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05売り物ではありません


コクピットルームで無心にペンを走らせる。
ここ数日、スィンドルの営業はとても目まぐるしく精力的でルナは疲労がたまっていた。ふとした合間で訪れる強い眠気。抗うがやがて椅子に持たれてすやすやと寝息をたてる彼女をスィンドルは横目に見つめていた。奴隷ならば、もっとドロドロとした感情が湧く筈だが、こうして眠ってしまっている彼女を見ても負の感情はない。
ふわり。摘んで掛けてやる小さな生地。"労る"なんて柄ではないが、この小さくて従順な生き物を見ていると不思議と折れてやりたくなる感情を持ってしまうのだ。


『何だよ、いるんじゃねェか。』


乱暴な足音と共に静寂が唐突に破られる。スィンドルはそれに一度目をやると、不快そうに顔を歪めた。


『…不躾ですねぇ、ロックダウン。ここは私の艇ですよ。』
『ハ、てめェのモニター販売を信用してねェわけじゃねェが自分の武器は自分の目で確かめないと気が済まねぇもんでな。』


無許可での乗船にも悪びれた様子なく、肩をすくめてロックダウンはコクピット内に入ってくる。何の気なしに手を置いた場所。
カチンと腕のフックが当たった椅子に生命体が居る事にロックダウンは気付いた。
異種間の生命体に出会う事は少なくないが、驚いたのは視線の先に居たのは有機体だ。この宇宙で生きるだけでも困難な筈の生物がスィンドルの船に居る。
ロックダウンは目を細めて、憮然としたスィンドルに視線を向けた。


『…変わったペット飼ってんじゃねェか。どうりで重力やら空気圧やらを妙に変えてるワケだ。』
『私も手広くしているものでそろそろ助手が欲しい所でしてねぇ、思ったより良い拾いものでしたよ。』


最初は彼女に何を期待したわけではない。ただの暇潰し。都合の良い事にその星の生まれである生命体だったから購入しただけだったが。
誉めるような言葉が自然と発声回路を飛び出してスィンドル自身驚いた。
ロックダウンはそれに鈍く赤い目を光らせると、ルナに再び視線を落とす。気難しいこの武器商人が傍に置いておく位だ。それなり良い駒なのだろうと思う。周りに散らばったサイバトロン語で書かれた紙を見て、品物の管理をしているらしい事が見てとれた。


『なら武器のついでにコレも俺に売ってくれ。俺もちょうど仕事で地球へ行く途中だ。』


無造作に掴もうと腕を伸ばす。気配になど気づけないルナは相変わらず眠ったまま。小さな舌打ちと共に動いたのはスィンドルで、彼は背中のキヤノン砲をロックダウンに真っ直ぐ向けた。


『すいませんねぇ、それは売り物ではないので触らないでいただきましょうか。』
『クク…、嫌に執着してるじゃねェか。たかがこんなちっぽけな生き物に。』
『私が、私の所有物の所有権を主張するのは当然ですよねぇ。…ルナ!』


咎めるような大きな声にルナはがば、と飛び起きる。大きな目を瞬かせると、飛び込んできたのは銀に光る大きなフック。見上げれば知らない金属生命体の顔があり、赤い目に体が恐怖で動かなかった。


「ディセプ、ティコン……」


掠れた声で呟くと、ロックダウンは眉をひそめた後可笑しそうに笑いルナの顎をすっと指で持ち上げる。


『何怯えてやがる。そこにいるオマエの主人だって、ディセプティコンだろうが。』
「ぅ、」
『ロックダウン、触るなと言った筈ですよねェ。』


むしり取るように、スィンドルはルナを掴むと自らの後ろに放る。転んだ拍子に少し体を打ちつけたが、おかげで動けるようになったルナは大人しくスィンドルの影に慌てて隠れた。


『なるほど、躾も完璧ってェわけか。…ま、今日は争いに来たわけじゃねェ。頼んでおいたモンを見せてもらおうか。』


皮肉げに笑って、ロックダウンは背を向ける。スィンドルもそれにキヤノン砲を仕舞い、並んで部屋を出て行った。

残されたルナは心臓を押さえ、隅でただ小さく震えていた。柔らかな布が床に無造作に落ちているのを見つけて動揺の中、彼女はそれを手繰り寄せる。きっと、眠ってしまった自分にスィンドルが被せてくれたものだろう。
彼女はじっと閉まった扉を見つめる。完全に心を許したわけではない。けれど、頼れるのは彼だけで時折与えてくれる優しさは彼女にとって、今は掛け替えのないものだった。
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2012 03 30

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