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番:最強のライバルの登場です!?中


―――これ、貴方に預けておく。もしかしたら、連絡が入るかもしれないから……

サイバトロン星に発つ前、サリは入れ代わりで地球に留まる事になったジャズにそれを渡した。ピンク色の携帯電話。行方不明の友達から、電話が来るかもしれないからと。金属生命体のいざこざに巻き込まれて電波は届かず、結局その女の子とはそれきり会えていないとサリは話していた。

―――ディセプティコンに好かれちゃった、変わった人なの。
でも私の大事な友達。……生きてるって、信じてる。
その人の名前はね。


『ルナ…』


初めて使用した携帯電話から聴こえた声は、控えめな女性の声だった。子供らしいサリのトーンとはまた違う柔らかい雰囲気。しかし、サリでないと知ると怯えたように通信は途切れてしまった。
慌ててかけ直してみるものの、再び声を聞ける事はなかった。確信する。彼女はまだ、ディセプティコンの誰かと共にいるのだろうと。待受画面の中でサリと笑う女性を見つめてジャズはため息をついた。
幸せそうな笑顔だった。一言、助けを求めてくれれば、飛んでいくのに。

(…サリにはまだ言えないな)


そうして暫く経った頃、折を見てルナはスィンドルに地球へ立ち寄ってもらった。宇宙広しとはいえ、細かな生活品はやはり地球でないと揃えられないものが多い。
変形したスィンドルに連れられて久しぶりに街へ降りる。天気も良く、気持ちのいい空気が肺を満たした。


『ルナ、サムダックタワーに後で送ってあげますからねぇ。』
「!」
『友達に会いたいですよねぇ?解ってます。一日、プレゼントしますよぉ。でも約束、守れますよね?私の処に帰ってくると。』
「…えぇ、もちろん」


スィンドルは肯定の返事にそれ以上突っ込んでくる事はなかった。やはりすっきりしない感覚だった。ロックダウンやスタースクリームは今、地球に居ない。安全だと調べた上での彼からの気遣いだと素直に思いたいが。いつも目の届く処にいないと気がすまなかった彼の突然の放任行動がルナには訝しくて仕方がなかった。

車から降りたって、彼女は持ってきていた携帯電話を鞄から取り出した。電源を入れて、サリの番号を探す。正面玄関から入って聞けば済むことだが、騒ぎになりそうで彼女は裏手から電話を掛けた。前に会話したオートボットが通話に出ない事を祈って。コールを暫く鳴らすが途切れない。…電話の近くにいないのかもしれない。その時、近くで聞き覚えのある着信音が微かに耳に入った。振り返った視線の先から、段々と近づいてくる白いスポーツカーが見える。息を呑んで、逃げようと体を反転させるが既に遅く。ルナの行く手はあっという間に大きな手に塞がれた。


「…っ、」
『待ってくれ!何もしないから、話を聞いて欲しい。サリの事で、伝えたい事もある。』


声で、彼があの時電話に出たその人だとルナは悟った。恐る恐る見上げると、白を基調とした上品なカラーリングが印象的な男性で青いバイザーが目元できらりと光っていた。大人しく壁に身を寄せて、彼の言葉に頷くと彼は安心したよう微笑んでゆっくり彼女から身を引いた。


『初めまして、ルナ。私はジャズ。今はオプティマス・プライムと共に地球を守る任務についているオートボットだ。驚かせて、すまなかったね。』
「……いえ、」


ジャズ。そう名乗った彼はとても紳士的な金属生命体だった。しかし彼もまたオートボットだ。長居をしてまたスィンドルを怒らせるわけにはいかない。ルナは、不躾とは思いながらもジャズが身につけるピンクの電子機器をゆっくり指差し口を開いた。


「あの、サリに会わせてくれますか…?私、サリに会いに来たんです。」
『…ああ、会えるよ。しかし今すぐは無理だ。彼女は今、サイバトロン星で復興の手伝いをしているから。』
「サ、サイバトロン星!?」
『…やはり、君は何も知らされていないんだね。』


小さくため息を漏らすと、ジャズは口で説明するよりもと、視覚映像をルナに視せた。目まぐるしく流れ込む情報に彼女は開いた口が塞がらなかった。自分が宇宙で旅をしている間、地球とサイバトロン星では熾烈な戦いが続いていた。サリがトランスフォーマーであった事、戦いの果てにメガトロンが捕まりサイバトロン星に連行された事、そして…


「…プロールは、亡くなったんですか。」


茫然として溢れた彼女の涙に、ジャズは慌てて映像を停めた。物静かで、しかし地球の自然や生き物を愛でるのが好きだった金属生命体。驚きと悲しみが押し寄せる中ルナは止まらない涙を俯いたまま溢した。
まさかもう会えないなんて。そっと体を包むように、金属の手が動いた事に体がびくつく。しかしその動きは優しく、彼女を労ろうとする気持ちが伝わるくらい柔らかだった。


『…ありがとう。私の同士の為に、泣いてくれて。』
「?」
『彼と私は同じ師の元で育った兄弟弟子だ。だから、君がそんな風に彼を思ってくれる事が、…嬉しい。声を聴いた時から思っていたよ…君はきっと優しい女性なのだろうと。』


まるで恋人にそうするよう微笑まれて、ルナはどうしたら良いか分からなかった。首を横に振って否定するが、ジャズは相変わらず彼女を穏やかな眼差しで見つめる。


『中へ入らないかい?サイバトロン星に連絡を取ろう。サリもきっと喜んで帰ってくるよ。』
「…ジャズ、さん。私、でも」
『怖がる事はない。君の事は私が必ず傍で守るから。』


もうディセプティコンの処に帰らなくてもいいんだよ。

その囁きは、ひどく甘美で。
ルナは悪い魔法にかかってしまったようだった。
―――――――――――
2014 02 05

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