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10Shackhands


レノックスの部隊とオートボット達が出立した基地内は、再び閑散とした状態になった。
ヒスイはお気に入りのコーヒーを自販機で購入し、モニター室へ再び戻る。
本日はパソコンと睨めっこしながら、ひたすらプログラミング。疲れて集中力が落ちてきた頃、隣に置いたカップを傾ける事で喉を潤し作業に没頭した。
不意に電子音が響いて画面下が二回点滅。何かと思って視線を落とせば、メールの受信を知らせるもので送信者はサイドスワイプになっていた。
クリックすると、今日は危険な場所にはいないのか…遠い異国の風景の写真が本文に大きく貼られている。
彼女はそれに穏やかに唇を緩めると、頬杖をついて静かに画面を眺めた。
こうしてオートボットとメールでやり取りする日が来ようとは……人生何が起こるか分からないものだ。

"よォ、オネエチャン。アンタみたいなお嬢さんも地球じゃ戦うのか。"

ヒスイが初めて出会ったオートボットは、サイドスワイプと同じ銀色をしていた。
明るく、全く人見知りをしなかった彼の名はジャズ。彼はオートボットの中でも特別人間くさく、そして、あまりに早く逝ってしまった。
出会った時は、すぐにはその存在を受け入れられなくて、ヒスイはただ戸惑った。思い返せばあまり好ましい態度ではなかった気がする。しかし、何の縁か戦闘員でなかった彼女は初の対ディセプティコン戦にジャズと共に向かうことになった。
キューブを守る為、ある街に着いて直ぐの事だった。彼はメガトロンと交戦になり、死んだ。
決して弱かったわけではない。体の脆さなら人間の誰しもがジャズ以下。だが、結果として訪れた死は彼女でなく彼を選んだ。それが結果だ。

―――あれから二年。今でも時折、考える。もし、彼があの時生還していれば今頃どうなっていただろうか、と。今の生活のように、まるで普通の友達のように仲良くなれていたのだろうか。
二人で星を見上げた夜、彼は笑って近くに咲いていた花をくれた。

"お近付きのシルシに"

人間と同じようでもオートボット達に墓はない。弔う習慣もない。人間は死んでしまったら家族や友人がその死を悼むのに、同じく懸命に戦った彼らはスパークを失えば分解され風化して行く。
それはとても理不尽で哀しい事だとヒスイは思った。一人くらい例外がいてもいい。
誰もいないのなら、自分達の星を守ろうとしてくれる彼らの存在が隠蔽されてしまうなら尚更。

「…」

少し間を置いて、ヒスイはサイドスワイプに返信のメールをタイピングする。

[何も要らないから皆で無事に帰ってきてね。]

決して大きくはないが儚い希望。まだこの世界で一緒に生きていたい。その思いを込めて。
一呼吸置いて、再びデータ受信の音が響く。送られてきた新しい画像――そこにはレノックスや隅の方にはディーノの赤い姿も見つけて、ヒスイは思わず破顔した。
―――――――――
2011 10 07

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