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30黙示録


下手に口を開く事が出来ない。ヒスイは今、敵の懐に居る。人間を何とも思わない筈のディセプティコンが、彼女を痛めつけずただ抱いている事に強烈な違和感がせり上がった。
ディーノは無言で、ヒスイを見つめる。彼女もまた冷静に囚われている四体のオートボット達をじっと見つめていた。

空が、震える。空間が歪んで黒い球体が天高くに見えた。落ちてくる世界。地球とは全く違う生命を感じさせない無機質な世界。いつだったか。ディーノが言っていた言葉をふと彼女は思い出す。

――サイバトロンでの平和な頃を俺は知らない。

戦いで壊れてしまった故郷を見て彼が今何を思うのか、ヒスイはただ苦しく推し量る事事態間違えているように思えた。


『恐ろしいか。』


声を掛けられて現実に返る。青ざめた彼女を引き寄せるとサウンドウェーブはその瞳を覗き込んだ。


『漸く再建に踏み出せる。人間は皆奴隷となり、オートボットは全て処刑される。』
「そんな事…!」
『貴様ら人間に防ぐ事が出来るか?なぁ、ディランよ。』


サウンドウェーブは足元に居た、人間の部下であるディランに視線をやる。彼はそれに応える事は出来ず、ただ苦々しい表情で俯いた。
人間の非力さを思い知らされる行為。サウンドウェーブは彼を見て心底楽しそうに眼を細めると腐食銃を持ち上げた。
何を、言う暇もなく銃は放たれディーノの横に居たキューを撃ち抜く。


「…ッ」


悲鳴すら上げられず崩れるキュー。あまりの唐突さと残忍さにヒスイは頭を押さえた。怒りと恐怖が彼女を咄嗟に飛び降りようと動かせるがサウンドウェーブがその前にヒスイをケーブルで縛り上げる。


『じっとしていろ。貴様は後、二人…同じ光景を見た後、あのオートボットの前で殺してやる。』


戦慄が走る。ヒスイはそこで初めて、サウンドウェーブを睨みあげた。歯を食いしばる彼女を見て、彼は嬉しそうに声をあげて笑う。
ディーノの前で死ぬ?そんな事、まっぴらだ。ビーやラチェットが死んでいくのを見ているだけなんて事も我慢が出来ない。
腕に仕込んでいた小型のナイフでヒスイは自らを拘束するケーブルを刺す。
刹那、緩んだ隙に彼女は抜け出そう、とした。しかし瞬時に身体を襲う電気ショックのような痺れ。死んだようぐったりとしたヒスイを見て、それまで黙っていたディーノが怒りを剥き出しに暴れ出した。


『てめェ、殺してやる!!』
『安心しろ。まだ生きている。…しかし、』


サウンドウェーブは考え込むよう、ヒスイを見つめる。間近に迫る顔に恐怖するが身体を抜ける痛みと眩暈でとても動けない。
彼はそれにほくそ笑むと、ディーノの方に再び向き直った。


『…やはり、お前を先に殺したくなってきたな。この人間は面白い。頭は悪くない。死に怯えない訳ではないのに、貴様の事となると選択を違える。』


腐食銃が持ち上がる。やめて、心では叫ぶが声が出ずヒスイは嫌に近くで聞こえるサウンドウェーブの声に耳を済ませるしかなかった。


さあ、僕の掌で絶望に泣いて。

悪魔が、微笑だ。
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2013 02 04

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