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18仕事復帰


軍服に袖を通し、ベルトを締める。
たった数日任務から離れただけなのに、何だか妙に緊張して、彼女は書類を持つ指先が震えた。
分かっている。会いたい――そう思う反面、皆の戦闘後を見るのが少し怖いのだ。きゅ、と唇を結んでヒスイは格納庫へ歩いて行く。

コツ……コツ……
控えめに歩いても自分の靴音がやけに大きく耳について、彼女は扉が見えてきた辺りで一度止まった。
通り風が髪を撫でる。一度、深呼吸。再び、その足を踏み出そうとしたその時、不意に向こう側から格納庫のロックが音を立てて開いた。


『"Why!?""どうして君はそこにいるんだ!"』
「バ、バンブルビー!?」


狭そうに身をかがめて、人間用の出入り口からこちらを覗く青いアイセンサー。
驚いて彼女が駆け寄ると、傍らにレノックスが壁際に背を預け立っていた。


「お前が早く入って来ないから開けろとせがまれてな。」


ぽん、と軽く肩を叩いて彼は入れ違いに格納庫を後にする。彼女はそれを目で追いながら振り返ったが、黄色い手が素早く伸びて軽快なリズムと共にヒスイを素早く掬い上げた。

「、わ!」

悲鳴を上げる間もなく持ち上げられて、彼女はそのまま足取りの軽いバンブルビーの掌に座ったままオートボット達の輪の中へ入って行く。
不安定な足場に泳ぐ視線。指の隙間から下を覗くと、ちょうどアーシーの姿が見えて彼女はホッと息をついた。


「アーシー!」
『ご機嫌よう、ヒスイ。また会えて嬉しいわ。』


バイクのヘッドライトを点滅させて、彼女の声にアーシーは穏やかな態度で返す。
見た所大きな破損は見られない。ヒスイが嬉しそうに頬を緩ませていると、バンブルビーの足元にやってきたホイーリーが勢い良くぶつかった。


『相変わらずオマエ、ケガばっかりしてるナ!ドンクセェ!』


ダイジョウブなのかヨ?

吐き出す汚い言葉とは裏腹に一生懸命見上げてくるホイーリー。彼女はそのギャップに思わず小さく吹き出すと、ありがとう、と礼を述べた。
一頻り、周囲のオートボット達と言葉を交わすと彼女はコンクリートの床に降り立つ。
このまま話していたい気持ちは山々だが、のんびりしてばかりは居られない。
ディセプティコンによるシステムのハッキングが発覚して以来、ファイアウォールの見直しが早急に求められ現在もそれは進行形だ。
接触をしたヒスイの携帯電話も変更を余儀無くされたのはそうした経緯もある。ここも安全ではない。けれど安全であるよう最善を尽くさなければならない。
コンピュータールームに足を運ぶ途中、ふと赤いボディが視界に入る。格納庫の隅で、黙って壁に寄りかかるディーノの姿。

――…礼を。お礼を言わなくては。

そう思い、彼女が歩み寄ろうと体の向きを変えると、ディーノはそれが分かったかのように彼女とは反対側、滑走路の方に出て行った。
タイミングを失って、ヒスイは為す術なくその背中を黙って見つめる。じくじくと疼く胸の痛みに、彼女は彼を追えなかった。努めて冷静な表情で、ヒスイは自らの席へ向かい腰を降ろす。
後を付いてきたホイーリーが、ラジコン姿から変形。彼女の膝の上に飛び乗った。
寛ぎながら共にコンピューター画面の起動を覗き込む彼をヒスイは目を細めて軽く撫でる。


「ねえ、ホイーリー。」
『ァン?』

「…私、ちゃんと笑えてる?」


どうしてだろう。ディーノが人間を嫌っている事なんて解っている。なのに。
話せなかった事が悲しいと痛むの自らの胸が、ヒスイは酷く滑稽に思えた。
―――――――――
2011 10 24

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