×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



11方位磁石の行方を決めないか


「……叶くんを、見た。ルナ・エクリプスの下で。話は……もう、出来なかったけど。」
「カレン。」
「え、」
「叶の本名はカレンという。…本当は叶は女性だった。貴女にも一緒に覚えておいて欲しい。」


月山の傷の手当てをしながら、二人はぽつりぽつりと会話をした。直接は:Reに帰らず、観母が極秘に所有する建物に一行は一旦、身を寄せた。四方達とはそこで分かれ、掘は暫く同じ建物内で隠れる事にした。


「ありがとう、霧島さん。」
「…、なんかあったらまた言って。一人で無茶されるよりいいから。じゃあ…また。」
「うん。」


夜が明け始めていた。漸く一息つく事が出来て脱力する。ウタには短めの連絡をいれた。帰ったら、また直接事情を説明しなくてはと思いながら。


「…まさかカネキ君も、貴女まで生きていたとはね。」
「弟の生存を知ったのは私も最近の事よ。…私は…、時間が忘れさせてくれると思っていた。苦しくても、時間が経てば貴方も私も前へ進めると。私はあの日…、そう信じて家を出た。研の所へ向かわずには居られなくて。」
「…勝手な理屈だな。」
「そうね……本当にごめんなさい、習。私は貴方の時間を二年も奪う事になってしまった。なのにまた、目の前に姿を晒して、」
「…これからどうするつもりなんだい?君は霧島さん達と意思を同じくしているのか?」
「ええ。研が笑って生きているなら、私はそれで構わない。…あの子の記憶に、もう私が戻らなくても。」


包帯を巻き終えて手を離す。
月山は黙って、その手を掴んだ。


「―――君は今、誰を愛してる?あの頃、僕に注いでくれた愛は、まだ君の中に生きているのか?」
「…今の私に誰かを愛する資格なんてない。愛される資格もね。ただ、研を思う事だけは……家族、だから。ごめんなさい、…」
「…僕は謝って欲しいわけじゃない。嬉しいんだよ、これでも。君が生きていてくれてこれ以上なく嬉しい。…でも、今は失ったものが大きすぎて…」


震える月山の手にヒカルは手を重ねた。
抱き締めたいが、それは赦されない気がした。ただ、もう一度会えた。目を見て言葉を交わして。ただそれだけで、二人の沈んだ心は僅かに灯った。


「…少し休んで。もう黙って居なくなったりしない。貴方に嘘はつかないから。」
「ヒカル…」
「眠って、習…。今度は目が覚めるまで此所にいる。」
「じゃあ隣に座っていてくれ。」


月山が座るソファに、彼女も静かに腰を降ろす。肩を寄せて二人は目を閉じた。静寂が漂う。
繋いだ手は温かく、互いの気配に安堵した。
うとうととしながら月山は呟く。


「…カレンは、君を嫌ってはいなかったよ。」
「え、」
「君が残して行ったカップを、時々、彼女は拭いてくれていた。…何も言わなかったけれどね。」


すう、と眠りに落ちた月山を見て、ヒカルは小さく溜め息をつく。涙が滲む。叶くんも、恐らく松前さんも、もういない。愛し、愛されていた人達を彼は大勢失ってしまった。
彼がこんなにぼろぼろなのに、苦しんでいるのに、自分も疲労から来る目眩に抗えそうになかった。嫌な人間だ。事態に体と頭が同調しない事に自己嫌悪を感じながらも彼女も静かに目を閉じた。

***

少しの間、そのまま眠っていたのだと思う。
控えめなノックの音でヒカルははっと目が覚めた。
まだ微睡みにいる月山を残して彼女は扉口へ歩いていく。
ゆっくりと開いて、ふわりと舞い込んだ香水の香りに瞬時に体が強ばった。…話さなくてはいけないことが沢山ある。
しかし、まだ頭の中で上手く整理が出来ていなかった。


「ウタ、さん…」
「やあ。怪我は…なさそうだね。」


彼の棘眼が怖いと感じた、初めての瞬間だった。

―――――――――――――――――――
2017 07 10

[ 33/36 ]

[*prev] [next#]