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22


ゆるゆると雲が月明かりを隠しては過ぎる。
都内の雑居ビルの屋上で月山習は金木研をあんていくに行かせまいと対峙していた。少し前からこうなる事は予想していた。
入ってくる情報からどうにか出来ないものかとあらゆる手を考え抜いたが、CCGの大部隊を相手取るにはこちらには荷が重すぎた。
数ではどう足掻いても敵わない。
加えて、あの有馬貴将が出てきたとあっては煙にもまけずこの事態の終息は最早絶望的だった。


「カネキくん、君も分かっているだろう。もうあんていくは駄目だ。あの数が目に入らないかい?」
「…分かってます。でも、それでも僕は行かなきゃいけない。」
「ヒカルさんはどうするんだ?あの人は君の無事を祈る事しか出来ない弱い女性だよ。君はたった一人の肉親を残して命を捨てに行くと?」
「…月山さん。僕は死にに行くんじゃありません。ただ、もう何も出来ないのが嫌なんです。」


それに…姉さんには貴方がいる。
少し、悔しいけど。

にわかにそう寂しそうに笑った金木研に、月山は口を噤む。そんな事はない。確かに彼女は随分心を開いてくれたが、やはり金木研が一番だ。

どう足掻いても家族が一番なのだ。
解っている。
解っていないのは、当事者の君だよ。
カネキくん。

だが、彼女への執着心と独占欲がそれを声に出すことを邪魔した。ヒカルは僕のものだ。こんなにこの僕が愛しているのだから。


「…行かないではくれまいか。君が行けば、彼女はきっとまた泣く。僕は君を失いたくないし、彼女を泣かせたくもない。」


金木研はその言葉に少し驚いて、そして笑った。
幸せそうに静かに笑って、夜の街に落ちて行った。

ありがとう、月山さん。

そんな最期みたいな言葉を残していくなんて。全くなんて迷惑で愛しい姉弟。
月山は力なく手すりに触れビル群が織り成す街を眺める。その時、コートの携帯が短く震えた。暗い眼でぼんやり取り出す。表示された名は金木ヒカル。戻ったら彼女の前でうまく振る舞える自信がない。しかし、そんな先を考える余裕は文面を目にして消し飛んだ。

ヒカルさん…?

『習…貴方を愛してる。』

―――嫌な予感がした。
すぐに自宅に電話を掛ける。


「叶――。ああ叶、すぐに僕の部屋を確認しておくれ。」


約束した。帰ったら、一緒に珈琲が飲めるよう準備して待っていると、数時間前彼女は確かに約束した。

きっと彼女は部屋でいる筈。
その筈だ。


「ヒカルさん、言葉だけなんて僕は要らないんだよ…。」


勝手をするなんて許さない。
離れるなんて、許さない。
僕が欲しいのは、目の前で僕を必要として笑う君なんだ。


「…もしそんな君を失う位なら、僕が全部君を食べてやる。」


そうしたらずっと、僕達はふたり一緒だ。
じわじと広がる血のような朝焼け。
彼の白い頬を、涙が一粒こぼれ落ちた。

嗚呼、でも僕は君を殺したくはないんだ。
愛しているよ。愛してる。
――――――――――――
東京喰種、完。
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2015 09 24

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