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17見えない本音


"生きていて良かった。"

顔を合わす度、仲間がそう言ってヒスイを抱き締めた。暖かな感触に彼女自身奇跡だと思う。
あの時、サウンドウェーブの申し出を断った時確かにヒスイは死を覚悟した。
目覚めたディエゴガルシアの自室。見慣れた天井を認識した時、ヒスイは自然と目頭が熱くなって久し振りに嗚咽した。ベッドの上で彼女はそっと首元に触れる。瞳に映る、腕の擦り傷と手首の浅黒い痣。
ディーノが後少し遅ければ、確実に命は無かったろう。


「………早く、お礼言わなくちゃ。」


アーシーや他のオートボット達にも、まだ再会出来ていない。早く回復して、皆の無事を直接確かめたい。彼女が小さな溜め息をついて、横になると突然窓が大きく揺れた。
驚いてヒスイが顔を上げると、ガラスの向こう側に映る銀色の手。
慌てて布団を払い除け、床につける足。
側に駆け寄り窓を開けると、ゆっくりと大きな掌が伸びてきた。


「サイドスワイプ…!」


差し出された手に彼女は迷いなく飛び乗る。
ヒスイが指にしがみついたのを確認すると、サイドスワイプは部屋からゆるゆると手を引いた。
アイセンサーの近くまで、サイドスワイプは彼女を寄せる。微熱があり、あちこちに小さな傷は見られるものの、ヒスイは朗らかに普段通り微笑んでいて、サイドスワイプはその様子に漸く安心したように声を発した。


『良かった…思ったより、元気そうだな。』
「うん。ありがとう。ねぇ…こんな所まで出てきていいの?」
『少し位、構わないだろ。何か処分されたら口添えしてくれ。』


相変わらず飄々としたオートボットに、彼女はまた笑顔が零れる。
自分から会いに行かなければいかないのに、こうして来てくれる優しい友人の存在にヒスイは素直に感謝した。


『まだ新しいケイタイこないのか?』
「…ええ。ゴメンね。今、用意してもらってる。…皆、無事?」
『ああ、大した傷ねェよ。――あ、でもディーノのヤツが…』


その名前に、ヒスイはぐっと息が詰まる。
無意識に身を乗り出した彼女を見て、サイドスワイプは少し意地悪な笑みを浮かべると声を潜めて囁いた。


『…気になるか?』
「なあに、それ。助けてくれたんだし、ディーノさんを心配するのは当たり前でしょ。」


少しむくれた彼女を見て、彼は可笑しそうに笑って謝る。久しく会う手前、ついからかってしまったのだがその反応があまりに近しい誰かに似ていてサイドスワイプは絶えず嬉しそうだった。


『ちょっとボディの部品が幾らか飛んだだけさ。無理に戦闘機なんか擬態してかっ飛んだからな。』
「…え、」
『まあ気にするな。あいつが自分の意思でした事だ。一週間もすりゃ自己修復で治る。』


サイドスワイプはヒスイを部屋に戻すと、指でそろりと窓を閉じる。
寂しげに揺れる彼女の瞳。それを見て、彼はもう一度連れ出したい衝動に駆られるが我慢した。
行かないで――目ではそう訴えていたが、よくも悪くも、感情をそのまま吐露しないのは彼女の美点だ。何より今のヒスイに無理をさせる訳にはいかなかった。


『なあ、ヒスイ。人間はキライだけど……あいつ、お前はキライじゃないと思うぜ。』

だから、早く治して会いに来いよ。

ビーグルモードで去っていくサイドスワイプを、ヒスイは曖昧な表情で見つめる。
ディセプティコンをディーノは心底憎んでいる。彼女とて仲間を何人も失い、その気持ちは同じであるが、彼の敵に対する執着心は凄まじいものがあった。対抗する力があるだけ余計にそう見えるのかもしれないが。

(助けに来てくれて嬉しかった…けど、
それはディセプティコンを殺したかった…だけかもしれない)

薄いカーテンを、彼女は引く。それは心をベールで覆うように。……自信は無かった。彼に向ける感情は、感謝と、敬意と――それ以上は過ぎた期待な気がした。
ヒスイはそのままベッドにダイブする。
忘れてしまおう――そう思った別れ際のサイドスワイプの言葉だったが、予想以上にそれは心をかき乱して、瞳を閉じても彼女は暫く寝付け無かった。
―――――――――
2011 10 21

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