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02命の声


『ヒスイ、君に話しておきたい事があるんだが。』


復旧作業にあたり始めて二週間が経った頃、ラチェットが昼食時近くに来た。
仲間の輪から立ち上がると、静かに手が差し述べられる。見上げると、乗れ、と目線だけで告げられヒスイは大人しくその指示に従った。
何か悪い知らせだろうか、仲間から離れて行くラチェットに一抹の不安が過ぎる。スクランブルの通信はなかった筈だが、ディーノを含めた数体のオートボットは数日前からパトロールに出て不在だった。


『心配する事はない。ただ、…まだ少々内密にしておくべき内容でね。』


曇った彼女の顔に、優しげにラチェットは微笑む。少しほっとした反面、昇華しきれない疑問に首を傾げると、彼は無事残ったシェルターの前に立った。
人払いをしたのか、周りに警備兵の姿はない。ラチェットはロック解除の操作をすると、ゆっくりその重い扉を引いた。

(どく、ん……どく、)

一定の音。まるで、そう、心臓の音のような…
内部にじっと目を凝らす。暗闇の中、仄かに青く輝くもの。

(、…、   …)

聞き取れなかったが、その音に彼女はラチェットの真意を理解する。
息を呑んでラチェットを見上げると、彼は静かに頷いた。
そうっとヒスイを床に降ろす。彼女は逸る気持ちをぐっと押さえ、光に導かれるよう歩き出した。


「…ハイド。……アイアン、ハイド…ですよね」


髪を、暖かな風が梳く。あの時抱き締めた彼のスパーク。スパークの周りを新たな金属のパーツが囲んでいる。駄目だったんだと思っていた、誰も何も言わなかったから。
いや、今も誰も彼が生きているとは思っていないだろう。


『彼は再生を始めている。信じられない事だが。』
「…、サイドスワイプはこの事を?」
『いいや、オプティマス以外は。まだ話す段階ではないと思ってね。再生は確かに始めている…しかし、命が繋がるかは正直まだ分からないのだ。』
「なら、どうして」

『アイアンハイド自身が君を呼んだからだ。』


私達の言語は、ヒスイには理解出来ないだろうが。
それを聞いて、彼女は青いスパークを見つめた。膝を折って、前に座る。すると淡い光が少し強くなって、自分の感情とは異なる大きな安心感が突然胸に流れ込んだ。


『ヒスイの無事をどうしても自分で確かめたいと。後は、礼を。』
「…いいえ、守られたのは私の方です。…アイアンハイド、聞いて。今度は私が貴方を助けます。」


必ず。立ち上がった彼女は強い意志を持った目でラチェットを見た。
ラチェットはそれを見てカメラアイを伏せると、アイアンハイドに伝える。言葉を発する事は出来ないが、彼は自らヒスイを包むように輝きを増した。

早く皆に貴方の無事を伝えたい。
いいや、伝えられるようにしなければ。

(少しだけ、待っていて下さい…)

貴方は私の大切な友人。
そして、大切な人の家族。
―――――――――
2013 04 03

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