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番:最強のライバルの登場です!?後


『ルナ…!ルナ、もう!もう、心配したんだからぁ!!』


スペースブリッジを抜けて現れたサリは勢いのままルナに飛び付いた。謝りながら、彼女はサリの頭を何度も撫でる。この小さな少女が金属生命体だったなんて。こうして抱き締めても未だ信じる事が出来なかった。


『もう何処にも行かないよね?大丈夫よ、ジャズはすっごく強いから。私だって今ならディセプティコンと戦えるわ!』
「サリ、お、落ち着いて?私、何もされてないわ。」
『何いってんの!貴女のマンション、攻撃されてたじゃない…!信じてたけど…わ、私、あの時やっぱり死んじゃったかと…』
「サリ…ごめんね。心配かけて、ごめんね…」
『うん、』


その日は二人で夜中まで話し、サリのベッドで彼女を寝かし付けた。オートボットもディセプティコンも関係のない商人の宇宙船で今は旅をしている事を説明したが、サリは納得する様子を見せず地球に留まるよう勧め続けた。


『貴女は地球人なんだから…私もジャズがルナのパートナーなら安心だし!』
「そんなに彼は強いの?」
『ジャズはエリートガードの将校よ!そこいらのディセプティコンなんて目じゃないわ!』


ジャブをしながらサリは朗らかに笑っていた。穏やかにそれを見つめていたが内心、ルナはその言葉に少し恐怖を感じた。スィンドルは頭はいいが、戦闘向きのタイプではない。彼はあくまで武器商人。きっと正面から揉める事になればスィンドルはジャズに負けるだろう。
夜のうちにそっと此処を去らなければ…。眠るサリにキスをして、ルナはそっと部屋を出た。
裏の非常口からタワーを出る。すると、それが解っていたように、白いスポーツカーは静かにそこに停まっていた。


『…こんなに遅く、女性が出歩いてはいけないよ。』
「迎えを呼びます。…約束、しているので。」
『約束?拘束の間違いじゃないのかい?』


彼の声はあくまでどこまでも冷静だ。ルナはドアに張り付いたままジャズをじっと見つめた。確かに、スィンドルを無条件に愛するのは難しい。断れば彼はどうでるか分からない。街を破壊する、そう言い出してもおかしくはない。
彼は、ディセプティコンだから。でも。


「ジャズさん…。可笑しな話だと思われるでしょうが、私、彼に惹かれているんです。」
『…暫く離れれば気づくよ。君は今、囚われて心を奪われている。軟禁という乱暴なやり方でね。私はそんな事を赦すわけにはいかない。』


彼は本当に、正統派の正義の味方だ。彼女は小さく苦笑するとジャズを見つめた。ジャズと居れば、正常な思考に戻れるのかもしれない。ジャズの言葉は多分正しい。しかし、スィンドルを失望させたくない。彼の悲しい…淋しい顔は見たくなかった。


「ジャズさん…、私はもう後戻りしない。独りにしたくない人がいるから。もう、決めているんです。」
『…』


真っ直ぐした綺麗な目だった。ジャズは歩き出すルナの背中を静かに見つめた。変形して掴めば、留められる。しかし、悲しい顔をするのが分かっていたから出来なかった。
ルナがコールボタンすると、一分もしない間にスィンドルは現れた。震える身体を抑えて、運転席に乗り込む。不安そうな彼女の顔を見て、スィンドルはくすりと笑った。


『嬉しいですねぇ、君は本当にいい子です。でも…』
「?」
『やっぱりねぇ、何故だかいやに金属生命体にモテちゃう質みたいなんですよねぇ。全く。』
「…あ、!」


スィンドルの前にロボットモードに変形したジャズが静かに佇む。キャノン砲を向けてスィンドルは応戦しようとするがルナは咄嗟に声をあげた。やめて、そう言葉にするが早いか否か、辺りを眩い閃光が包む。
彼女も例外なく視界をやられ、顔を押さえるとSUVは急発進し、軽やかな笑いが車内に響いた。


『黙って掴まってないと舌噛みますよ、ルナ。荒っぽい運転になりますからねぇ!』
「!は、はいっ」
『武器商人!貴様っ』
『…クックック、私はね、勝てない戦いは最初からしない主義なんです!ですよねぇ!』


ほっと笑って、ルナは安心したように目を閉じる。シートベルトを握りしめると、少しだけ強く締め返されスィンドルはご機嫌で笑った。

(そんな事されたら早くキスしたくなっちゃいますよねぇ…)

モニターから顔は見えても、カメラアイで見つめるのとはまた違う。今回はスィンドルにとっても賭けだった。首輪も何もつけず、開放した愛しい人間。しかし、彼女は帰ってきた。エリートガードに頼めばこちらに戻らなくてもよかった道もあったのに彼女はそれを選ばなかった。自分から手元に帰ってきた事が、スィンドルはたまらなく嬉しかった。


「スィンドルさん…サリが、金属生命体になってました。貴方は知ってたんですよね?」
『ええ、まあ。…言ったでしょう?言いたい事があるなら、言いなさいと。聞きたい事は、聞けばいい。私も答えますから。…またここにも連れてきてあげます。命懸けもいい所ですけどねぇ。』


だからまだまだ一緒に居て下さいよねぇ、ルナ。

爆発しそうなその感情を持て余しながら、スィンドルは囁いた。隠す必要はない。だって彼女もこうして好きだと示してくれるのだから。


『帰ったらティータイムにしましょうか。君がゆっくり休めるよう、カモミールを仕入れておきましたからねぇ。』
「…はいっ。」


二人の旅は、先の見えない未来へと今日も続いてゆく。
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2014 02 07

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