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13大空の勇者


SOS信号と共にブレインに映像が流れ込む。発信者はアーシー、そして乱れたビジョンの中で襲来したディセプティコンの前に居たのは紛れもないヒスイだった。
助からない―――ディーノは、直感でそう思った。近過ぎる距離、案の定恐怖に呑まれて一歩も動けないでいる。一呼吸もしない間に裂かれて最期り。だが、アーシーの絶妙なタイミングによる攻撃で彼女の運命はディーノの想像した軌を脱した。


『…tortuga!(…のろまな女め!)』


思わず罵る言葉が口をつくが、無意識に彼の口からは安堵の溜め息が零れた。送信されてくる座標にディーノは拳を振り上げると、最早虫の息だった目の前のディセプティコンを力の限り殴りつける。

呆気なく壊れる、顔面。
ブレードで無残に裂かれる四肢。
あまりに暴力的な破壊に他のオートボットも息を呑むほど、彼は敵をズタズタにした。
鉄クズを荒々しく蹴飛ばすと、ディーノの蒼眼はレノックスを捉え大股で彼に近づいて行く。
自ら人間に近づくなど普段からは考えられない光景。だが彼は見下ろせる位置までやって来るとアイセンサーを細め、低い声で言葉を漏らした。


『おい、オマエ、今飛んでる戦闘機の高度をギリギリまで下げさせろ。』
『ディーノ!?』


サイドスワイプの声にディーノは視線だけ彼に送る。状況が飲み込めていないレノックス達。イラつくディーノが手を出す前に、サイドスワイプは慌ててアーシーの記録を彼らの前に投影した。


『ビーグルでちんたら走ってたんじゃ間に合わねェ。死ぬぞ、アイツ。』
「――…だが、どうする気だ?まさか…」


余計な言葉を紡がせないよう、喉元に突き付ける刃。レノックスの決めかねた態度にこれでもかと焦燥に駆られた怒りは容易に沸点に達し爆発した。


『いいからさっさと命令しろ!お前を殺して別のヤツにやらせたっていいんだぜ?』
『ディーノ、やめるんだ!少し落ち着け。』


普段なら聞き入れるオプティマスの言葉。しかし彼の制止ですら霞む程、今のディーノは興奮状態にあった。剥き出しのブレードを引く事なく彼は瞳と同じ色の空を荒々しく仰ぎ見る。

一面の青を駆け抜ける白い軌跡。
若干、曖昧なスキャンにはなるが、ディーノはアイセンサーをフル起動させたままボディの変形を行い始めた。

『un inetto…(役立たず共…)

―――全員俺の周りから離れてろ。』

風がうねる。
彼女の元へ向かう翼と成るために。
自分の事を差し置いて、他人の心配などする癖に、先に逝ってしまうなど許せない。
―――何より。

(俺を軽視した事をまだ躾直せていない)

ディーノは地を蹴り上げ、真っ赤な直線を描いて高い空へと消えていく。
周囲を震わせる衝撃波。彼が飛び立った後、オプティマスはレノックスに怪我がないか確かめるようスキャンセンサーを作動させた。


『…すまない。』
「いや、いいんだ。構わない。むしろ、感謝しなくちゃな…」


オプティマスの謝罪に、レノックスは小さく首を横に振った。あの人間嫌いのディーノが、ヒスイの事を何を置いても助けようとしている。ディセプティコンを殺しに行くだけでなく、彼女の命を救おうとしている事が彼としては非常に心強く、嬉しかった。


「…さあ、俺たちも彼を追おう。本土の基地へ向かうぞ!」


レノックスは小隊に向けて指示を出すと、オプティマスに滑り込む。硝煙に消えた小さな後ろ姿に赤い光が間に合う事を祈って、彼は逸る感情を殺すよう強く拳を握り締めた。
―――――――――
2011 10 14

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