ここから見える残像とs2 | ナノ
BC
□ここから見える残像と
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「一度だけだったんだよね」
「え?」
答えになっていない答えに、訳がわからず振り返る。
その拍子に、いつの間にかこちらを向いていた彼と目が合った。
彼の言葉が何を指しているのかわからなかった。
彼はただ、穏やかな目をして言葉を続けた。
「僕が彼に会ったの」
予想していなかった言葉に、息を飲む
一度だけ─…?
でも、だって
私とあんなに話してたじゃない
「君やみんなから話は聞いていたけど、実際に会ったのはあの浜辺が初めてだった」
把握しきれていない私をよそに、彼はさらに話を続けた。
浜辺─…
屋敷から逃げたザックスとクラウドを、連れ戻せというあの任務
「あの一度きりだった」
呟くようにそう言って、遠くを見るように目をそらした。
一度きり─…
自由を求めた二人から、再び自由を奪うためのあの任務
あんな、悲しい出会いだけ─…?
「……し」
私の声で視線が戻る
「知らなかった」
その視線から逃れるように顔を伏せた。
知らなかった
彼の持ってるザックスの記憶が、そんな悲しいものしかなかったなんて
なぜ、どうして
あの時私は何を見ていた?
彼だけじゃない、
他のみんなも
ニブルヘイムの事件を目の当たりにした仲間たちが
どんな気持ちか考えたことがあった─…?
助けられない後悔なら、私も知っていたはずなのに
『私もニブルヘイムに行っていれば、こんなことにはならなかったかも』
なんて身勝手な、台詞
自分ならきっとどうにかできたと
そんな傲慢な考えだけで
結局私は、何もできなかったのに
ザックスの死を伝えた時
みんなはどんな顔をしていた─…?
友人だったと言っていたのに
助けたいと言っていたのに
彼を失った辛さは、みんなも同じだったはずなのに
あの時私は
自分のことで手いっぱいで
周りを少しも見ていなかった─…
「彼とは故郷も同じだったらしいし…」
風に逆らって届く声には、どんな想いがこもっているのか
「もっと話ができていれば、もう少し違う気持ちでいられたかなって」
彼は今、どんな気持ちでその丘に立っているのだろう
彼は今まで、どんな気持ちでザックスの話を聞いていたのだろう
今になってようやく気付いた
一番近くにいたはずの彼のことさえ、
私は考えていなかったのか
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