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03嫉妬


多忙な日々は以前にも増す勢いだった。
ヒスイは軍の仕事が終わってから仮設されたラチェットのラボに通うようになり帰るのはいつも日付が変わる少し前だった。
襲いくる睡魔にディーノの運転するシートでうたた寝する。閉じられた瞳。彼女の目の下の隈の濃さに彼はひっそりため息をついた。
前から熱中し過ぎるところはあったが最近は得にだ。何に根を詰めているのか確かめるべきか…しかし言い出さないところをみると知られたくない事なのだろうとも思う。
人間を嫌っていた頃、彼女は自分の領域に踏み込む真似はしなかった。ヒスイにはヒスイの範囲がある。まして彼女は種族の異なる人間だ。近付くほどに分からなくなる彼女との距離感。周りに口に出来る筈もなくディーノは量りかねていた。


「ん…」


唇から漏れた吐息に胸がざわつく。無意識にシートに頬を寄せるヒスイをこのまま閉じ込めておきたい感情がスパークを揺らした。
一番近いところに居る。その自負もある。干渉し過ぎないよう気をつけてはいるが、任務以外の共に過ごす時間は実際足りない。
彼女が必要だと伝えた自分の思いは果たして伝わっているのか。ディーノはマンションの前についてもヒスイを起こせずにいた。


「……サイド…スワイプ…」


故に寝言で漏れた名前に抱いた事のない激情が沸いた。前触れなく変形する。突然大きく揺れた身体に目を見開くヒスイ。定まらない視線をディーノに向けると、彼は彼女を掴む手に少しだけ力を込めた。


「痛…っ!……ディーノ、っさ!?」
『…。』


怒気を含んだ青眼にヒスイは身震いする。ここ暫く見ていなかったディーノの鋭い眼。目覚める直前に夢に見ていたかつてのアイアンハイドとサイドスワイプの優しい雰囲気とは真逆の。寝ぼけて何か彼の気に触る事をしたのだろうか。彼女が混乱しおろおろと目を泳がせているとディーノは更に接近しおもむろに顔を近付けた。


「え…」


視界から赤が消える。ほぼ同時に唇に当たる冷たい金属。少し乱暴に顔に当たったそれが何なのかフリーズした頭では理解しきれなかった。
道路脇の歩道に落とされ、彼女が立ち上がろうとする前にディーノは閑散とした公道を走り去っていく。
人間の名前なら、恐らく何とも思わなかった。だが、同じ金属生命体の名をヒスイが切なげに口にした瞬間、何とも言えない虚しさが押し寄せた。他意がない事は分かっている。眠っていたし、自分達は見ない夢といったものを見ていたのかもしれない。
越えられない壁。種族の違い。数え出せばきりがない弊害に振り回される自分にも苛々した感情が湧き、ディーノは基地へのコースを外れひた走った。

通信回線が幾度か光っていたが、受信にする事はなかった。

どうか同じ痛みの夜に君も溺れて。
――――――――――
2013 04 08

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