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07宝物は奪いましょう


スィンドルが出て行った船内はとても静かで、ルナは一人コクピットルームから外を眺めていた。
涙は止まり、ただ胸に鈍い痛みだけが残る。届きそうで届かない、隔離された自らの居場所に彼女はただ悲しみの縁で沈んでいた。
一人きり、逃げようと行動を起こす事は今なら出来る。けれど彼の事だ。ただ閉じ込めていっただけとも思えず。どこまでも臆病な自分に嫌気がさした。

――ガガッ 、
不意に通信回線にノイズが混じる。
顔を上げると赤い光が点滅していて、何も考えず彼女はそのまま手を伸ばした。きっとスィンドルからだろう…彼以外の連絡はルナには考えられなかった。


『スィンドル。スィンドル居ねェのか、オイ。』
「―――」


故に艦内のスピーカーから響いた声に彼女は見事に固まった。覚えのあるその声は先日、艇に来た賞金稼ぎだ。スィンドルが敵意を剥き出しにしていたのはまだ記憶に新しい。
どくん、どくん…
予想外の事に息を潜めて彼女はただじっとスピーカーを見つめる。すぐにスイッチを切らなければ。そう思うが指がうまく動かせなかった。
相手は一瞬、沈黙した後再びゆっくり口を開く。


『…。……オマエ、そうか。この前の小さいヤツだな。』
「、ッ」
『おっと、切るなよ。別に取って喰おうってわけじゃねェ。』


カラカラとした笑い。唇を噛み締めて、無言でルナは立ち尽くす。
顔の見えない向こう側の相手の気配はとても楽しげで意図を推し量る事は出来なかった。


『…どうだ?ヤツが居ない間に俺がそこから出してやろうじゃないか。狭い船の中で退屈だろ。』
「……」
『俺なら閉じ込めたりしねェ。好きに外に出してやるぜ。』
「……や、めて。止めて…私は!」


囁かれる言葉は酷く甘い。ルナは振り切るように首を振ると漸く動いた体で回線を切った。

同時に船が凄まじい音で揺れる。ぐらぐらと揺れる足元。鼓膜が裂けるような轟音に攻撃を受けているらしき事はかろうじて悟ったルナだったが何も出来ずその場にぎゅうと縮こまった。
心がただスィンドルを叫ぶ。怖い。怖い。
何が起こっているのか解らない故に余計に彼女の動揺は増長した。


「、…スィン…ドル…スィンドル!」


煙幕の中、乱暴に鋼鉄の扉が開く。
咳き込む彼女の体を捉えたのは黒い腕。見開いた瞳を見て、赤い眼が意地悪くにやりと笑った。


『発信元を辿れば、見つけるなんざ容易いもんだ。ヤツが船を空けたおかげで労力も最小限で済むときた。』


ギリ、強い力に思わず顔が歪む。抜け出そうと動いてもびくともせず、ルナは無意識にぼろりと涙を零した。


「い、いたい……」
『おっと、失礼。潰しちまったら元も子もねェ。』


ロックダウンは軽く笑うと、ルナを摘み上げ肩に乗せる。
抵抗しない事に気を良くしたのか、先程より加減は優しく…彼女は不安定な足元に彼の首を掴んだ。


『…クク、素直じゃねぇか。大人しく言う事が聞けるならスィンドルより大事にお前を飼ってやるよ。』


ロックダウンだ。
告げられた名と同時に冷たい仮面が頬に当たる。人間みたく挨拶代わりに口付けられて、ルナは完全にフリーズした。
赤い目を見つめ返すのが怖くて、ルナは思わず顔を伏せる。遠ざかるスィンドルの船を何度も振り返りながら、彼女は口を噤んでいた。
―――――――――
2012 05 26

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