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16


思わぬ所で、彼女との接点を持つ事になった。
本来、自分の勤める職場で関わる事のなかっただろうその女性。会議の終わったCCGの執務室で、亜門鋼太郎は一人頭を抱えていた。
昨年の晩秋に起こったビルからの鉄骨落下事故。篠原が手にしていた資料に記載されていた巻き込まれた二人の被害者の内、一人の少年の姓は「金木」。まさかとは思う。いや、願った。しかし、可能性は捨てきれない。
もし、大食いの少女の臓器を移植され、少年が喰種になっていたとしたら。そして……あの女性の血縁者であったとしたら。


「…自分で調べるか?」


真戸曉の呟きに、亜門は拳を握り締める。行き着いた真実の先で、仮に彼女が在て、弟の存在を隠していたとして。家族を庇うあの女性を、裁く権利があるのだろうか。
沈黙を破ったのは、再び暁の声だった。


「私は調べるぞ。喰種捜査官である以上、職務に私情は挟まない。例え、亜門鋼太郎…お前の思い人を鎖に繋ぐ事になってもな。」
「、そんな関係じゃないと言っているだろう。」
「なら迷うな。すぐに少年の戸籍データを照会するぞ。」


気落ちする亜門を一瞥して真戸暁は部屋を出る。辛辣な物言いをしたものの、彼女とて気の進む案件ではなかった。しかし亜門は大切な仲間であり、心を赦せ始めた数少ない人間だ。
こんな事で惑わせられて、死なれるわけにはいかない。その為なら、あの女性が――もし、金木研の家族であり、こちらの邪魔になるようなら排除も致し方ないと暁は考えていた。

(さて…、私の勘が外れてくれていれば杞憂に終わるのだがな。)

小さく溜め息をついて、彼女は自販機に足を向けた。

金木ヒカル。
その名前の女性は五歳の時に戸籍上は消えていた。金木研の姉は父親との他界後、埼玉の親戚に引き取られ、大きな問題もなく高校、大学と卒業。後に東京の商社に就職。都内へ一人住居を移し、働いていた。―――つい先日迄は。
突然、会社に出されたとされる退職届。家庭の事情で急遽埼玉の実家へ戻るとの理由だったそうだが、実際、戻った形跡はない。彼女も弟同様、この事件に巻き込まれた、と考えても邪推ではないだろう。
金木研とは別々に住んでいたようだが、少なからず交流はあったようだ。
彼のバイトしていたあんていく。その店に彼女は幾度か足を運んでいる形跡があった。

亜門綱太郎と真戸暁は金木ヒカルの住まいになっていたマンションへ向かった。既に引き払われたその部屋は空になっていたが、何となく彼女の雰囲気が残っているような気がした。
呆然とする亜門を置いて、真戸暁は室内を調べ周囲を見渡す。荷物を移した先は不明だった。恐らくこれ以上は追跡しても情報は出てこないだろう。死亡、という事で明るみに出ない所をみると綺麗に全て喰われたか、あるいは何らかの目的で拐われたか。周到に物が処分されている事から後者の方が可能性としては高い。


「…残されたのは…あんていく、のみだが。あちらには篠原特等が向かわれているな。」
「…。」
「本部に戻るぞ。亜門綱太郎。これ以上、此処にいてももう金木ヒカルの足取りは掴めないだろう。」


暁の言葉に亜門は黙っていたが、空の室内に差し込む夕日を見つめてから彼女に続いて退室した。
社用車に乗り込み、記憶の中の金木ヒカルを振り返る。

あの日。名刺を渡した最初の日。
顔色の悪かった彼女の前に座って話を聞けば良かった。
二度目にあった洋菓子屋で、食事にでも誘えば良かった。
失礼します、そう告げて笑顔で背中を向けた彼女を、放って置かなければ彼女を守れたかもしれないと思うと悔やみきれなかった。


「…暁。俺は…――。」
「だから、言っただろう。…分かっていると思うが、今後、彼女と会う事があれば金木ヒカルは捕獲対象だ。決して、気を赦すな。」


彼女もまた…もう、人間ではないかもしれん。
―――――――――――
2015 04 13

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