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15Dead Or Alive?


「………プログラムを渡せですって?」


赤いセンサーをじっと見つめたまま、ヒスイは唇を震わせた。
サウンドウェーブは頷く代わりに、彼女の頭にケーブルで触れる。脳裏に蘇える、いつかディエゴガルシアの滑走路でサイドスワイプと交わした会話。

"………また自己修復の改善プログラム作ったから………"

"……なァ、あのプログラム調子いいぜ。流石、"学者さん"てヤツは違うな……"

――体が凍りついた。
基地内をハッキングされていた事実にもゾっとするが、それよりも彼の望むその先が解かって彼女は思わず顔を伏せた。


「……メガトロンを私に直させるつもり…?」


ガ、ツン…!
鈍い音に遅れて右頬にじんと痛みが走る。殴る力加減はしたのだろう。頬は切れていないようだが、歯に妙な違和感が残った。


『…口の聞き方に気をつけろ。貴様如き虫ケラが気安く呼んで良い方ではない。』


反論はしなかった。黙ってヒスイは鉄の味を飲み込み、サウンドウェーブの暴力に耐えた。慎重に判断を下さなくては何が最後の言葉になるか分からない。身体に絡み付くケーブルは震える四肢を楽しむよう、ゆっくりと彼女の顎を持ち上げた。


『ヒスイ』


思いがけなく名を呼ばれて、彼女は無意識に目を見開く。顎を固定し、サウンドウェーブは鼻先が触れる距離までヒスイに顔を近づけてきた。
下等な生物ではあるが、思慮深く、科学技術の知識もある。これで自らに従順なペットにしてしまえば上出来の駒だ。
サウンドウェーブは身動きの取れない彼女を嘲笑い、気紛れに名前を口にする。
心臓に向ける鋭い針。断れば、ひと思いに貫いてやろうか。それとも、どこか身体を裂いてもう少し焦らして楽しもうか。


『…さあ、生きるか死ぬか。お前の返答次第だ。』


彼女は固く拳を握る。答えは既に決まっている。後はそれを口に出す覚悟だけだ。
彼女は静かに目を閉じて、仲間と…遠く離れた家族を思う。暖かな記憶を瞼の裏に焼き付けて、ヒスイはゆっくりと瞳を開き息を吐いた。

――ジャズ、
あなたが迎えに来てくれたらちょっとは楽しい気持ちになれるかしら。

彼の恭しい仕草を思い出すと、少しだけ気持ちが楽になった。


「―――NOよ。」


赤い瞳に殺気が灯る。口元が歪んで、ケーブルの締め付ける力が骨が軋むほど強くなった。
喉が圧迫され悲鳴一つ上げられない。
怖い。苦しい。生理的に滲む涙が、ケーブルまで伝ってサウンドウェーブがまた可笑しそうに笑った気配がした。


『残念だ。頭だけは綺麗に残して後で利用してやろう。』
『quanto?(ヘェ…、そりゃ、どうやってだ?)』


朦朧とする意識の中、その声は嫌にクリアに響いた。
空間を切る風。一瞬にして、幾重にも伸びていたケーブルが巨大なブレードに寸断される。
痛みとその衝撃に気取られ、サウンドウェーブが大きく後退すると巨大な赤が彼らの間に滑り降りた。
拘束が緩み、崩れ落ちる小さな身体を黒い掌が受け止める。――以前にも感じた事のある感触。彼女は咳き込みながらもそれに安心して力を抜いた。


「…ディ…ーノ…?」


閉じられた彼女の瞳に彼の姿は映らない。労る言葉は聞こえてこない。が、壁際に寄せる動作が不器用ながらも優しく…ヒスイは離れて行く指先を寂しく思った。


『…こんな弱ェ生き物いたぶって喜んでりゃ世話ねェな。』

―――覚悟しろよ?per favore.


発声回路から放たれるのは挑発めいた音の羅列。彼のその態度にこの状況でも口元が自然と弧を描いて。ディーノの気配を間近に感じながら、ヒスイは朦朧とする意識を惜しみながら手放した。
―――――――――
2011 10 17

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