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7


真夜中、月山がヒカルのマンションを訪れると、彼女はテレビを付けたまま眠りこけていた。
流れるDVDは既に終わり、メニュー画面に戻っている。ソファーで丸くなる彼女に月山は薄く微笑むとテレビの電源を落とした。
顔を近付けると、風呂上がりの良い香りに混じって、僅に男の薫りがする。ちり、と頭の奥で苛立ちが募る。
分かっている。別に近くをすれ違っただけかもしれないし、仕事で会話した程度の事かもしれない。

しかし、彼女は僕のものだ。

大きめのトレーナーに身を包む彼女の袖を捲り上げる。とくとくと肌の下で脈打つ血液。月山はそれを見て目を細めると静かに注射器を取り出した。
彼女になるべく傷は遺したくない。手早く血を抜き取ると、彼は傷口を舐め始めた。
久し振りの甘い味に、食らい付きたくなる衝動を抑える。全く彼女といい金木研といいこの素晴らしい味は遺伝なのだろうか。


「……ヒカルさん。起きてくれないか?」


君が今、目を開けたら迷わず抱きたい。しかし、寝息をたてる姿は起きている時には見られない気の抜けた顔をしていて。月山は小さく溜め息をつくと、彼女の身体をベッドへ移し変えた。
一緒に眠るには窮屈なシングルベッド。月山は縁に腰を下ろすと、持って来ていたワイングラスに彼女の血を注いだ。
部屋の中を見渡しながら、それを一口、口に含む。手狭なマンション。いっそ自分の屋敷に住まわせてしまおうかとも考える。色気のあるネグリジェを与えて、血に濡れる彼女を味わえたら…

(……カルマート。まずい、うっかり殺してしまいそうだ、)

席を立ち、月山はベランダに一人赴く。夜風にそっと目を閉じると、彼はグラスを愛おしそうに香った。
美貌に擦り寄らない異性は好きだ。性格にもよるが、ヒカルの控えめな雰囲気は好ましい部類に入る。そう、まるで深夜の夜景のようだ。そして少し推せば見せる困った顔は何とも言えない高揚感を誘った。


「……月山さん?」


眠たそうな掠れ声。覚束ない足取りで起き出し窓際に立つヒカルに月山は目を奪われる。彼は残った血を飲み干すと赤い唇のまま微笑んだ。


「やあ、ヒカルさん。今夜も月が綺麗だよ…」
「……そうですか…。あの、せめて玄関から起きてる時に来ていただけませんか?」
「おや…何か不満かい?」
「こんな適当なパジャマを見られて、勝手に血を抜かれて逆に不満じゃない所がありませんが。」


…とりあえず、珈琲入れましょうか?そう呟いて、背中を向けた彼女を月山は衝動的に抱き締めた。この冷静さと優しさが堪らなく癖になる。ヒカルは迷惑そうに身を捩っていたが、月山は構わず頬ずりした。


「…どうしたものか、君が可愛くて仕方ない。ねえ、やはり一緒に暮らさないかい?ヒカルさん。」
「やはりの意味が分からないんですけど!もう、いいから離れて下さい!」
「ふふ…恥ずかしがらなくていいよマドモアゼル。化粧などなくとも君はそのままで美しい。今度は僕好みのネグリジェを持参しよう。」
「絶対着ません!」


ねえ、君はどうか分からないけれど
食事以外でこんなに楽しいのは本当に久し振りの事だ。
案外、堕ちているのは僕の方かもしれないね。

月山はヒカルを容易く抱き上げるとそのまま寝台へ直行した。

まずはセミダブルに買い換えようか。
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2014 10 14

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