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19


「姉さんは危機感が足りないよ。」
「…ごめんなさい。」


結局、月山には何となく連絡しづらく、彼女は弟に電話を掛けた。結果、金木研は直ぐにヒカルの処に飛んできてイトリに散々からかわれる嵌めになった。申し訳なさで、ヒカルは少し顔が曇る。
ウタはその様子を見て、息抜きにまた遊びにおいでよと名刺を一枚彼女に渡した。
聞けば彼はマスク屋を営んでいるらしい。

(カネキくんと出掛ける口実になるでしょ?)

彼は大人で、いい人だった。

帰り道、雨は小降りになっていて薄雲から夕日がうっすらと覗いていた。


「姉さん。あの人達はいい人達だけどそれでもやっばり喰種なんだ。」
「…そうね。」
「月山さん家は居づらいの?なら。」
「違う。習はとてもよくしてくれているわ。私が悪かったの。外の空気を吸いたいなら屋敷の庭園だけにしておけば良かったわね。」


久し振りに近くで顔をみるのに言い訳しか出てこない時間に彼女は少し悲しくなった。あんていくの人達は元気にしているかとか話したい事はたくさんあるのに。薫香ちゃんはもう元気になっているのだろうか。月山家に来て以来、会えていない。ヒカルは弟の隣をもやもやとした気持ちのまま歩いた。


「…夕暮れは嫌いだな。」


不意に沈黙を破ったのは金木研の方だった。手を取られ、ヒカルが驚いて研を見遣ると彼は寂しそうに遠くを見ていた。咄嗟に繋いだ手を握り返す。金木研はそれに嬉しそうに笑った。


「…僕にはヒデと姉さんしかいない。ヒデはもう、会えない…けど。思い出すんだ、こんな夕焼けの日は。小さい頃、帰りたくない僕に付き合って暗くなっても一緒に居てくれたヒデの事を。」
「また会えるよ。私とだってこうして会えてる。人間と喰種だって一緒に生きられる筈よ。」
「…姉さんのそういうポジティブさには感心しちゃうよ。」
「だって!そう思わないと、叶う事も叶わないでしょう?」


昔から姉もヒデもそうだった。明るく手を引いてくれる存在。後ろ向きな所があまり無くて側にいると温かくてほっとした。
この人を絶対失いたくない。金木研はそうだね、と彼女に頷いた。


「…研はさ、保育士さんとか向いてそうだね。」
「えぇっ?どうしたの、いきなり…」
「あんていくに小さな女の子いたでしょ。私は話した事ないけど。あの子に会った後の研はいい顔してたなって。」
「そうかな…」
「研は優しいから…人に何かをしてあげる仕事が向いてると思うな。」


普通に暮らしていたら金木研は後、一年足らずで就職活動をしていた筈だ。今となっては夢物語だが、彼の未来を想像して、幸せを願わずにはいられない。どうなろうと、彼女にとって彼はたった一人の家族。視界で揺れる白髪に少し涙が溢れた。


「…あんていくにまた行きたいな…」
「…。僕も。」

「きっとまた一緒に行こうね。約束ね。」


金木研が穏やかな顔で働く姿が、彼女の記憶の片隅でひっそりと光っていた。

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2015 07 18

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