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12接触


生活必需品を買い込む為、ヒスイはちょうど便のあった輸送機で久しぶりに基地から大陸へと出てきていた。
護衛兼彼女の足として付いてきてくれたアーシーも初めて降り立つ場所に退屈しない様子でヒスイはそれに少し安心する。
街道沿いにずらりと建ち並ぶ洋服や雑貨の飾られた大きなディスプレイ。基地ではお目にかかれない賑やかな光景が気に入ったのか、アーシーはホログラムを利用して惚彿と覗き込んでいた。


『人間て本当に色々なモノを造るのね。…あ、ヒスイ。私達はここで待ってるわ。』


中まではホログラムが届かない。
彼女の言葉に頷いて、ヒスイは道路脇から建物内へと入って行く。
ふと、ポケットの中で震える携帯。サイドスワイプからメールの返信でも来たのだろうか。今日も皆、…ディーノも何処も怪我をしてなければいいが。毎日まめな彼の明るい話題を期待して画面を開くが、予想は外れそれは非通知設定の着信だった。
一瞬、ボタンに触れて躊躇うが、彼女はそのまま通話を押す。


「はい―――…もしもし?」


ガガ、――ッ……
電話の向こうは酷いノイズ音だった。
無言の中、混じる奇妙な機械音。

ざわり、嫌な感覚に肌が粟立つ。
思わずヒスイが耳を離した瞬間、背後からもの凄い閃光が放たれた。耳が裂けるような爆発音と衝撃波が無防備な体を打ちつける。
通路の隅に軽々と吹っ飛ぶ細い身体。
彼女は痛みを堪えて何とか上体を起こすと、青ざめた顔で背後を振り返った。

――、アーシー………!

別れてまだ一分と経たない。
砂煙と悲鳴の入り混じる中、ハンカチで口元を押さえ彼女はメインエントランスへひた走った。


「…アーシー!アーシー、無事!?」
『ヒスイ!イケない、早く離れて…!!』


酷く焦ったアーシーの声。彼女がそれに反応すると同時に、大型の獣を模した銀色の金属生命体が視界をいっぱいに埋め尽くした。
赤いセンサーがこちらに照準を合わせている。

――ディセプティコン。

目の前に迫る彼女の頭より大きな牙。
低い唸り声に全身から冷たい汗が吹き出た。


『…――、ター…ゲット、捕捉。』


無機質な音に絶望を覚えた。
離れなければ――そう思うが、身体が完全に相手に威圧されて動けない。まさか自分が狙われるなど想像だにしなかった。何故。どうして。考える間もなくディセプティコンの口から自らに伸びてくるケーブルを只々ヒスイは呆然と見つめる事しか出来ず……


『ヒスイ!!』


―――彼女の止まった時間を動かせたのは、大きな銃声。
背中に当たったのだろう、ディセプティコンは2、3度跳ね、意識をヒスイから背後へと向けた。金縛りの解けた彼女はそのまま弾かれたように走り出す。丸腰のまま側に居てはアーシーのいいお荷物だ。一気にクリアになった思考で、彼女は携帯の電源を落とし建物の影へ走り込んだ。

応援が来るまでどうにか生き延びなければならない。一番近い基地までは5キロ弱。
アーシーが通信回路を通してスクランブルを掛けてくれているだろうから、自分が今すべき事は一刻も早く一般人がいない場所へ移る事だ。
震える足を叱咤して彼女は地上から地下へ伸びる階段を下り、水路を辿る事を考える。

何故、自分が狙われたのか――?

答えの出ない混乱の中、彼女は地上のオートボットの無事を祈る事しか出来ない現実に唇を噛んだ。
―――――――――
2011 10 11

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