてはいないようで傷は浅そうだ。あの程度ならすぐ治療できる。だが、今私のハートブレイクで治そうとすれば彼の戦いの邪魔になるだろう。
歯がゆい時間が続く中、まさに言葉の通り歯にハートブレイクの反動の痛みがやってきた。しかし、今はそれすら気にならない。
私は静かに花京院を見守っていた。それは承太郎も同じだ。

「俺のスタンドで舌を引きちぎられたやつは苦しみで狂い悶えるんだァッ!」

タワーオブグレーのゲスい笑い声が響く。しかし、花京院はすぐに爽やかな笑みを浮かべた。

「わたしのハイエロファントは、引き千切ると狂い悶えるのだ。喜びでな!」

花京院のその言葉と同時にタワーオブグレーの体が凄まじい音と共に引き裂かれる。
私はその一瞬の間にハートブレイクを呼び出すと花京院の口の怪我を癒す。
せっかくの攻撃を無意味にされ、タワーオブグレーはまさに身も心もズタズタにされて喚き声をあげる。その瞬間、先ほど花京院が当て身を食らわした老人の舌が真っ二つに割れた。

「う、うわぁ‥‥」

「ゲスなスタンドにはゲスな本体がついてるものだな」

何はともあれ花京院のおかげで敵を無事倒すことができた。

「ありがとう花京院。あなたのおかげだよ」

「いや、むしろわたしのほうこそすまない。傷を癒してもらってしまって」

「なんで謝るの?承太郎も花京院も遠慮しすぎ。痛みが返ってくるって言ったってたかが知れてるってば!」

「だが‥‥」

そんな話をしていると。

「‥‥おい。この飛行機なんだかおかしくねぇか」

「そういえばなんだか少し傾いて‥‥まさか!」

承太郎とジョースターさんが何かに気づき、突然走り出す。
向かったのはコックピット。
承太郎は制止するキャビンアテンダントさんたちを完全に無視して先へ進む。

キャビンアテンダントさんたちはきゃっ!と可愛らしい声をあげ体をよろけさせた。が、それを花京院が紳士的に受け止めてみせた。

その様をまじかで見るとその王子っぷりがこれでもかというほど伝わる。そんな花京院を見て顔をぽっと赤らめるキャビンアテンダントさんもなんとも可愛らしい。
そんなキャビンアテンダントさんと、それに笑いかける花京院を尻目に私は承太郎へ近づいた。

「‥‥どうしたないこ」

「いやなんか‥‥なにかに負けたような」


キャビンアテンダントさんたちが美人なのが悪い。
‥‥ああ、嫉妬だ嫉妬の何が悪い!

「やれやれだぜ」


承太郎がそう呟いた数秒後、ジョースターさんの呪いのように飛行機は墜落。原作通りの道筋を歩むことになっていくのだった‥‥。



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mae ato
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