32故郷へ
大きく影が落ちる。戦艦が破片と戦闘機を撒き散らしながら摩天楼へと降り注ぐ。
サウンドウェーブはその惨状にコンマ数秒気取られた。
彼が空を見上げたその瞬間、バンブルビーとディーノが動く。バンブルビーを拘束しているケーブルを身体を捻りディーノが切る。自由になった彼はそのままサウンドウェーブの後ろを取り、躊躇う事なく胸部をブラスターで撃ち抜いた。瞬間、エネルゴンが宙を舞う。
『…――!』
赤い眼が光る。ケーブルに力を込め、サウンドウェーブはヒスイの身体を潰しにかかる。赤い液体だけになってしまえばいい。そうすれば、共に逝ける。
レーザービークのもとに、血を添えて。
『後悔するがいい、オートボット共…』
腕ごとケーブルが切断される。落ちて行く視界で見えたのは赤。だがサウンドウェーブが見たかったヒスイの身体を流れる赤ではなくオートボットの装甲だった。
…憎らしい。ここで終わってしまう事、世界の終わりを見届けられなかった事、ひ弱な人間一人道連れに出来なかった事。
臥した視線の先にはサイバトロン。母星の黒い輝きはらしからぬ安らぎを彼に与えた。昼も夜もない、機械に彩どられた世界。戦火の中にあっても、粉々に砕けていようとも変わらずかの星は心を惹きつける。
(我々の、星…)
地球は違う。青く小さなこの星はまるで硝子玉みたいで美しいが、けれどやはり故郷とは違った。
オートボットは共に共存すると豪語するが、所詮夢物語だ。虫けら同然の人間となど、生きられる筈がないのだから。
『…所詮、たかが有機物だ。』
視界から色が消えて行く。大事そうにヒスイを抱えるディーノを見て、嘲笑うとサウンドウェーブは動かなくなった。
青い瞳が冷ややかに機能停止になった敵を見つめる。それから空を見上げた視線は物悲しく、ヒスイはかける言葉が見つからなかった。
地球が救われれば彼らの星は滅んだままになる。それが当たり前だと疑わなかった。しかしディーノの横顔を見ると、柱を破壊しようと息巻くのが正しいのか分からなくなった。
『代わろう、ディーノ。ヒスイをこちらへ。』
ラチェットの声が聞こえる。痺れる身体をおして上体を起こすと、彼は心配そうに彼女を覗き込んできた。
ディーノの指に掴まったまま、彼女はラチェットのスキャンを受ける。とてもディーノの眼を正面から見れなくて、ヒスイは小さくうずくまった。
『…どうした?どこが痛む?』
上から降りてくる優しい声に泣きそうになる。大丈夫、大丈夫です、彼女はディーノの言葉に譫言のよう大丈夫だと繰り返した。
気づいた気持ちは、今は深く土に埋めて。
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2013 02 18
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