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06青い星が見えました


本でしか見た事のない、青い星が見えてくる。
自分がかつて住んでいた星、地球。
ビー玉のように美しいその球体を食い入るように外を見つめていると、スィンドルがいつの間にか隣に来ていた。


『懐かしいですか?』
「…。よく、解りません。地球を出た事なんて初めてだから。」


言葉に嘘はなかった。地球を外から見た事のある人間なんて、どれ程いるだろうか。
複雑な表情をするルナにスィンドルは正直ですねぇと微笑んだ。
しかし街並みが見えてくると、彼女の心は変わった。見慣れた光景。サムダックタワーが瞳に映ると、目頭が熱く涙が零れ落ちそうになる。

(サリ……サムダックさん…)

会いたい。帰りたい。平静を装いルナは窓からゆっくり離れた。慎重に動かなくてはならない。下手に船を降りたいなどと口にすれば逆に閉じ込められかねない。
彼の観察するような視線は絶えず向けられているのを彼女は敏感に感じ取っていた。


「…そういえば。どうして地球に来たんですか?」
『ああ、まだ話していませんでしたか。…お得意様がね、この星にいるんですよねぇ。』


ご機嫌でスィンドルは外を見て笑う。
ルナはそれに頷くと、名残惜しく思ったが部屋へ戻ろうとした。


『ルナ』


不意に呼び止められて、彼女はぴたりと足を止める。スィンドルを見れば彼は相変わらず読めない表情でルナを優しく持ち上げた。


『出かけませんか、一緒に。』
「え…」
『ま、拒否権なんて元々無いんですけどねぇ。』

「……いいん、ですか…」


信じられない言葉だった。スィンドルは軽く頷くと、彼女を持ったまま船のハッチを開ける。頬を撫でる風。彼の指にしがみつくとスィンドルは次の呼吸をする前に、装甲車にトランスフォームした。
シートに彼女を座らせると、彼はゆっくり発進する。青い空を見上げたのはいつぶりか分からなくて彼女は隠しきれない喜びで顔を綻ばせた。


『…やっぱり嬉しいですよねぇ』
「はい…」
『ですよねぇ…』


スィンドルは彼女の返事を聞くと、曖昧な返事を返してそれ以上何も言葉を発しなかった。
淡い期待がルナの胸に浮かぶ。

帰して…くれるかもしれない。飼うのに飽きたか、はたまた彼の気紛れな優しさか。
聞くに聞けなかったが、ルナは遠くに見えるサムダックタワーをじっと見つめて目を閉じた。

暫く街を廻ったスィンドルは、船へ戻る。
そして彼女を中へ入れると彼はにこやかな表情そのまま扉を下ろした。


「スィンドルさん?」
『…君は賢いですよねぇ、ルナ。迂闊に欲を口にしない。私はね、君のその慎重な性格を気に入ってるんです。だからねぇ、お仕事の間いい子で待っていてくれますよねぇ?』


淡々とした口調ではあるが、威圧的な声。彼女が言葉を発する前に遠ざかるタイヤ音が聞こえて、ルナは静かに冷たい扉に手を当てた。

外からロックされた船。――彼の答えだ。
その場に力なく座り込む。彼女の頬に一筋の雫が静かに伝った。涙を零したのは久しぶりの事だった。
―――――――――
2012 04 21

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