ここから見える残像とs3 | ナノ
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□ここから見える残像と
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「ごめん」
風に乗せて、ぽつりとこぼした。
謝らずにはいられなかった。
「なんで?」
その問いに視線を上げると、彼は微かに笑って私を見ていて
その目は形だけは笑っているのに無表情で
でも、どこか悲しげで
目を合わせられるはずがない。
「気付かなかったから……」
逃げるように俯いて、
「私、自分のことしか見えてなかった……」
絞り出すように言葉を吐いた。
そんな私は、彼にはどう見えていたのだろう
自分の不甲斐なさに、腹が立つ。
自分のことしか考えないで
彼やみんなの存在に甘えて
キャリアが何、
大切な人も助けられず
仲間のことも考えられず
私に何ができた?
ただ自分の殻に閉じこもって
ただ自分の痛みに縋って
私は何をしていた?
私に何ができた?
私
私は、
「シスネ」
いきなり、名前を呼ばれた。
顔を上げると、彼はその丘から、こちらに手を差し出していて
「え…?」
その延ばした手が何を意味するのか
訳がわからず動かないでいると、彼はすぐ側まで来て私の手を取った。
「言いたいことがあるんでしょう?」
そう言って、私の手を引いた。
突然のことで、彼が何をしようとしているのか理解できない
けれど、彼は私を丘へと引っ張っていて
「で、でも……っ」
その手に逆らい、丘の手前で踏み止まった。
まだ、
まだだ
まだいやだ
「どんな顔で立てばいいか─…」
そうだ、私なんかが立てるはずない。
助けられなかったのに、
救えなかったのに、
そこに立つ資格なんてあるはずがない。
私は頑としてそこから動かなかった。
動くことはできなかった。
そうやって頑なになっていると、彼は私の手を離した。
解放されたと思いきや、彼は私の後ろに回って、肩に手を載せた。
その手は支えようとしていたのか
それとも突き放そうとしていたのか
そして彼は、低く呟く。
まるで私の心を見透かすように。
「もう、充分なんじゃない?」
そしてそのまま、私を押し出す。
彼はそこで、数歩下がって
私は一人で、その丘の上に立たされた。
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