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3


「…カネキくん、最近ヒカルさんはあまり此処へは来ないのかい?」
「え、姉さんですか?…そう言えば…、そうですね。ここ暫く来てないです。」
「そう。…残念だな。」
「…」


あんていくでの昼下がり。
月山は大学の授業の合間に一月ぶりにこの場所を訪れていた。霧島董香からの鋭い視線を楽しみながらブレンドを味わう。
ヒカルの血で喉の渇きを満たして以来、どうやら彼女は此処に足を運んでいないらしい。
金木や霧島の様子からしてもどうやら彼女は例の件を口外していないようだ。さて、どうしたものか。
月山はあの後、弟である金木研には直ぐに相談するものとばかり思っていた。
しかし、その考えに彼女はどうも沿わなかったようだ。

――この分だと彼女はカネキくんや霧島さんが喰種だとはまだ知らないまま、か。


「おい、」
「?何だい、霧島さん?」
「あたしは前に忠告したからな。ヒカルさんに手出すんじゃねぇぞ、キザヤロー。」


冷ややかな凄みに月山は肩を竦めて苦笑を漏らす。
もう、少しだけ食べちゃったけどね。そう思いながらも彼は涼しい顔で不安そうな表情になった金木に微笑みかけた。

最近、仕事場と家の行き来だけで毎日が終わる。
いや、終わらせていた。忙しければ、あの夜の事が少しでも忘れられるから。
久しぶりの休日、ヒカルは一人外へ出た。前はよく来ていた郊外にあるドーナツ屋。穏やかな陽射しの中、街を行き交う人波を見つめる。
全員普通の人間に見えるが、この中にもきっと「彼等」は存在するのだろう。都市伝説のように思っていた喰種。いまだに噛み付かれた肩の痛みは完全に消えていない。幸いにも月山はあれ以来、目の前に現れない。ほっとしている反面、音沙汰ないのも逆に不気味に感じるが、怯えて隠ってばかりも居られなかった。


「…あの、顔色が悪いが、大丈夫ですか?」


ふと、一人座っているところに男性が声を掛けてきた。ナンパかと正直若干めんどくさい顔でそちらを向く。しかし目が合ったのは、至極真面目そうな長身の男性だった。スーツを型通り着こなしている美丈夫。この店とのミスマッチに内心とても驚く。見詰めたままヒカルがにわかに固まっていると男性は少し慌てた様子で名刺を出した。


「も…、申し訳ない、驚かせて。私は仕事柄人の顔色には敏いんだ。だから、その」
「?…CCG。喰種の捜査されている方ですか。」
「はい。喰種捜査官の亜門です、よろしく。」
「…金木といいます。ご心配ありがとうございます。最近、少し仕事が忙しくて。でも大丈夫です。」


ふわり、亜門に微笑むと、彼は安心したように表情を緩めた。初対面なのにこんなに親身になってくれる人もいるのだ。何だか損得勘定抜きで優しくされるのは久しぶりな気がして嬉しくなる。
彼は急いでいたのか、何か困った事があれば連絡するように。そう言い残して紙袋を抱え出て行ってしまった。
残された携帯番号に視線を落とす。
咄嗟に口をついて出た「金木」の性。本当は引き取り手が異なる為に彼女は別の名字なのだが無意識に近い形で答えてしまった。

(………まあいいか、)

もうどうせ会わない人だ。
とりあえず名刺を財布に仕舞い、一口かじったままのドーナツをヒカルは再び利き手ではない方で持ち上げた。
知らない他人に助けて、なんて怖くて言えない。
こんな紙切れ一枚。

貴方も喰種かもしれないのに。
―――――――――――――
2014 09 29

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