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09白い花束の意味


大型ヘリでの格納区画は金属生命体にとって酷く窮屈で暗い。小型のホイーリーなどは比較的自由に動き回れるが、他のオートボットはビークルで各々その場で待機する。
ディーノの隣にいるサイドスワイプは今、スリープモード。戦闘に備え、浅い眠りについていた。
静寂に包まれたこの場所では、外部の人間達の声がよく聴覚センサーに拾われる。特に彼らの雑談をメモリもしないが、ディーノがインターネットで武器を検索しているとふと意識を向ける単語が彼らの言葉から聞こえて来た。


「…ヒスイのヤツここ二年で大人っぽくなったよな。やっぱり完全に内勤になると違うって事か?」
「ああ、最後に一緒に現場に出たのは何時だったか。…ほら、あの副官のジャズとも妙に気が合って戦ってたのに。」
「ああ、そうだったな。そう言えば、完全に前線を退いたのは彼が死んで…」


何気ない会話に反して、ディーノの聴覚は彼らの話題に鋭敏に反応する。
同時に彼のメモリから引き出されたのは以前、ディエゴガルシアで見た人間達の葬儀の光景。その時、確か白い花が棺の周りには添えられていた。海で花を抱えていたヒスイの姿が重なるようにディーノのブレインサーキットに蘇る。

あの花―――。
今まで何とも思わなかったがヒスイが神妙な面持ちで海に送っていた白い花は間違いなく弔いのものだったろう。

(……、まさかオートボットである将校の為に?)

ディーノは一番に浮かんだその考えを否定するよう、小さく車体を揺すって銀色のボディを思い起こした。

ジャズ――久しく聞いた名のそのオートボットは仲間内でも非常に優秀な戦士だった。
滅びゆくサイバトロンで別々の艇に乗り込んだのが最後、ディーノがこの星に辿りついた時にはもう彼の命は尽きており再会する事は叶わなかった。知る限り、勇敢で情の厚いオートボット。それがもし、前線でも戦っていたというヒスイと出会っていたら。


『……』


思い掛けず知ってしまった過去に、もやもやとした気持ちがディーノのスパークを曇らせる。
更に聴こえてくる人間の声を拾おうとした、その時―――輸送機が下降する揺れで、周りのオートボット達がスリープから覚醒状態に切り替わった。
一気に慌ただしくなる艦内。
ディーノはそれに小さく舌打ちすると、自らもエンジンを稼動させ着陸に備えた。


『…司令官。』
『?どうした、ディーノ。』
『転送して欲しい戦闘データがある。メガトロンとの地球での交戦、今後の参考にメモリしたい。』


至って最もらしい理由を付けて、ディーノはオプティマスに通信回路を開き述べた。何ら疑問に思う節もなくオプティマスはフーバーダムにほど近い街での記録データをディーノのブレインに送信する。
流れ込んでくる映像。そこには確かに今より少し幼いヒスイが軍服を纏い銃器を手にして応戦していた。
ディセプティコン殲滅に援護射撃し、ガッツポーズをし合うジャズとビル影にいる女性の姿。そのヒスイは今まで見てきたどの表情より生きていて、ディーノは無意識に魅入っていた。
自らのボディより数倍大きなメガトロンにもジャズは単身果敢に向かって挑み行く。
ヒスイがそれを見て何か叫んでいる様子だったが、オプティマスのメモリには保存されていなかった。

―――呆気無かった。
勝負はほんの僅かな隙。ジャズは、メガトロンに足を取られ完全に体を二つに裂かれた。

アイセンサー外に移動したのか、その後ヒスイは映らなかった。だが、ディーノには彼女が泣いているような気がした。
ヒスイが涙を流す所など今まで一度も見た事はないが、その時は何故か確信めいてそう思ったのだ。
―――――――――
2011 10 05

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