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久しぶりの弟からの電話。
ヒカルは素直に嬉しかった。


「姉さん、最近忙しいの?店に来ないから…、元気にしてる?」
「…うん、連絡しなくてごめん。少し落ち着いてきたからまたあんていくにも珈琲戴きにいくね。」
「うん。…姉さん、無理しないでね。僕だってバイトしてるし、お金は…」
「ありがとう…研。心配かけちゃったね。」
「いいんだ。あ、月山さんもたまに来て姉さんにまた会いたいって。僕はあんまりオススメ出来ないけどね。」


思わず携帯を握る手に力が入ったが、多分、おかしな様子は伝わっていないと思う。しかし、あんていくに行くにはかなりの勇気が必要だった。
出来れば接点になりそうな場所に行くのは極力避けたいところだ。漸く傷も塞がって、内心、気持ちが幾ばく落ち着いてきた面もある。

(かといって、場所を変えて会おうなんて変に思うよね…)

電話を終えた後、ヒカルは大きなため息をついた。

結局、少し日を置いて彼女はあんていくに足を運んだ。入り口の扉を潜ると、金木研と目が合う。ほっとしたように笑う弟に、ヒカルも自然と笑みが溢れた。


「研、久しぶり。」
「姉さん、いらっしゃい。」


店内に人は疎らで、彼女は奥に足を進める。隅の席に腰を降ろすと、ゆったりとガラス張りの窓から外を眺めた。
弟が、珈琲を淹れる様が違和感なくなっていて、月日を感じる。ちょうどその時、霧島董香もカウンターに出てきたのでヒカルは軽く手を振った。このまま暫く穏やかな時間が過ぎるように思えた。


「やあ、ヒカルさん。待たせたね。」
「え…」


その、響きの良い声が聞こえるまでは。肩が跳ねる。まさか会うはずなんて。そう高を括って此処へ来たが、目の前に立つ青年に彼女は言葉が出なかった。
咄嗟に金木研に視線が向かうが、月山がそれを遮る。優しく微笑まれても顔は恐怖でひきつった。どうして。ごく自然に頬に口付けられて必死に悲鳴がもれそうなのを彼女は堪えた。


「あの…、つ、月山さん?何して…」
「ああ、カネキくん。これは失礼。…事後報告になって申し訳ないが、僕、少し前に彼女に交際を申し込んだんだ。」
「ハァ?」


明らかに不審そうな声を上げたのは金木ではなく、霧島董香だった。ヒカルはヒカルで話についていけていないが、彼の眼を見て理解する。話を合わせろ、と。月山は暗にそう告げていた。


「テメェ、何企んでやがる?」
「ち、ちょっとトーカちゃん!(姉さんいるからっ)」
「…やだなあ、嫉妬かい?霧島さん。嬉しいけど僕の気持ちは変わらないよ。僕はヒカルさんに恋をしてしまったんだ。」
「…ヘェ?じゃ、聞くけどあんた、ヒカルさんの何を知ってんの?」
「はあ…君はそんなだから恋愛が出来ないんだよ、霧島さん。外見は麗しいのに…勿体ない。付き合ってみないとお互いの事なんて解らないだろう?」


スマートに彼女の前に座り、月山はブレンドを注文する。研の視線を受けて、ヒカルは困ったように曖昧に笑う事しか出来なかった。
言えない。この子には、あの夜の事は。否定しない彼女を見て、金木研は曇った表情で月山を見つめる。


「月山さん…、付き合うかどうか決めるのは姉さんだけど。姉さんの嫌がる事はしないで下さいね。」
「勿論!カネキくんの姉上に粗相なんてあり得ないよ!」
「…」


運ばれてきたブレンドにヒカルは黙って口をつける。
いつもはほっとする時間が、ややこしい事になってしまい、その味わいを楽しむ事は全く出来なかった。少し落ち着いてくると段々と怒りが込み上げてくる。不満を込めて、月山を見ると彼は嬉しそうにうっとりと目を細めた。


「へえ…そんな顔も出来るんだ。素敵な発見だな。」


ああ、神様。
喰種は皆、こんな人ばかりなんでしょうか。
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2014 10 05

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