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朝、私は空条家でホリィさん特製の朝ごはんをご馳走になっていた。
「ホリィさんのごはん最高です!この玉子焼きもお味噌汁も!」
「うふふ、ありがとう!ないこちゃん、遠慮せずにどんどん食べてね!」
そう言って笑うホリィさん。
美人だし優しいし、素敵なお母さんだよ本当。
「あー、嬉しいわぁ!娘ができたみたい!あっ、娘というよりお嫁さんかぁ!ねぇ、承太郎?」
「ぶっ、ホ、ホリィさん何言って!」
ホリィさんの発言に思わず味噌汁を吹き出しかける。
そして隣で食事する承太郎の目が怖い。凄く怖い。
「ババア。冗談もその辺にしな」
「はぁ〜い!あ、承太郎おかわりまだいる?」
「いらねぇ」
そう言うと承太郎は席を立ち鞄を手に取る。
そして何故かじっと見つめられた。
「な、なに‥‥?」
「‥‥。」
「だ、だから何」
「嫁にくるにはちぃとちんちくりんすぎるな」
「‥‥は?」
承太郎はそう吐き捨てるように私に言い放ったあと鼻で笑いながらその場を立ち去った。
「ち、ち、ちんちくりん〜!?」
酷くない!?流石に酷いよね?
確かに頭の中能天気なやつなのはわかってるけど!
ちんちくりんって!ちんちくりんって!
「あら、承太郎が笑うなんて珍しい!やっぱりないこちゃん、才能あるわぁ!」
「今の笑いは絶対そういうのじゃないです、ホリィさん」
私は微笑むホリィさんを横目に、ため息を飲み込むようにお味噌汁をかき込んだ。
少しして、私はまた散歩がてら外へ向かった。
太陽がぽかぽかしていて暖かい。
「学校がないと気が楽だなぁ」
私はトリップしてきた人間。戸籍はないし、記憶もないことにしている。
今はSPW財団に保護されている身だ。よって学校に行く必要はないのだ。
「これからどうしようかな‥‥」
きっとこれから私の見た原作通りの事柄が起きてくる。その中には残酷な運命だってある。
私は、それらを変えることができるのか。それ以前に、私にスタンド能力があるのか。
もしないなら私はただのお荷物だ。きっと同行はできない。
「‥‥スタンド能力さえあれば」
見えるだけでは戦えない。守れない。救えない。
一体どうしたら‥‥。
「おい、ちんちくりん」
「ってうぉ!?じょ、承太郎!?」
背後からいきなり声をかけられ振り返るとそこには承太郎‥‥と。
「え、か‥‥」
花京院、と言いかけて口を紡ぐ。
危ない、名前を知ってるなんて知れたら怪しまれる‥‥。
そう、承太郎の肩には血を流して気絶している花京院がぐったりともたれかかっていた。
「承太郎‥‥その人‥‥」
「こいつもスタンド使いだ。俺を殺しにきやがった。今からじじいのところへ行って話を聞く。」
「話って‥‥。それはいいけど血くらい拭かないと、あとあと怪しまれてまた刑務所行きになるよ?」
私はそう言ってハンカチを取り出して花京院の額に当てがう。ふと、指先が傷口に触れた。
その時だった。
「え‥‥っ」
「‥‥!」
花京院の額の傷が一瞬にして消えた。
額だけじゃない。よく見ると体全体の傷がなくなっているようだった。
跡一つない、怪我なんてなかったかのような肌に不自然に血だけがついていた。
「な、なんで‥‥」
「お前‥‥」
承太郎も驚きで目を見開いている。
しかし、すぐに前を向いて歩き出す。
「ジジイに話すことが増えたようだな」
私はそう呟いた承太郎の背中を見つめながら追いかけるように走り出した。
人は凄いものを見ると言葉を失い立ち尽くし、見惚れてしまう。私も今はそれを味わっていた。
「ふるえひとつ起こしておらんッ スタンドも!!」
承太郎が花京院の肉の芽を抜いている。私の目の前で。
本当に震え一つ起こしていない。時計の針が時間を刻むよりも正確に、スタープラチナは肉の芽を抜き取っていた。
これが‥‥歴代最強を誇るスタープラチナ。
私の時間は完全に止まっていた。見とれていたからか、緊張感からかは分からないが、気がついた時にはもうすでに肉の芽は抜き終わっていた。
「なぜおまえは自分の命の危険を冒してまで私を助けた‥‥?」
「さあな‥‥そこんとこだがおれにもようわからん。‥‥それに」
「それに?」
「おまえを助けたのはおれだけじゃねぇぜ。なぁ、ないこ」
「えっ」
突然名前を呼ばれて思わず声が出た。
私だけじゃない。花京院やアヴドゥル、ジョースターさんもだ。
「ないこがこの少年を?どういうことじゃ承太郎」
「こいつは俺のスタンドによって全身ズタボロの怪我をしていた。しかし今は傷一つない。どういうことかあとはわかるよなぁ」
「まさかないこが、その傷を‥‥?」
「こいつの指が花京院に触れた瞬間、傷口が消えた。そうとしか考えられねぇ」
みんなの視線が私に集中する。
私が花京院の怪我を一瞬で‥?自分でも考えられなかった。
「わ、私が?いやでもそんなことできるわけ!」
「‥‥スタンドか」
アヴドゥルさんがぽつりと呟く。
確かに、スタンドならこの不思議か減少も説明がつく。
「私にスタンドが‥‥」
そんな言葉を漏らしたその時だった。
「うっ‥‥!?」
「ど、どうしたんじゃ!ないこ!」
突然体全体に鈍い痛みが走る。
「わ、分からないです。でも、急に体が痛みだして‥‥っ」
それほど強い痛みではなかったが私を苦しめるには十分なその痛み。
何かに殴られたような痛みだった。
「まさかないこの能力は治した怪我の分だけ自身が痛みを被る能力なのか‥‥?」
アヴドゥルさんが私の背中を撫でながらそう言う。
確かに私の体が痛む部分と先ほど花京院が怪我をしていた部分は完全に一致していた。
「痛みの具合から見て、実際の怪我の半分の痛みを受けているようだ。大丈夫かないこ」
「はい、すみません‥‥アヴドゥルさん」
痛みが少し落ち着いてきたようだ。
呼吸も楽になる。
これが半分の痛みだなんて‥‥花京院はどんな酷い怪我を‥‥。
そう思いながら私は花京院の方を見た。
花京院は驚いたような悲しいような、言いようのない瞳で私を見つめていた。
そんな顔をしているなんて予想外で、私は困惑した。
「え、花京院‥‥くん?」
「‥‥なんで君たちは揃いも揃ってお人好しなんだ」
「え」
なんでと聞かれても返答に困ったが、私は承太郎の方をちらりと見て、花京院の方に向き直ってこう言った。
「私も、よくわからないや。でも花京院くんが無事で良かった。」
「‥‥名賀さん」
「ああ!さんづけなんてしなくていいよ、むしろないこって呼んで?みんなそう言ってるし」
「だ、だがしかし」
「まぁ承太郎はちんちくりん呼ばわりするけどねー」
「ああ?」
「ひぃ、怖い。まぁ、だからさ!花京院くんも気軽にないこって呼んで?」
「‥‥花京院でいい。」
「え?」
「ないこと呼ばせてもらう。代わりに、わたしのこともくんなんてつけなくていい。‥‥ありがとう。承太郎、ないこ」
「うん!」
「‥‥。」
承太郎はそのまま何も言わずに去って行ってしまったが、私と彼らの中に、確かに友情が生まれた。そんな気がした。
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