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07愛するが故に


小さな綻びはじわじわと広がり、情報は広がる。
それはヒカルの元に訪れただけでなく、また別の角度から月山の側にも伸びた。
金木研の生存を知ったフリーカメラマンの掘ちえ。彼女はこれが月山習が息を吹き返す鍵になると月山家に仕える叶と手を組んだ。叶からすれば人間と手を組むなど耐えがたい嫌悪感だったが、あの日、ヒカルが外へ出ていく事を見逃した罪はいまだ心の底で淀んでいた。いくら彼女が憎くとも、家に縛り付けておくべきだった。正気を失った月山習に愛しさと罪悪感を感じながら叶は今を生きていた。

(…姉の方は音沙汰なしか。)

彼女の遺体もまた見つかっていない。ヒカルもCCGが匿っているのだろうか。再度、調査するか躊躇われたが、先日の人間オークションでの事を考えると、今は足がつきやすい行動は憚られた。同職のユウマが白鳩に捕らえられた件もある。どのみち金木ヒカルは行方知れずのままでいい。金木研の生存を知り、主が息を吹き返せばそれで構わないのだから。掘から受け取った写真の袋を叶は握り締めた。


「……習様、お見せしたいものがございます。」


あれからもう二年。
彼女の声すら正確には思い出せない月日が流れている。

***

Helter-Skelterから店主と同業の喰種が支払いを済ませて出ていく。
ここの所動きを活発化させているロゼの痕跡がCCGに辿られているという情報はイトリの元にも届いていた。先日の人間オークションにも参加しに来ていたし、完全に捕食のバランスを見失っているのだろう。月山家は少し前まで盤石であったが、今では危うさの影がちらついていた。
最近、執事が一人、捕縛されたという内容を考えると、それを足掛かりに月山家=喰種という構図に辿り着く可能性も決して低くない。
夜更けに珍しく店に顔を出してカウンターで一人、血酒を口にしているウタをイトリは見やる。どことなく憂いげな横顔にイトリは彼の隣に座った。


「心ここに在らず。
愛しい彼女と喧嘩でもしたのかしらねー?」
「…喧嘩はしてないよ。いつ出ていくって言い出すかちょっと考えてるだけ。」
「え?まさか漸く手を出して、無理矢理プレイして嫌われた?」
「…」
「やーだ、冗談。うーさん、そういうとこ真面目だもんね。何で?ハイセの写真見せたの?」
「うん。」
「そう。もー、そこで慰め流れに任せてモノにしちゃえば良いのに。もう二年よ?いい加減、月山君の事もいいでしょうに。」


彼の家、最悪、無くなるかもしれないしね。
イトリは繊細にデコレーションした■■をかじる。唇から滴る赤を舐めとると、彼女は綺麗に笑った。


「……白鳩に何か掴まれたの?」
「うふふ、そうね。でも、うーさんには関係ないでしょ?ラッキーじゃない。一番、邪魔なライバルが勝手に消えてくれるかもしれないんだから。」
「…」
「ね、アタシはうーさんの味方よ。それにヒカルちゃんの事も好きだし。アタシはうーさんとヒカルちゃんがラブラブするのを応援してるのよ?」


私達(ピエロ)はこの件に関しては無関係。少し事が大きくなるかもしれないけど手出しはしない。
イトリの皿から■■を一つ摘まんでウタはかじる。
今頃、大人しく寝ているだろうか。用がないのに夜中に家を空けるのは久し振りで自分も冷静でない事をぼんやりと感じた。
距離を置きたいと思ったことはこの二年無かった。

(……さて、どうしたものかな。)

自分にとって何かを切り捨てるのは簡単だ。
優先順位は実にシンプルに決まっている。
ただ、彼女にそれを強いるのは躊躇われた。

もう泣くところは見たくない。
彼女は近しい者達にあまりに優しい人間だ、

―――お帰りなさい、ウタさん。

穏やかに笑うヒカルが彼は好きだった。
――――――――――――
2017 01 30

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