31ありがとう、と
敵の戦艦内からホイーリーは外を見る。乗り込んだ戦闘機が回収されたディセプティコンの巨大な艇の中で、彼はブレインズと共に密かに行動していた。見つかれば即、破壊されるだろうが幸いにも戦闘に出ている為敵の姿は殆どなく容易く中枢にたどり着いた。
メインルームのコンソールを叩けば、示される近辺のディセプティコンの所在地。その一つに彼は視線を奪われた。
『ヒスイ…!おい、ブレインズ!』
『落ちつけ、まだ生きてる。』
サウンドウェーブの掌でぐったりとした見慣れた人間の姿。青白い顔に一瞬死んでいるのかと思ったが、カメラアイの精度を上げれば微かに呼吸しているのが分かった。
傍には捕まったオートボットの姿がある。オプティマス・プライムの姿はないが、見る限り恐らく助けは間に合わないだろう。
戦えれば、自分が。もしオプティマス・プライムのように力があったら彼女の元にすぐに飛んで行けるのに。
ホイーリーは悔しさをこらえて画面越しにヒスイに触れた。柔らかく抱いてくれる腕が好きだった。邪険にせず、ディセプティコンである自分に笑顔と優しさを向けてくれた数少ない人間。
『…ブレインズ』
『ん?』
『この船、落とせるか?』
オートコントロールされている戦艦を操縦するのは不可能だ。一つを操ってもすぐ見つかる。
ならば出来る事は一つ。艇を壊す事だ。傍で戦艦が破壊されればサウンドウェーブも人間一人に悠長に構ってはいられなくなる。
『…回線をとにかくぶった切れ。適当でいい。ただ落とすだけならそれだけだ。』
ブレインズはそれだけ言うと、配線カバーをこじ開けた。
傍へ近づく。生まれる迷い。自分はいい。けれど、この隣にいる友人は果たしてこの決断に巻き込んでいいものか。ブレインズは頭が良い。自分のような末端の諜報員ではなく、母星ではもっと上でいたディセプティコンだ。逃げ延びられれば、彼は。
『ホイーリー。どの道ここからは逃げられねェ。俺は付き合うぜ。』
彼の心を察したようにブレインズはホイーリーの肩に手を置き、もう片方の手を銃器に変えた。ホイーリーも覚悟を決める。サイバトロンでの友人にまたこの地球で出会えた事、短くも一緒に生活出来た事は幸せだった。
戦争中では考えられなかった、自由な時間。短い時だったが、良い人間もいる事が分かった。
守りたい――何ともむず痒い…けれど捨てられない感情が初めて生まれ、弾けた瞬間。
『今までありがとな、ブレインズ。』
ホイーリーは赤い眼のまま、幸せそうに笑ってみせた。
(次に会えたら、その時は。)
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2013 02 09
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