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6


仕事帰り、一人電車に揺られる。
ぼんやり外の夜景を眺めながら、ヒカルは様々な事を思い悩んでいた。もし家に帰って月山がいたら。鍵をかけていても勝手に家にあがり込んでくる喰種に気分が沈む。今日は気分転換に少し寄り道をしようか。

ほとんど衝動的に、いつもの駅の二つ手前で降りた。
行き付けではないが、たまに足を運ぶ洋菓子店。ショーウインドウからきらびやかな店内が見えてヒカルは思わず顔が綻んだ。
扉を潜ると、独特の甘ったるい薫りが鼻を擽る。商品をのんびり選んでいると、暫くして入り口の扉のベルが音を立てた。


「…!金木、さん?」
「あ…、ドーナツ屋の。……えっと、」
「亜門です。」
「ゴメンなさい。亜門さん。お久しぶりです。」


吃驚した。小さな篭を手に立ち尽くしたまま、ヒカルは小さく会釈する。ドーナツ店の時といい、外見に似合わず甘党なんだな、少し彼が可愛らしく思えた。
こういうギャップに女性は弱い。背も高いし、甘いマスクの部類に入るこの人はきっとモテて仕方ないだろう。
だが、以前あった時と異なる、違和感があった。変わらない爽やかさに混じって少し疲れたような憔悴感。彼もこんな風に見えたのだろうか。


「…今日は亜門さんが、なんだか少しお疲れのように見えます。」
「え…、」
「あ、違ってたら気を悪くなさらないで下さい。私の勝手な憶測なので。」


やんわり微笑んで、彼女はレジに進む。会計を済ませて振り返ると、亜門は驚いた顔をしたまま立っていて、何となく見つめ合う形になった。
僅かばかりの時間だったと思う。すぐに彼の連れらしい女性が入ってきたから。


「亜門鋼太郎、急いでくれないか。21時までに食事を取りたい。」
「あ、ああ…すまん。」
「すみません、足を止めさせて。じゃあ亜門さん。失礼します。」
「あ、いや。こちらこそ。金木さん、もう遅いから気をつけて。」


優しい笑顔に頷いて、ヒカルは亜門と連れの女性に会釈すると店を出る。街に消えていく後ろ姿。それを黙って見つめる亜門の腹を、真戸アキラは軽く突いた。


「意外だな。女にも興味があったのか。」
「な!何を馬鹿な…彼女は一度会っただけで…」
「ほう、一度でそこまで入れ込めるのか。なるほど、ああいうタイプが好みなのだな。」


まあ、普通だが悪くない。アキラの相変わらずのストレートな物言いに亜門は困ったように苦笑する。以前見かけた時より元気そうにはなっていた。しかし、やはりどこか放っておけないと思うのは…恋心とは違う気がする。柔らかく笑う彼女の瞳の奥には影がある、そんな気がして。


「…追い掛けたいなら、私は帰ってもいいが?」
「馬鹿を言え。…待たせてすまん。行こう。」
「分かった。」


アキラが押し開けた扉の向こうの世界に既にヒカルの姿はなく。見知らぬ雑踏が夜の街に広がっていた。

渡した名刺に記された携帯は一度も鳴っていない。
何もないならそれに越した事はない。
亜門は小さく溜め息をついて、足早にアキラの後を追い掛けた。
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2014 10 11

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